コングロマリット化には注意すべきデメリットも
コングロマリット化には前述のメリットがある一方で、注意すべきデメリットやリスクも潜んでいる。特に以下で挙げる点は、経営面に深刻な影響を及ぼす恐れがあるので注意しておきたい。
1.コミュニケーションや連携が難しくなる
コングロマリット化によってグループが拡大しすぎると、会社間のコミュニケーションや連携が難しくなる恐れがある。このような状況下では、前述のシナジー効果が発揮されにくくなるため注意が必要だ。
特にM&Aによってコングロマリット化を進める場合は(※コングロマリット型M&Aと呼ばれる)、専門的な事業や人材を取り込むケースが多いので、どうしても各企業の独立性が高くなってしまう。各社のコミュニケーションや連携をうまく図るには、事前にM&Aや合併などによる影響を見据えた上で、慎重に統合作業を進める必要があるだろう。
2.コーポレートガバナンスが低下しやすい
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業の経営体制を管理・監督する仕組みのこと。コングロマリット化によってグループが拡大すると、各社の経営を細かく管理・監督することが難しくなるため、以下のような弊害が生じる恐れがある。
・子会社で不正会計が発生する
・グループ全体の品質が低下する
・情報漏えいが発生する
上記はいずれも深刻なリスクであるため、M&Aや合併の後にはコストをかけてでもコーポレートガバナンスの維持向上を意識しなければならない。
3.コングロマリット・ディスカウントが生じることも
コングロマリット化によって複数の事業を展開すると、コア事業に経営資源を集中させることが難しくなる。その影響で競争力が低下すれば、市場や投資家からの評価は下がり、最終的には株価も下落してしまうだろう(=資金調達が難しくなる)。
このような状態は「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれており、コングロマリット化においては特に注意すべきリスクといわれている。
短期的な成長や事業再編、海外進出などを目指す企業にとって、コングロマリット化は貴重な経営戦略となり得る。ただし、コングロマリット・ディスカウントのように注意すべきデメリットも潜んでいるため、実施前にはその後の影響をしっかりと予測し、万全の対策を立てておくことが必要になる。
日本にはどんなコングロマリット企業がある?
では、日本国内にはどのようなコングロマリット企業が存在するのだろうか。コングロマリット化のヒントをつかむためにも、以下で紹介する事例にも目を通しておこう。
【事例1】ソフトバンクグループ
携帯電話サービスで有名な『ソフトバンクグループ』は、国内の代表的なコングロマリット企業である。同社はグループ傘下に通信会社や電力会社、金融会社などを加えることで、多角的に事業を展開させてきた。
ソフトバンクグループは他社を買収するにあたって、「共に成長すること」を重視している。この方針の通り、同社はこれまで敵対的な買収を仕掛けたことはなく、相手先の同意・了承を得た上でM&Aを実施してきた。
敵対的買収も一つの手段ではあるが、強引にM&Aを進めると友好的な関係は築けなくなるため、協力しながら共に成長を目指すことは難しくなる。
【事例2】楽天グループ
かつてはECモールを中心的な事業としていた『楽天グループ』も、コングロマリット化によって成長を遂げてきた企業だ。同社はさまざまな企業をグループ傘下に加えることで、いまでは保険商品や金融商品、薬製品など多くの商品・サービスを取り扱うようになった。
楽天グループの大きな特徴は、短期間でコングロマリット化を進めてきた点にある。2000年に上場してからは、世間を驚かせるようなスピードでM&Aを進めており、上場後わずか20年で巨大なコングロマリット企業を作り上げた。
この事例のように、時代のニーズや自社事業と相性の良い企業とコングロマリットを形成すれば、どのような企業にも短期間で成長できるチャンスがある。
【事例3】日立製作所
コングロマリット化によるシナジー効果は、思わぬ形で現れることもある。例えば、国内有数の電機メーカーである『日立製作所』は、IT関連会社を取り込むことでグループ内のさまざまな事業をうまく連携させた。
なかでも、IT技術と製造技術を組み合わせたデジタルソリューション事業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する基盤として多方面から注目されている。ほかにも、金融デジタルソリューションやロボティクス・デジタルソリューションなど、同社が展開してきた事業内容は多岐にわたる。
一見すると無関係に思える事業でも、工夫をすればDXやイノベーションなどにつなげられる可能性があるので、コングロマリットの方向性は視野を広げて検討したい。