本記事は、美濃部哲也氏の著書『仕事の研究』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

圧倒的な行動量がインプットの質を生む

行動
(画像=Dmitriy Demidovich/PIXTA)

プロフェッショナルの方々は「量が質に転化する」ということを良く言いますが、私もその考え方は当たっていると思います。「大切なことは実際に自分でやってから初めてわかることばかり」だからです。「たくさんの量をやる」と聞くと、「作業をたくさんやる」という風に聞こえがちですが、それだけではありません。「現場の大変さ」のようなことを知って、オペレーションを改善するためには、「作業を体感して把握する」ということはとても重要です。

一方で、オペレーション改善ではなく、新しい展開を生み出す、新しい需要や市場をつくるということが目的の場合は、一次情報のインプットの量を増やしておかなければなりません。対象になるテーマに紐づきそうな行動の量を常に増やした状態を自分の生活の中につくっていく、というイメージです。

その時々の課題を解決するために大切なことや、何かを生み出すために大切なことが、どこに潜んでいるかわかりません。なので、一次情報を体感できるように、そのことに関する行動量を増やしていくのです。ポイントなのは、一般的なレベルの3倍基準で行動量を増やしておくということです。そうすると、「神様が降りてくる瞬間」が必ず訪れます。たくさんのヒントに出会うことができます。そして、インプットの累積量に比例するように、ゴールイメージが映像として自分の頭の中に浮かんでくるようになります。

「3倍基準」と聞くと、すごくハードルが高いように聞こえますが、会社などの組織に依存することなく、個人として職業を行っている人たちは「あたりまえにそうしている」ということに気づかされます。始業時刻も就業時刻もありません。残業もありません。土日祭日など決められた休みの日もありません。何時間でも勉強や準備に時間を費やします。

何もしていないように見えても、頭のなかで四六時中考えているので、365日ずっと睡眠時間以外は時間を費やしているので、3倍どころの騒ぎではありません。ただただ、「夢中」です。「夢中でいる時間の量」がずば抜けています。そして、最高のパフォーマンスを発揮するために、自分の健康状態と精神状態を常に健全に保つことも重要な仕事になっています。プロフェッショナルとして活躍するということは、そういうことなんですよね。

これからは、仕事と暮らしが同居する時代になっていきます。自分らしく働くことと、自分らしく暮らすことが表裏一体にどんどんなっていきます。作業に近しいようなことなど一定のことはテクノロジーによって生まれた機能やサービスによって代替されていきます。自分らしいオリジナルの価値を発揮することができなければ、必要とされる機会がどんどん減っていきます。なんとなくですが、ビジネスの世界においても、会社や組織に依存しない「個人の専門性」が活躍の機会を次々と生み出していく時代になっていきます。なので、ビジネスの世界以外で活躍しているプロフェッショナルの方々の生き様を参考にできます。

サラリーマンをしていると最低でも1年間に105日の休日があります。そうすると、仕事は260日を8時間で2,080時間なので3倍は6,240時間です。年がら年中、睡眠時間以外は頭の中で考えている状態は、24時間から7時間睡眠引くと17時間。17時間365日で年間6,205時間。ほぼ3倍です。プロフェショナルの方々の水準は3倍だということがわかります。

今までの仕事の中でご一緒したプロフェショナルの方々も、3倍基準の方々でした。ソウルドアウト社のコーポレートブランディングの仕事で、マンスリージャナルの表紙の4号分をまとめて撮影した時のことです。その日の朝、フラワーアーティストさんが撮影スタジオに運んできたお花の量がすごいことになっていたのです。

撮影に必要なお花の種類と量は事前の打ち合わせで決まっていたのですが、明らかにそれを超えていて圧倒されました。撮影が無事終了した時に、そのフラワーアーティストさんに「なぜ、こんなにたくさんのお花を用意してくださったのですか?」と質問してみました。「撮影当日は何があるかわからないし、違う色や形のお花を入れたらもっと良くなるっていうことがあるかもしれないでしょ。一流の華道家の先生なんかも、花を生ける時に最低でも3倍のお花を用意するものなのよ」と教えてくれました。

プロフェッショナルは、3倍基準。昨今、「効率化」とか「時短」とか「働き方改革」などという言葉をよく耳にしますが、「効率化」「時短」「働き方改革」だけでは、創意工夫もできなければ、人の心が動くような新しい意味や価値のある商品やサービスを生み出すことはできません。そして、そういう言葉に惑わされていたら、夢中になれる自分にも出会えることがなくなってしまいます。好奇心や「好き(かも)」という感情を起点にして、一心不乱に進んでいくことが、仕事と暮らしが同居する時代に、自分らしく幸せになっていける近道なのかもしれません。

仕事の法則
プロフェッショナルは3倍基準。量が質を導く

「受発注」の概念のないワンチームで挑む

リーダーとして新しいことを創る、始める、という局面では、想像力がとても大切になります。理想的なゴールイメージが通じ合う人とチームをつくることがとても大切で、「誰とやるか」が成功に大きく影響します。成功確率の50%はそこに依存するというのが実感値です。

