不動産投資の知識の中で「デッドクロス」は、理解しにくいテーマの一つです。しかしデッドクロスを理解しないまま物件を購入すると将来の収支が悪化する可能性があります。ここでは、初心者向きにデッドクロスの意味やデッドクロスが起きる仕組み、効果的な対策などをわかりやすく解説します。

目次

  1. デッドクロスとは?デッドクロスはなぜ理解しにくい?
    1. 元金返済額とは?
    2. 減価償却費(法定耐用年数)とは?
  2. 物件購入〜デッドクロスが起こるまでの流れ
  3. 不動産投資のデッドクロスはいつ起こる?
  4. デッドクロスを先送りするための3つの効果的な対策
    1. 対策1.購入前に収支シミュレーションをする
    2. 対策2.ローンの総額を抑える
    3. 対策3.キャッシュをストックする
  5. 「デッドクロス=即売却」とは限らない

デッドクロスとは?デッドクロスはなぜ理解しにくい?

不動産投資のデッドクロス 効果的な対策も含めてわかりやすく解説
(画像=sum41/stock.adobe.com)

はじめにデッドクロスについての一般的な解説を確認してみましょう。不動産投資の初心者の場合、以下のようなデッドクロスの解説を読んだだけでは理解しにくいのではないでしょうか。

<デッドクロスのよくある解説>

デッドクロスとは、金融機関のローンで物件を購入したとき、あるタイミングで収支が悪化することです。具体的には、ローンの元金返済額が減価償却費を上回るタイミングを指します。デッドクロスになると例えば黒字経営なのにキャッシュフロー(実際の現金の流れ)が厳しくなるようなことが起こりやすくなります。

そのためこのフェーズに入ると売却処分を視野に入れながら賃貸経営をしていくことが必要です。

上の説明で引っかかりやすい箇所は「デッドクロス=元金返済額が減価償却費を上回るタイミング」という部分です。そもそも「元金返済額」と「減価償却費」というキーワードの意味をしっかり押さえていないとデッドクロスが理解できません。まずは、2つのキーワードをおさらいしてみましょう。

元金返済額とは?

金融機関へのローン返済額のうち借入金利息以外の部分(元本や元金)です。返済方法には、以下の2つがあります。

  • 元利均等返済:毎月決まった金額(元金+利息)を返済。返済が進むと元金の返済比率が高まる
  • 元金均等返済:毎月決まった元金と利息を返済。返済が進むと毎月の返済額が少なくなる

それぞれの返済方法に次のメリット・デメリットがあるため、自分に合うほうを選びましょう。

返済方式メリットデメリット
元利均等返済額が一定なので計画を立てやすい元金均等に比べて総支払い利息額が多くなりやすい
元金均等返済が進むにつれて返済負担が軽くなる返済当初は返済負担が重い

減価償却費(法定耐用年数)とは?

不動産投資における減価償却とは、建物などの購入代金を国税庁が定めている法定耐用年数に沿って毎年分けて減価償却費として経費計上していくことです。賃貸経営の主な減価償却費には「建物」と「住宅付属設備(以下、住宅設備)」の2種類がありそれぞれに法定耐用年数(減価償却期間)が異なります。

建物構造ごとに耐用年数が違う
 ・木造:22年
 ・鉄筋コンクリート造:47年
 ・軽量鉄骨造:19年または27年
 ・重量鉄骨:34年
住宅設備15年

また中古物件の場合は、以下の公式にあてはめて法定耐用年数を見積もります。

法定耐用年数の経過前法定耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×0.2)
法定耐用年数の経過後法定耐用年数=法定耐用年数× 0.2

物件購入〜デッドクロスが起こるまでの流れ

元金返済額と減価償却費との内容がわかるとデッドクロスを理解しやすくなります。まず物件を購入した直後は、経費として「借入金利息」と「減価償却費」の両方を計上できる状況です。しかし一定の年数が経つと状況が変わってきます。例えば借入金の返済方法で「元利均等」を選んだ場合、借入金利息が徐々に減っていき元金返済額の割合が高まるのが特徴です。

一方の減価償却費も法定耐用年数が経過すると経費計上できる額が減るタイミングがやってきます。この状態が進むと元金返済額が減価償却費を上回るデッドクロスとなるのです。特に深刻な影響を受けるのは、黒字経営をしている賃貸経営オーナーでしょう。なぜなら「計上できる経費が減る」ということは「利益が増える=所得税が増える」ことを示すからです。

また「デッドクロス」と「住宅設備交換や大規模修繕」のタイミングがかぶると資金繰りが急速に悪化するケースもあります。

不動産投資のデッドクロスはいつ起こる?

