本記事は、美濃部哲也氏の著書『仕事の研究』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

大切なものは目には見えない

目に見えない
(画像=nikkytok/PIXTA)

この言葉は、『星の王子さま』の中に登場する有名なブレーズです。私がこの言葉の真意を知ったのは、学生時代に単身でフランスに2年間住んでいた時のことでした。その地で私は日本人の友達をつくることを頑なに避け、どっぷりとフランスやヨーロッパの学生たちとの生活に身を浸して過ごしました。その当時の経験は、その後の私自身の様々なことに影響を及ぼしています。

ものごとの考え方に大きな影響を与えた人物のひとりが、当時、アンジェカトリック大学で哲学を教えていたテクシエ先生でした。彼は哲学の授業に誰もが知っている文学の一文を使って、私たち留学生にもわかりやすく説明をしてくれました。

「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。肝心なことは、目に見えないんだよ」(On ne voit bien qu'avec le coeur. L'essentiel est invisible pour les yeux. -Antoine de Saint-Exupéry)

テクシエ先生の話を聞いて、その意味の深さを知るようになりました。彼曰く、「心で見るというのは、言葉ではなくて行動を想像するということ。つまり、目の前にいる人がしたこと、していること、これからするであろうことを想像する。そして、目の前にいる人と関係のある人の行動を想像するということである」という、とても深く、広いことだったのです。フランスでは「想像する」ことがとても大切だということを知っていくわけなのです。

それからずーっと、事あるごとに大切なことは心でしか見えないんだな、ということに遭遇していくのですが、私の人生観が変わった出来事がもう一つありました。

2005年夏、私は数百名の社員とそのご家族と共に沖縄にいました。当時、ハウスウエディングという、結婚式の新しい市場を日本全国に創っていったベンチャー企業のテイクアンドギヴ・ニーズ社で、創業者の側近のひとりとして休む間も惜しんでで仕事に没頭していました。

ある日、「支配人やウエディングプランナーは、土日が休めないから、家族とか恋人と一緒に花火大会とか行けないんだよ。花火、見せてあげたい。」という話になり、社員とその家族の皆で1泊2日をかけて沖縄に行くことになりました。

沖縄のホテルに着くと、経営メンバーはじめ幹部社員は、日本各地から続々と到着する社員と家族をロビーでお出迎えするわけです。私には当時、年に4日しか夕食を共にしていなかったのに文句一つ言わないで支えてくれた妻がいて、そんな妻と二人で皆を出迎えました。

「主人がいつもお世話になっています。美濃部さんのことは主人からよく聞いています。本当にいつもありがとうございます。」私たち夫婦の目の前に現れるのは、支配人やウエディングプランナーの奥さんや旦那さん、そして、小さなお子さんたち。もちろん初対面のご家族がほとんどです。「いえいえ、〇〇さんは、いつも本当に頑張ってくれていて、本当にありがとうございます。」と私。

こんなやりとりが、数十ものご家族と続きました。当の本人といえば、仕事では見せないような照れている表情の人もいれば、満面の笑みの人もいる。普段は見られないような幸せなそう表情をした本人たちと、「いつも主人が、妻が、お父さんが、お母さんが、お世話になっています」と言ってくれるご家族。

当時35歳だった私は、マネジメントやリーダーシップのことを頭ではなんとなく解ったつもりでいましたが、本当は全然解っていなかったということを痛烈に感じた瞬間でした。奥さん(旦那さん)やかわいいお子さんのことも考えて皆に接することができていただろうか? その人の将来だけでなく、ご家族のことやご家族の暮らしや将来のことも想像できていただろうか?

新卒で入社した電通で優秀な先輩たちに感化されて育った私は、30歳で当時100名程度だったサイバーエージェントにジョインしました。そこで初めてリーダーという立場になった私は、当時の私を知る人の回想によると「戦死者を出してもチームを必ず勝利に導くタイプのリーダーだった」という感じでした。結果を残すことはできていましたが、大切なものが見えていなく、まだまだ未熟でした。

30代前半の私は、鋭い切れ味と圧倒的な熱量で仕事を遂行していくスタイルでしたが、そうではない在り方の大切さを沖縄のホテルのロビーで感じていました。その夜のビーチで妻と仲間とその家族のみんなで何百発もの花火を見ながら思い出していたのが、あのフレーズでした。「肝心なことは、目に見えないんだよ。心で見なくちゃ、物事はよく見えないってことさ。」

仕事の法則
目で見える人やことの先に存在する人の気持ちを想像する

言葉ではなく、行動を信じる

経営者や仕事のできる人の中に、「ポジティブに考えて、ネガティブに動く」ということを口にする方が少なからずいます。「言葉ではなく、行動を信じる」ということも、それに近い感覚かもしれません。

言葉は、事実と異なったり、少しずれがあったり、そして、それを伝える人の感覚で解釈されたりします。

また、自分への戒めも込めて言うと、言葉なんかで宣言しても意味がなく、行動と結果で示さないといけません。信用を積み上げるには、行動と結果を積み上げることが一番の近道です。

