不動産投資において、減価償却の仕組みを知ることは重要である。なぜなら、減価償却の仕組みを知ることで、節税効果を最大化させることができるからだ。今回は、減価償却の仕組みや実際の計算方法、さらには、減価償却を行う際の注意点についても解説する。
減価償却とは?
減価償却とは、建物などの経年劣化に応じて、その一部を徐々に経費にしていくことをいう。したがって、建物という固定資産を購入した後に、経費として計上する仕組みである。その際、建物などの固定資産については、一気に経費計上できるわけではなく、投資物件として使用している期間中の各年の費用として計上しなければならない。考え方としては、収益物件である建物は、耐用年数を通じて家賃収入という収益の獲得に貢献しているものであり、それに対する費用として、その建物の使用期間中の各年に分けて配分する必要があるということだ。
減価償却の計算方法(償却率、耐用年数)
減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」の2種類が存在する。
ちなみに、固定資産であれば必ず減価償却できるというわけではない。減価償却ができる資産とできない資産があることも覚えておこう。減価償却ができる固定資産は、「業務上で使用している固定資産」および「時間が経つにつれ、劣化する固定資産」の2つに大別される。また、形のあるものを「有形固定資産」といい、形のないものを「無形固定資産」という。
逆に「業務上で使用していない固定資産」や「時間が経っても劣化しない固定資産」は減価償却することはできない。土地が減価償却の対象外となっているのは、この点に由来している。
さらに、減価償却の計算において、定額法および定率法のどちらかを選択することができるが、そのためには、税務署への届け出が必要となっている。もし届け出ない場合は、個人の場合は定額法が適用される。このことを「法定償却方法」と呼ばれることについても覚えておこう。
まず、定額法についてであるが、定額法の特徴は「毎年同じ金額を減価償却していくこと」にある。計算式は以下を用いる。
減価償却費=取得価額×定額法の償却率
この場合の償却率は固定資産の耐用年数によって決まっている。
もう一つの計算方法が「定率法」である。定率法は、「償却費の額が最初の年ほど多く、年が経つにつれ減少していく」点が特徴となっている。定率法の計算式は以下のとおりである。
減価償却費=未償却残高×定率法の償却率
不動産投資における建物関連の耐用年数については、ある程度暗記しておきたい。例えば住宅用建物の場合、鉄筋コンクリート造だと47年、木造だと22年である。また、電気設備や衛生設備、ガス設備については15年、集合郵便受けは10年となっている。
個人と法人で異なる減価償却の考え方
個人と法人では、減価償却の考え方が異なる。個人の場合は「強制償却」であり、法人の場合は「任意償却」である点が大きな違いである。そのため、個人の場合は、減価償却費の全てを費用計上しなければならないが、法人の場合は費用計上するかは自由となっている。
減価償却のシミュレーション
では、減価償却費の計算の流れについて、木造一棟アパート、中古RC(鉄筋コンクリート造)一棟アパート、中古木造一棟アパート(いずれも住宅用)の3つを購入したケースを想定し、それぞれ解説していく。今回の計算では個人経営とし、定額法を用いて行う。
・木造アパート
購入価格(建物部分)5,000万円
法定耐用年数:22年(償却率0.046)
毎年の減価償却費=5,000万円×0.046=230万円
この額を21年間経費計上していくと、22年目は170万円が残ることになり、その年の減価償却費は残存簿価である1円を残した169万9,999円が減価償却費となる。
中古物件の耐用年数を計算する際の注意点
新築物件の耐用年数については法定耐用年数を用いるが、中古物件の場合、その物件が法定耐用年数を超えているものもある。したがって、中古物件の耐用年数は以下の考え方で計算する。この考え方を簡便法というが、中古物件の取得を考えている人は必ず覚えておいてほしい。
1.その物件の耐用年数がまだ残っている場合の耐用年数
その物件の耐用年数から、経過年数を差し引き、さらに経過年数の20%に相当する年数を加えた値
・中古RC一棟アパート(築10年)
