本記事は、美濃部哲也氏の著書『仕事の研究』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

誰とだったら、失敗しても後悔しないか

指導者,リーダー
(画像=Hanna/PIXTA)

この言葉は私自身の生き様として大切なものになっています。32歳を過ぎた頃でしょうか、誰から教わったわけでもなく、自然と自分の心の中から生まれてきたものです。それまでは、好奇心旺盛で無我夢中、成長への意思が高いという感じだけの自分でした。日本で初めて大リーグに挑戦した野茂英雄投手に感化されて電通を飛び出し、サイバーエージェントで仕事をしていた頃の私は、ある人の回想によると、「戦死者を出しながらも、どんな戦いでもチームを必ず勝利に導くタイプのリーダー」でした。

当時の私は、チームづくりやマネジメントという視点では、まだまだ未熟なところがありました。ここで言う未熟さとは、「利他」の精神の足りなさのようなものでした。

未熟だった私が変わるきっかけになったのは、俳優の唐沢寿明さんが演じた前田利家や、同じく香川照之さんが演じた豊臣秀吉でした。

若い時に織田信長に仕えた二人は、先陣役や殿役が多かったようです。どちらの役目も自身誰とだったら、失敗しても後悔しないかと家来の身の危険が非常に高く、死を覚悟して臨まなければなりません。そこに「利他の精神」のようなものを感じ、そんな彼らを見て、自分の考え方が変わっていったことを覚えています。

それまでの自分は、「どのようにして成功するか」「成功するために誰と一緒にやるか」「誰とだったら勝てるか」という感じで、「仕事を成功させる」「競合に勝つ」「売上を上げる」「利益を生み出す」といった目の前のことに執着していたように思います。そのような心持ちでチームをつくり、パートナーを決めていては、「腹を括る」ことも十分にできていなかったように思います。

「死を覚悟」した戦国武将たちの心境を想像して、「彼らは死を覚悟できるということは、たとえ命を落とすことになってしまっても、後悔しない人のもとについている」ことだと感じました。

そして、「成功するために誰と一緒にやるか」を考えるのではなく、「誰とだったら、たとえ失敗しても後悔しないか」に目を向け、「どのような経営者と伴走したいのか」という想いを軸に、情熱と時間を注ぐ仕事と居場所を決めていました。

大きな仕事に取りかかる際にも、「誰とだったら、たとえこの重要なプロジェクトが失敗しても後悔しないか」の視点でチームをつくっていきました。

この「誰とだったら、たとえ失敗しても後悔しないか」という考え方は、ご縁や運さえもを引き寄せていきます。

「誰とだったら、成功できるか」という視点だと、自分自身の関心が「利己」の視点から「利他」へ広がるのは難しいです。「For you」にもなりにくく、周囲からの共感や賛同を得られやすくはなりません。

一方で、「誰とだったら、たとえ失敗しても後悔しないか」という考え方は、利己から利他へ解放されていく起点のような「捨て身」「献身」があります。したがって「For You」になりやすく、賛同も協力も集まりやすくなっていくのです。

また、「最悪のケースを想定しても後悔しない」という極限で考えることで、「いくつかある可能性の中の一人」とはならず、「この人とでないとやれない」という、たったひとりを探したり、口説いたりする勇気や覚悟が生まれます。

「誰とだったら、たとえ失敗しても後悔しないか」の視点で考え抜いてたどり着いた人には、なりふり構わずお願いする勇気も生まれますし、迫力も生まれるでしょう。そして、想いも伝わりやすくなるはずです。

これまで所属した会社での役割で、「社運を賭けた新しい挑戦をする」「絶対に負けられない勝負をする」「失敗できない変化をつくる」「会社の防波堤となる」というような、いわゆる、先陣役や殿役のような仕事を託していただいたり、自ら買って出たことが幾度もありました。そういう時は、その都度、「誰とだったら、たとえ失敗しても後悔しないか?」という視点で一緒にやる人を決めて、お願いをしていくのです。その視点で考え動くからこそ、理想のチームづくりができるように思います。

この考え方で動く際には、一つだけ、前提条件のようなものがあります。

それは私も含めて、カリスマ性がない人の場合は、「自己犠牲」とまでは言いませんが、「利他の精神」を大切にしながら自分を律して行動を積み重ねることです。そうしていることで、信用が積み上がっている状態を保てるようになります。

信じてもらえるのは、言葉ではなくて行動ですから。

仕事の法則
たとえ失敗しても後悔しないか? の視点でパートナーを決める

優れたプレーヤーが優れた指導者になるには

仕事ができる優秀な人たちが、できるようで、なかなか実践できないことを、この法則でご紹介します。

本記事を読んでくださっている方々の中には、マネジャーやリーダーの経験をしたことがない人も大勢いると思います。いつの日か、ある程度のスキルを身につけ、チームのリーダーやマネジメントをする際に役に立つと思います。いつかその役割になった時に思い出してください。

