土地建物の売買契約書に取得価額の内訳金額が記載されていないと問題になるケースがあります。なぜなら税金を計算する際に土地と建物の取得価額を分けて計算する必要があるからです。どのように土地建物を按分すれば節税になり按分にはどのような方法があるのかでしょうか。本稿では、具体的な計算例を交えて確認します。

目次

  1. 土地建物の按分とは
  2. 土地建物の按分が問題になるのはどういうケース?
    1. 消費税を計算する場合
    2. 減価償却をする場合
  3. 土地建物の按分はどのように決めるのか
  4. 土地建物の按分で節税するには
  5. 土地建物の按分方法でどれを選べばよいか
  6. 土地建物の按分が否認されるケースもある
  7. 土地建物の按分の具体的計算例

土地建物の按分とは

土地建物の按分はどのように決める?問題になる場合とは
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

土地付き建物を購入した場合、売買契約書に土地建物のそれぞれの取得価額が明記されていないことがあります。不動産の販売広告にも販売価格は記載されていますが土地建物価額の内訳は記載されていないことが多い傾向です。後述しますが土地建物価額の内訳が不明のままだと税金の計算で問題になるケースが生じます。

そこで土地と建物の取得価額を区別するために必要なのが「土地建物の按分」です。按分の比率によって売主と買主の税負担に影響が出るため、慎重に行う必要があります。

土地建物の按分が問題になるのはどういうケース?

土地建物の按分が問題になるのは、どのようなケースがあるのでしょうか。主に次の2つの問題があります。いずれも税金に影響を与える問題となるため、売主と買主でトラブルにならないように按分することが必要です。

消費税を計算する場合

土地と建物のうち消費税がかかるのは、建物部分だけです。土地は、劣化しないとみなされているため、消費税はかかりません。しかし建物は、経年劣化し消費するものとみなされるため、消費税が課税されます。建物にかかる消費税を納税する義務は売主にあり正確に消費税を計算するためにも按分することが必要です。

減価償却をする場合

上記の消費税と同じ理由から土地は価値が落ちることがないので減価償却する必要がありません。減価償却とは、建物のように経年によって劣化していく資産を年ごとに残存価値を減らしていく税務上の手続きのことをいいます。買主は土地と建物のうち、建物のみを減価償却するため、正確な価格の内訳が必要です。

土地建物の按分はどのように決めるのか

国税庁によると、建物の部分のみ課税されますが、一括で土地と建物を譲渡した場合、譲渡代金を按分方法として、主に3つあります。

  1. 譲渡した際、土地及び建物のそれぞれの時価の比率による按分
  2. 相続税や固定資産税の評価額を基にした按分
  3. 取得費や造成費、一般管理費等を含む土地や建物の原価を基にした按分 など

自分で譲渡代金を按分する方法を選ぶことができますが、その方法は客観的な数値に基づく合理的な内容でなければなりません。合理的な主な按分方法として以下の6つの方法があります。

売買契約書に消費税の記載がある場合・「消費税の金額」を基に建物の価額を計算し、残りを土地の価額とする
消費税の記載がない場合・「相続税評価額」の比率によって購入価額を按分し、取得価額とする
・「固定資産税評価額」の比率によって購入価額を按分し、取得価額とする
・「不動産鑑定士による鑑定評価額」の比率によって購入価額を按分し、取得価額とする
内訳金額も時価も明確でない場合・「建物の標準的な建築価額表」などを基にして建物の価額を先に計算し、残りを土地の価額とする
・「土地の公示価格や路線価額」などを基にして土地の価額を先に計算し、残りを建物の価額とする

土地建物の按分で節税するには

不動産を購入するとさまざまな税負担が発生します。そのため少しでも税金負担を減らしたいのが買主の思うところでしょう。不動産を購入して土地建物の按分で節税するには、建物価額をなるべく多く計上することが必要です。建物価額は、減価償却できるため、按分比率が高いほど多くの金額を経費にできます。

