コンティンジェンシープランの導入事例
ここからは参考になる事例として、日本取引所グループと全日本空輸(ANA)のコンティンジェンシープランを紹介しよう。
事例1.複数のプランで多様なリスクに備える/日本取引所グループ
日本取引所グループは、市場別やサービス別のコンティンジェンシープランを策定することで、さまざまなリスクに対応している。
<日本取引所グループのコンティンジェンシープラン>
1.東証市場における売買に係るコンティンジェンシー・プラン
2.デリバティブ市場における取引に関するコンティンジェンシー・プラン
3.先物・オプション取引に係る特別清算数値等に関するコンティンジェンシー・プラン
4.先物・オプション取引に係る取引最終日に関するコンティンジェンシー・プラン
5.システム障害に伴う取引代行
参考:日本取引所グループ「コンティンジェンシー・プラン」
例えば「東証市場における売買に係るコンティンジェンシー・プラン」では、東証市場の外部インフラや各システムにおける障害を想定し、売買停止の判断基準などがまとめられている。数年おきの改正を繰り返すことで、新たなリスクに対応している点も参考にしたいポイントだ。
複数のコンティンジェンシープランを用意しておくと、緊急時の状況に合わせて対応策を探しやすくなる他、外部のステークホルダーにとっても分かりやすい資料となる。
事例2.細かい時間設定で利用客の安心につなげる/全日本航空
フライトサービスを提供する全日本航空は、システムの不具合や自然災害などを想定した「長時間にわたりお客様を機内でお待たせする場合の対策」を公開している。このコンティンジェンシープランでは、利用客の安全面に配慮することはもちろん、待機時間が4時間を超えないための対策がまとめられている。
参考:全日本航空「長時間にわたりお客様を機内でお待たせする場合の対策(コンティンジェンシープラン) | ANA」
全体的に細かく時間設定をした対応策が多いため、万が一トラブルが発生したとしても、利用客のストレスや不安を抑える効果が期待できる。また、社内できちんとルール整備をしておけば、現場のスタッフも落ち着いて対処できるだろう。
コンティンジェンシープランを策定・運用する際の注意点
上記の手順を守っても、企業の状況次第ではスムーズにコンティンジェンシープランを策定できないことがある。ここからは、策定時に陥りやすい落とし穴と注意点をまとめたので、策定を始める前にしっかりとチェックしておこう。
1.プランの策定がゴールではない
コンティンジェンシープランの策定に力を入れすぎると、なかなか検証や実行までたどり着かないことがある。確かに質の高いプランは必要だが、最終的な目的は策定することではない。
したがって、策定にあまりにも時間がかかりそうな場合は、作成途中のプランを仮運用する方法もひとつの手だ。プランが完成していない状態であっても、実際に運用することで見えてくるポイントは多く存在する。
運用を通して社内に浸透させることも重要になるため、コンティンジェンシープランは策定だけではなく運用にも力を入れていこう。
2.周りからの理解を得られないことも
コンティンジェンシープランは緊急時の「予備計画」であるため、必ずしも役に立つものではない。また、策定時には大きな手間や時間がかかることから、企業によっては周囲からの理解を得られない場合もあるだろう。
このような状況下で策定を進めると、深刻なリスクを見落としたり、十分なレビューを得られなかったりする恐れがある。したがって、コンティンジェンシープランの策定前にはその必要性をしっかりと共有し、社内一丸となって策定できる体制を整えておくことが重要だ。
運用時には従業員からの協力も必要になるため、トップダウン型の企業であっても社内全体の理解はしっかりと得ておこう。
3.定期的な教育や研修が必要になる
深刻なリスクが発生すると、上層部(経営者や上司など)から具体的な指示を出せないこともある。現場スタッフによる判断が必要になる可能性もあるので、コンティンジェンシープランの運用に関しては従業員側の知識も必要だ。
したがって、コンティンジェンシープランを策定した後には、従業員への定期的な教育や研修、リマインダーなども徹底したい。