優れたプレーヤーが必ずしも優れた指導者になるとは限らない、と良く言われます。

その要因の一つに、優れたプレーヤーの目線のままで、「5割できたら50点、7割できたら70点」という感覚でメンバーの指導をしてしまうことがあります。「努力すれば、夢中になれば、自分と同じようにできるはずだ」と思い込んでしまうわけです。

大概のケースで、その根底には、「メンバーを育てていきたい」という思いや優しさがあります。私もかつてそうでしたが、その思いが強いゆえに、「5割できたら合格点。7割できたら優れたプレーヤーが優れた指導者になるには100点満点」という視点を持つことが、なかなかできませんでした。

星野リゾートの代表を務める星野佳路さんはある取材で、次のようにお話ししていました。「5割できたら合格。7割できたら褒めちぎらないと、社員は成長していかない」

これはお父様から言われたそうです。このお父様のアドバイスの通り、「5割できたら合格点。7割できたら100点満点」を実践してみたところ、社内が活性化していき、創意工夫をしながら仕事をする社員が増えていったそうです。

周りからは「信じられないほど優しくなった」と言われますが、私の場合は仕事を、
・「絶対に失敗できないこと」
・「成功させたいこと」
・「たとえ失敗しても致命傷にはならないこと」
・「上手くいっているのでさらに上手くいかせたいこと」
の4つに分けています。

「絶対に失敗できないこと」には自ら率先して行動し、信用できる社員のメンバーにサポートをしてもらいます。身近でサポートしてもらう社員のメンバーには、
「絶対に失敗できないし、ゴールイメージに描いたことをみんなで実現させたい」
「そのために、私が自ら率先してやることも多い。違うと思ったら遠慮なく指摘してください。そして、自分たちだけでは成し遂げられない仕事だから、社外から参画してくださった専門性の高い人たちの力が大いに発揮されるような環境づくりを一緒に創っていこう。そして、私が率先してやることに関してもサポートをしてもらいたい。その中で、成長にプラスなる経験ができきるように必ずしていきます」
とサポートしてもらう社員のメンバーに伝えます。

このようなコミュニケーションをプロジェクトを立上げる前にしていきます。

「成功させたいこと」に関しては、シビアな視点で信用できる専門性の高い人たちでチームをつくって取り組んでいきます。話し合いながら決めたゴールイメージにたどり着くための道筋を立てることを主体的に行い、その後は、専門性が化学反応を起こしていくように、託し、見守り、つなげていく動きをしていきます。具体的なゴールイメージを実現させるためのアウトプット(商品、サービス、言葉、デザインなど)が生まれるために、それぞれの専門性が結合するように、私自身はハブのような役割をしていきます。

「たとえ失敗しても致命傷にはならないこと」と、「上手くいっているのでさらに上手くいかせたいこと」に関しては、私は少し距離を置きます。お正月にお年玉をくれる「親戚のおじさん」のような立ち位置をとります。そのくらいの方が、メンバーの皆が自発的にやれることが増え、上手くいくからです。

これら4種類の仕事のすべてにおいて、専門性が高いプロフェッショナル以外のプロジェクトメンバーには、「5割できたら合格。7割できたら褒めちぎる」という視点を持ち続けていると、上手くいくことが増えていきます。(私自身も、この境地に至り、実践できるようになるまでに、少し時間がかかってしまいましたが……)

最後に一つだけつけ加えておきます。「絶対に失敗できないこと」に臨む際は、この法則の通りにはいかないことがあります。そんな時は、事前にプロジェクトに携わる予定のメンバーに、こう伝えています。

「今回の仕事は、難易度がとても高いので、やっている時は辛いこと、いやなことが、きっとあると思います。でも、やりきれて、形にできたら、記憶に残る、飛躍的に成長できる仕事になります。どうしますか?」

仕事の法則
「5割できたら合格点。7割できたら100点満点」の指導法

仕事の研究
美濃部哲也(みのべ・てつや)
(株)エムアンドアイ 代表取締役/XTech(株)パートナー。1993年電通入社。2000年より(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、(株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。テイクアンドギヴ・ニーズ社では売上高53億円から464億円までの急成長期を取締役営業統括本部長として牽引。タビオ社では靴下屋のリブランディングによって、出店加速と同社の顧客基盤を強化。ストライプインターナショナル社ではKOE事業を立ち上げ。ソウルドアウト社のコーポレートブランディング遂行、デジタルホールディングス社のコーポレートブランディング遂行、PR TIMES社のミッション策定など、経営と事業とブランディングに一本の筋を通すことで会社の成長に伴走。現在は、事業主側の経営視点で、アドバイザリー業務、マーケティング・ブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のプロデュースを行う。経営とマーケティングを繋ぎ、経営の情報参謀機能を果たし、ステークホルダーとの間に共感と共創関係が生まれるブランディングを創造。事業会社で、カンヌライオンズ、スパイクス・アジア、ACC、広告電通賞など、受賞多数。

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