ナッジ理論をビジネスで活用するメリット
そもそもナッジは、金銭的インセンティブや罰則を用いず、相手の意思決定の癖を利用してそっと後押しするように行動変容を促すものだ。ビジネスの現場で活用すれば、消費者や取引先、従業員の行動を良い方向に変えるだけでなく、低コスト、下手な指導によるパワハラを避けられるといったメリットも期待できそうだ。
マーケティングや長時間労働防止、人材育成などさまざまなシーンで活用してみてはいかがだろうか。
ビジネス現場でナッジ理論を活用する際のポイント
マーケティングや長時間労働防止、人材育成セミナーなど対象が誰であれ、POPやチラシ、ビジネス資料を作成し、相手に情報を伝え、その情報で相手の行動を促すのが一般的だ。そのような資料を、ナッジ理論をもとに以下に挙げるようなポイントに注意しながら作成するとよいだろう。
- 選択肢を少なくするか、または選択の方法を簡単にする(Easy)
- 損をする情報を与えて行動を促す(Attractive)
- 周囲の人の行動を指標として与える(Social)
- 適切なタイミングで情報を与える(Timely)
これにより伝えたい内容や目的がはっきりして分かりやすくなり、行動する側のフットワークも軽くなる。
ナッジ作りのプロセス
ナッジ理論をビジネスの現場で活用し、人々の行動をより良い方向に誘導するためには、ナッジそのものが良いものであることが大切だ。ここでは、ナッジ作りのプロセスを紹介していく。
ナッジ設計のプロセスフロー「BASIC」
「BASIC」はOECD(経済協力開発機構)が提案するナッジを設計するためのプロセスフローの一つである。まずは、以下の5つの基本をもとにナッジを作成してみるといいだろう。
1 Behaviour (行動)
行動の観点で政策課題の重要な側面を見つけて標的にする
2 Analysis(分析)
標的にした行動を行動科学のレンズで徹底的に調べる
3 Strategy(戦略)
行動を活用した解決策を見つけて構想を練る
4 Intervention(介入)
実験をデザインして効果を検証する
5 Change(変化)
施策の実施、横展開、監視、評価、維持管理、結果の普及について計画を立てる
参考:THE BASIC TOOLKIT(OECD)
ナッジ理論の枠組み「EAST」とは?
EASTは、もともと英国内閣が法律、税金、財政の分野に行動経済学を応用するために考え出された。その後さまざまな修正を経て、現在ナッジ理論を実践するためのフレームワークになっている。前述した資料作りの例でもEASTを活用している。EASTは4つの実践プロセスの頭文字である。ここでそれぞれのプロセスを順番に解説しよう。
①Easy(簡単であること)
まずは行動の難易度を下げることが重要である。相手に伝えるメッセージはシンプルに、作業の手間は可能な限り少なくなるように心がける。また、意思決定の過程や選択肢を減らすと、ナッジの効果を高めることが可能になる。
②Attractive(魅力的なこと)
得をすることと損をすることでは、どうやら損をすることのほうのインパクトが強いらしい。つまり人は自然に、損を避ける方向で選択肢を選ぶのである。今までに無償で受け取れていたものが、ある時を境にもらえなくなるような損失感が、ナッジでは重要な要素になるのである。
③Social(社会性があること)
社会的な行動だという意識が働くと、人は望ましい方向に進むという傾向がある。また、他者とは異なる行動をとっていると認識させることにより、他者と同じ行動へと相手を誘導することも可能だ。
④Timely(時宜にかなっていること)
ナッジを実践するには、タイミングも非常に重要である。相手に情報を伝える場合でも、タイミングを逃すと行動を促すことはできない。ナッジでは、積極的にタイミングを作り出すことも重要視される。