実際の仕事や暮らしの中で、ついつい、誰かが言ったことや言っていることを信じてしまうこともあります。言葉を信じるというのは、気持ちが良いことですよね。しかし、それが仇となることがあります。後から、「言葉を信じたのが馬鹿だった」といった思いをしたことが、私の経験で幾度もありました。

たとえば、採用面接。特に、中途採用の面接での「〇〇〇をやりました」「社内で表彰されました」といった類の自己PRには危険が潜んでいることもあります。

面接では、職務経歴に書かれていることは大枠で話してくれますし、志望動機を聞くと「御社の事業に魅力を感じ、それを伸ばしていくことを一緒にやっていきたい」といった感じの耳障りの良いことを話してくれます。そして最後には、「自分の経験を活かして、御社の事業に貢献できるよう頑張ります」という感じで気持ちよく面接が終わっていきます。

人材採用領域などでのプロフェッショナルで、10年以上にわたり懇意にさせていただいている森本千賀子さんから教えていただいたことがあります。その教えをもとに面接をすると、ミスマッチが起こりにくくなり、信じることが外れないようになっていきました。

それは、「職務経歴に関しては、ただ関わっただけのことを自分がやったというように表現する人が多い」「だから、本当に本人がやったかどうかは、当時のことを具体的に話してもらい、本人はどんな気持ちでやっていたか、細かな日付や数字や固有名詞が会話から出てくるか、という視点で話を聞いていく」「その細部が出てくれば、本当に自身が当事者意識でやったと捉えても大丈夫」といった内容です。要は、行動描写がされていれば、信じられるということなのです。

テイクアンドギヴ・ニーズ社で仕事をしていた際に、マーケティングコミュニケーションのデジタル化を強化したいと考えて、中途採用をすることにした時のことです。肝入りの採用だったので、一次面接から事業全体の責任者をしていた私が一次面接をして、1回の面接で意思決定するというやり方をしていました。少し猫背な感じで、低めの声で話す彼は、職務経歴を簡単に話した後、面接開始から3分も経たないうちに、「企画書をつくってきたんですが、その内容をここでお話しても構わないでしょうか?」と。「なんだかおもしろい感じ」と思った私は、「もちろんです」と答えると、彼は私に企画書を差し出し、淡々と話し始めていったのです。

「言葉ではなくて、行動を信じる」ということを大切にするようになっていた私は、第一印象が良いという感じでは決してなかった彼でしたが、シャットダウンすることをせずに、彼のとった行動や、そもそも面接の場でプレゼンをし出すということの意味を受け取っていました。その行動を信じたいと思いました。45分後には彼と握手をしながら「1カ月後に入社してもらえませんか」と言っていました。そんな出会いが、今はラクスル社でCMOとして大活躍をしている田部さんとの出会い方でした。

最後に一つ。「頑張ります」という言葉には、意味があるようで、中身はありません。もちろん、結果を残す実績を積み上げている人の「頑張ります」には、絶大な意味があると思います。なぜなら、そういった人の「頑張ります」は、「結果を出せるまで頑張ります」という誓いだからです。行動が伴うことが保証されている言葉だからです。

もちろん、「結果がすべて」だということを言うつもりはありません。プロセスも重要です、理想的なゴールイメージから逆算されたプロセスと行動はとても重要です。

ただ、「プロセスが良ければOK」ということでは、信用される人になっていくことは、なかなか難しいように思います。

私が自分自身にも言っていることですが、「結果がすべてという言葉を自分自身胸の内にしっかり持ちながら、ゴールするイメージに向かって行動を積み上げていく」ことが大切だと思います。

そして、そういったことができている状態ならば、「結果は後からついてくるから!」と明るく大きな声で言って、自分も周囲も前に向けるようにしていくのが良いのではないでしょうか。

仕事の法則
言葉ではなく、行動と結果で、信用を積み上げていく

仕事の研究
美濃部哲也(みのべ・てつや)
(株)エムアンドアイ 代表取締役/XTech(株)パートナー。1993年電通入社。2000年より(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、(株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。テイクアンドギヴ・ニーズ社では売上高53億円から464億円までの急成長期を取締役営業統括本部長として牽引。タビオ社では靴下屋のリブランディングによって、出店加速と同社の顧客基盤を強化。ストライプインターナショナル社ではKOE事業を立ち上げ。ソウルドアウト社のコーポレートブランディング遂行、デジタルホールディングス社のコーポレートブランディング遂行、PR TIMES社のミッション策定など、経営と事業とブランディングに一本の筋を通すことで会社の成長に伴走。現在は、事業主側の経営視点で、アドバイザリー業務、マーケティング・ブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のプロデュースを行う。経営とマーケティングを繋ぎ、経営の情報参謀機能を果たし、ステークホルダーとの間に共感と共創関係が生まれるブランディングを創造。事業会社で、カンヌライオンズ、スパイクス・アジア、ACC、広告電通賞など、受賞多数。

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