不動産投資の初心者のよくある疑問に「デッドクロスがいつ起こるか」があります。デッドクロスの発生タイミングについては、以下の項目が関係してくるため、まさにケースバイケースです。

【物件の状況】

  • 購入価格
  • 構造(耐用年数)
  • 築年数 など

【ローンの状況】

  • 借入金総額
  • 自己資金(頭金)の割合
  • 返済期間
  • 金利
  • 元利均等、元金均等のどちらか など

一般的には、購入した建物の法定耐用年数が長く自己資金の割合が高いほどデッドクロスを先送りすることができます。

デッドクロスを先送りするための3つの効果的な対策

不動産投資のデッドクロスを先送りする手段はいくつかありますが、特に効果的な対策は以下の3つです。

対策1.購入前に収支シミュレーションをする

デッドクロス対策で大事なことは、物件購入の前に収支シミュレーションをしっかりと行うことです。ただ自分だけで丁寧に収支シミュレーションを行うことは難しいため、税理士や不動産会社にサポートしてもらいながら実行しましょう。また収支シミュレーションは、デッドクロスのタイミングを割り出すだけでなく大規模修繕や住宅設備交換の時期などを含めて行うのが理想的です。

これにより以下の内容を事前に把握することができます。

  • デッドクロスがどのタイミングで発生するか?
  • 大規模修繕や住宅設備交換に向けてキャッシュをどれくらい積み上げる必要があるか?
  • デッドクロス後、どのタイミングで売却するとよいか?  など

対策2.ローンの総額を抑える

デッドクロスは、金融機関のローンを利用して物件を買ったときだけに起こります。なぜなら「元金返済額が減価償却費を上回るタイミング」がデッドクロスとなるからです。もし物件をキャッシュで買った場合は、元金返済自体がないため、デッドクロスは発生しません。しかしデッドクロスを意識し過ぎてローンを活用せず物件を購入してしまうと手元資金を効率的に使えない点はデメリットです。

現実的には、ある程度の頭金(初期費用)を入れてローン総額を抑えながらデッドクロスを先送りにするのが有効といえるでしょう。

対策3.キャッシュをストックする

繰上返済もデッドクロスの先送りに有効な方法の一つです。特に物件の購入から間もない時期は、繰上返済がしやすい時期といえるでしょう。なぜなら初期費用や減価償却費、借入金利息などの経費を計上しやすく潤沢なキャッシュフローを得やすいからです。もちろん購入直後に潤沢なキャッシュフローを得られるかは物件によって異なります。

不動産投資で有利な時期にキャッシュをしっかりとストックしておき、段階的に繰上返済を行えばデッドクロスを先送りすることが可能です。また繰上返済をしなくても手元に十分なキャッシュがあれば、たとえデッドクロスが起こっても資金繰りが苦しくなることもないでしょう。

「デッドクロス=即売却」とは限らない

本記事では、不動産投資のデッドクロスについて解説してきました。内容をおさらいしてみましょう。不動産投資における デッドクロスとは「元金返済額が減価償却費を上回るタイミング」のことです。デッドクロスを意識せずに賃貸経営をしてしまうと所得税の増加などによりキャッシュフローが悪化する可能性があります。

このような事態を避けるためにも検討している(または所有している)物件のデッドクロスが「いつ起こるのか」「対策は何か」を事前に把握しておくことが必要です。デッドクロスが「いつ起こるか」は、物件やローンの状況によってケースバイケースといえるでしょう。また主なデッドクロスの対策としては、以下の3つです。

  1. 物件を購入する前に収支シミュレーションをする
  2. 借入金の総額を抑える
  3. キャッシュをストックする

「デッドクロス後=物件を売却すべき」と考える人もいるようですがこれは勘違いです。たしかにデッドクロス後に売却したほうがよいケースもあります。しかし物件や資産の状況によっては、デッドクロス後も所有し続けたほうがよいケースもあるのです。どのような選択がベストかは難しい判断になるため、不動産投資に強い税理士のアドバイスなどを参考にしながら判断することをおすすめします。

(提供:YANUSY

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