また消費税の課税業者であれば仕入れ税額控除が大きくなるため、節税につながるでしょう。ただし按分には、合理的な方法や数値によることが求められるため、自分の主観だけで都合よく決めることはできません。上述した6つの按分方法を比較しそのなかから最も有利な方法を選ぶことで節税効果を高めることが期待できます。

土地建物の按分方法でどれを選べばよいか

土地建物の按分方法のうち売主と買主が納得しやすいのが固定資産税評価額を利用して按分する方法です。固定資産税評価額は、市区町村が定めた公的な価額で私的利害が入らないため、トラブルになりにくい妥当な評価基準といえます。国税庁もホームページ(No.6301 課税標準)で固定資産税の評価額を基にした建物にかかる費用が区分されていないときの計算方法で算出した按分を推奨しています。

土地建物の按分で注意しなければいけないのは、売主または買主のどちらかに極端に有利な按分にしないことです。売主は、消費税の納税義務があるため、建物の割合を低くしたいと考えます。一方買主は、消費税を納税したあと仕入れ税額控除できるため、建物価格を高くしてなるべく多く還付を受けようと考えるでしょう。両社の利害が反するため、極端に按分が偏るとトラブルになる恐れがあるのです。

土地建物の按分が否認されるケースもある

まれに土地建物の按分が裁判で否認されるケースもあります。実際にあった例では、固定資産税評価額が約2億1,100万円する土地でありながら、総額約1億2,400万円のうち土地を6,500万円と著しく低く算定し建物価額を高く計上したため、裁判で認められませんでした。(那覇地裁、平成20年8月6日判決)

この判例は、法人が購入した土地建物の按分に対する判断ですが個人でも客観性を欠いた按分比率にすると税務署に認められない可能性もあるため、注意が必要です。さらに同判例では、按分価格に対して売主の明確な合意を得ていなかったことも問題になりました。やはり土地建物の按分は、売主も納得する金額にしきちんと合意を得ておくことが必要です。

土地建物の按分の具体的計算例

では、土地建物の按分を具体的計算例で見てみましょう。固定資産税の評価額の比率で按分する場合は、以下のように計算します。

【計算例】

  • 不動産売却時の価格:5,000万円(税込み)
  • 土地の固定資産税の評価額:1,920万円
  • 建物の固定資産税の評価額:1,280万円(消費税率10%)

(1)建物割合の計算
はじめに土地建物それぞれの固定資産税の評価額から建物の割合を算出します。

  • 建物の固定資産税評価額÷(土地と建物の固定資産税評価額の合計)=建物割合
    →1,280万円÷3,200万円=40%(建物割合)

(2)土地割合の計算
次に土地の割合を計算しますが合計額から建物比率を差し引いた比率が土地割合です。

  • 100%-40%(建物割合)=60%(土地割合)

(3)消費税の計算
消費税は、建物部分のみかかるため、建物割合に消費税率を加算して消費税込みの建物割合を計算します。

  • 建物割合×(1+消費税率)=消費税込みの建物割合
    →40%×1.1=44%(消費税込みの建物割合)

消費税込みの価格から消費税抜きの価格を割り出す場合の計算式は、以下の通りです。単純計算なら消費税は10%ですが、土地は非課税のため建物割合に応じた消費税4%を加算し建物割合を44%として計算します。

(1)土地割合に消費税込みの建物割合を足して消費税込み金額の割合を計算します。

  • 60%+44%=104%(消費税込みの売却金額の割合)

(2)「消費税込みの売却金額×(100÷消費税込みの売却金額の割合)」の計算式で消費税抜きの売却金額を計算します。

  • 5,000万円×(100÷104)=約4,808万円(税抜価格)

逆に税抜価格のみ表示されている場合は、消費税込み金額の割合をかければ税込価格を計算できます。

  • 約4,808万円×104%=約5,000万円(税込価格)

不動産は、高額な商品となるため、かかる税金も大きくなります。土地建物の按分は、売主と買主の双方が納得して取引するために必要な作業です。問題になるケースを把握し客観的な数字を基にした妥当な按分価額に設定しスムーズな売買を行うことが求められます。

(提供:YANUSY

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