購入価格(建物部分):3,000万円
新築時の法定耐用年数:47年
この場合、経過年数が10年であることから、法定耐用年数(47年)−経過年数(10年)+築年数の20%(10年×20%=2年)=39年が耐用年数となる。
計算に用いる法定耐用年数:39年(償却率0.026)
つまり、この場合の減価償却費は3,000万円×0.026=78万円となる。
それ以降の償却方法は上で説明したとおりである。
2.その物件の法定耐用年数を超えているもの
新築時の法定耐用年数×0.2がその物件の耐用年数となる。
・中古木造一棟アパート(築25年)
購入価格:1,500万円(建物部分)
新築時の法定耐用年数:22年
この場合、法定耐用年数を超えた物件であることから、計算に用いる法定耐用年数は22年×0.2=4年(1年未満切り捨て)となり、それに対応する償却率は0.250である。したがって、毎年の減価償却費は以下の計算によって求められる。
1,500万円×0.250=375万円
このように中古物件の場合は、耐用年数と経過年数によって計算方法が異なる点に注意しておきたい。
減価償却費を使いこなすためのポイント
同じ購入価格を想定するならば、1年あたりの償却費が多くとれる物件を購入することが減価償却費を使いこなすポイントとなる。新築物件よりも中古物件、さらに鉄筋コンクリート造よりも木造物件を選ぶことで、耐用年数が短くなり、その分毎年の減価償却費計上額を大きくできる。
また、土地は減価償却の対象とならないことから、購入価格全体のうち建物部分が占める割合が大きい物件を選ぶこともポイントといえるだろう。
減価償却費を使った節税方法
投資物件も高額な買い物であるため、金融機関からの融資を受けて購入する人が多いだろう。その際、借入期間よりも減価償却の期間が短い物件を購入することで、節税効果を高めることができる。なぜなら、融資を受けて購入した際の支払利息は経費として計上できるからである。減価償却費は費用計上できる年数が決まっているが、その年数を上手に活用することが節税効果を大きくすることにつながるといえる。
また、減価償却費は建物付属設備についても行うことが可能である。電気設備やガス設備などは法定耐用年数が15年に設定されているケースが多く、その部分についても減価償却費に含めることで最終的な所得金額を抑え、節税につなげることができる。
減価償却する際の注意点
ここまで述べたように、減価償却費を最大限利用することで、節税効果を大きくすることにつながる。ただ、保有中の節税効果を意識するだけでなく、売却時のことも考えておかなければならない。
保有時の不動産所得は総合課税方式で所得税の計算が行われるが、売却した際の譲渡益は分離課税方式で計算される。この場合、不動産の売却価格に不動産の保有期間に応じて定められた税率が適用されるが、保有期間が5年以下の短期譲渡所得の場合は所得税と住民税を合わせた税率が39.63%(所得税30.63%、住民税9%)であるのに対し、5年超保有していた場合は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)と大幅に下がることになる(所得税には復興特別所得税を含む)。
売却時の節税効果を考えるなら、5年超の保有を前提として物件購入することが大切といえる。
法人と個人の経理処理の違い
減価償却の仕組みを知っておくことで、不動産投資における節税効果を上げることができる。さらに、個人と法人では計上の仕組みが違う点も知っておきたい。
なぜなら、上で述べたとおり個人の場合は「強制償却」であることから、その年の減価償却費は全額計上する必要がある。しかし、法人は「任意償却」のため、その年の減価償却費をいくら計上するかは自由である。その年に計上しなくてもよいし、翌年に繰り越すことも可能だ。このように、個人で不動産投資を行う場合よりもさらに法人の方が節税効果を大きくすることができるといえる。
もし法人化を考えているならば、個人と法人での経理処理の違いもしっかりと理解しておく必要があるだろう。
宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
(提供:manabu不動産投資 )
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