本記事は、安藤広大氏の著書『数値化の鬼 ーー 「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法』(ダイヤモンド社)の中から一部を抜粋・編集しています
「確率のワナ」に注意しよう
社会人1年目でも、転職して1年目でも、「入社してからずっとやる気のない人」は滅多にいません。
みんな、やる気に満ち溢れて、ワクワクして入社してきます。
今の会社の人たちを見回してみてください。40代や50代で社内でも何をやっているかわからない人がいるかもしれませんが、彼らだって同じです。
成長することを信じていたのに、どこかでボタンが掛け違い、何かのタイミングで「伸び悩む人」になっていってしまったのです。
これを、個人のやる気の問題にするのは簡単です。
「自己責任だ」と言ってしまうのは誰にでもできる。
しかし、識学を扱う私から見ると、どうも「仕組み」の問題に思えて仕方ないのです。いわゆる「働かないおじさん」問題も、「数値化」によって言い表すことができます。「行動量」を無にしてしまうもの、その正体とはいったい何でしょうか。
●「失敗」が怖くなってしまう数値化のクセ
「プレーヤーは、とにかく数をこなすことを考えるべきだ」
そのように説明しました。
そこから20代後半、30代、40代にかけて、今度はどんな考え方の変化がおとずれるでしょうか。
仕事には徐々に慣れていきます。すると、「今年も去年と同じことの繰り返しだな」と感じるタイミングがやってきます。
さらに毎年、新卒などで新しく入社してくる若手が増えていきます。
彼らの中には、「あの先輩を追い越したい」という思いがあるはずです。
その目を気にしてしまうと、「失敗する姿を見せたくない」という感情が出てくるでしょう。
そこでやってしまうのが、「確率」の考えなのです。
行動量を増やすために足し算や掛け算をしていた人が、今度は「割り算」をします。
達成率、契約率、成功率など、「%(率)」にこだわるようになります。
これが、非常に厄介な数字なのです。
●「確率では勝ってる」という自己評価
成約率80%の人と、成約率50%の人がいるとします。
どちらのほうがすごいと思いますか?
おそらく、前者のほうを選ぶかもしれません。
しかし、それが誤解の始まりです。
成約率80%の人が、10件中8件の契約を取ってきていたとしましょう。
一方で、成約率50%の人は、50件中25件を取っていたとします。
いかがでしょうか。
これでも、前者のほうが優秀だと思うでしょうか。
この場合は、後者のほうが評価されなくてはいけません。
いくら「確率では勝ってる」と言っても、8件と25件では、その差が倍です。
こうした誤解を生む数値化によって安心してしまう中堅プレーヤーが、ものすごく多くいます。
量をこなすと、次は、質にこだわるのは当然でしょう。
そのこと自体は問題ではありません。
しかし、「量」よりも「質」が上回り、「質を上げること」が目的になってしまうことは大問題です。
あくまで「行動量ファースト」であり、それをキープしたまま「確率も上げていく」というのが正しい順番です。
この順番を間違えてしまうのが、「働かないおじさん」への第一歩なのです。
●出世しておかないと「評論家」になってしまう
これは、ものづくりの場でも同じことが起こります。
若手の頃はたくさん量をこなしていた人が、急に数をこなすことをやめるケースがあります。それは、先ほども書いたように、「失敗すること」が恥ずかしくなってくるからです。
たくさん数をこなしていると、そのうち、どんな仕事でもカンどころがわかってきます。すると、「これは失敗するな」というアンテナが反応することが増えます。
「あれはやめたほうがいい」
「このパターンは失敗する」
など、失敗に対する情報がより集まるようになります。
その先に待っているのは、「評論家」です。
若手や上司のやることに対して、「どうせうまくいかない」「あのパターンはダメだ」というふうに、評論家のポジションを取るようになってしまいます。
人間の脳は、「うまくいく可能性」より「失敗する可能性」のほうに重要度を高く認識します。
1万円をもらえる喜びより、持っている1万円を失う痛みのほうが大きいのです。
つまり、なんとなく仕事をやっている限り、「評論家にならざるを得ない」のです。
それを避けるために、プレーヤーは次のステージとして、出世をして管理職になります。
教える側に立ち、部下の結果に責任を持つ代わりに、「自分の行動量」を「チームの行動量」へとシフトしていきます。
しかし、出世できなかったとしたら、どうでしょう。「評論家のようなプレーヤー」になるしかありません。「働かないおじさん」は、こうやって生み出されるのです。
そうならないためには、確率の誘惑に打ち勝つことです。
確率のことばかりを考えない勇気を持ちましょう。
プレーヤーでいる限り、あなたが何歳であっても、重要なのは「行動量」です。
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