メンバーのアサインは、想像力が同じ程度ある人であることが重要になります。イマジネーションの広さと遠さが同じぐらい行ける人です。知識の量、経験の量がほぼ同じぐらい。ただし、全く同じ知識や経験ではなくてもいいのです。それぞれの専門性の高い人たちでチームをつくる方が良いので、むしろ、違う知識と経験があることは大切なのです。

ただ、同じぐらいのレベルのアウトプットを過去の仕事のなかで創っているかどうか、そして、その際に主力メンバーとしてやっていたかどうかということがとても重要になります。具体的には、その視点で直近2年~3年ぐらいの仕事のアウトプットを見て、創りたいゴールのレベル以上のアウトプットをつくっている人なのかどうかで、アサインする人を決めていくのです。

さて、ここからがプロジェクトマネジメントをする際のポイントです。それは、専門性の高い人をアサインしてチームをつくれたら、「受発注の関係性」を一切取っ払うということをしながらチームマネジメントをしていくというのが鉄則です。そこには、発注者と受注者という関係性は一切ありません。もはやお金を払う人、もらう人という意識は一切取り除き、そして、肩書も役職も年齢も性別も、社内・社外も、すべてのボーダーを一切関係なくしてしまうのです。

よくあるのが、顧客企業のメンバーに遠慮して言うべきことを敢えて言わない、反対意見を言わない、忖度して迎合してしまう。そして、発注側の企業のメンバーは、ついつい偉そうな物言いをしてしまう……。こんなことがあったら、せっかく社内外から専門性の高いメンバーをアサインした意味が半減どころか、台無しになってしまいます。

アイデアを出し、やり方を具体的に提示できる人と、その人を支える人。そのペアなのか3人一組が必要な専門領域ごとにあるのが理想です。たとえば、コーポレートブランディングを刷新して、コーポレートサイトをつくる場合、事業主となる会社のメンバーに、リーダーとそのリーダーに伴走するメンバーが2名程度、クリエイティブディレクター、コピーライター、アートディレクター、デザイナー、WEBディレクター、WEBデザイナー、テクノロジーディレクター、システムエンジニア2名の総勢11名程度でプロジェクトを組みます。規模やスピードに応じて人数は上下しますが、だいたいこの程度です。

会社のCIとコーポレートブランディングを刷新した際のことです。これからは企業もメディア化していく時代なので、メディアのようなコーポレートサイトにすることを決め、新しくつくるミッションステートメントとキービジュアルを核に、メディアのような情報発信の内容と更新頻度のあるコーポレートサイトを創りました。

その際、毎週行われた90分程度のプロジェクトミーティングでは、ゴールイメージが鮮明に頭に浮かべられている専門性の高いスタッフがどんどん意見を言い、その場で、何をする、何をしない、そして、どうやるか、誰がやるか、いつまでにやるかなど、すべてを決めていきます。ゴールに近づくためのアイデアが出せる人の意見が尊重されていきます。

発注者側のメンバーにありがちなのが、アイデアは出ないのだけれど、専門性の高い人が出してくれたアイデアに自分の感想を小難しい言葉を使いながら意見するような光景を目にすることがよくありますが、それには意味がないことがほとんどです。「そのアイデアはすごく好きです」とか「感動しました」というのはチームの雰囲気も良くなるので意味があるのですが、専門性の高い人のアイデアを評するようなことを「クライアント側」という責任感からしてしまうのでしょうね。

それなので、メンバー全員にプロジェクトキックオフミーティングの時から「社内外の垣根、肩書、役職、年齢、性別、すべてとっぱらった、受発注の関係を一切なくしたワンチームでやるんだ」ということを全員が意識していくようにします。

このチーム編成の強いところは、プロジェクトの後半に差し掛かるあたりから、それぞれの役割を担っている人たちが、プロジェクトミーティングの内外で自発的にコミュニケーションをしだして、ああしよう、こうしたいということをアイデアを出しあいながら決めていき、重要なことについては然るべきタイミングでこまめにリーダーに確認がはいるようになっていきます。その状態では、時間やお金のことなど、皆が忘れて、たどり着きたいゴールに向かって、皆が自発的に協力をしあっている状態になります。

新しいことを創る。そこには、予測不可能なことだって起こります。それを乗り越えていくパワーは、そうした自家発電のようなエネルギーが湧くチームだからこそ乗り越えられてくものだと思います。

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仕事の研究
美濃部哲也(みのべ・てつや)
(株)エムアンドアイ 代表取締役/XTech(株)パートナー。1993年電通入社。2000年より(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、(株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。テイクアンドギヴ・ニーズ社では売上高53億円から464億円までの急成長期を取締役営業統括本部長として牽引。タビオ社では靴下屋のリブランディングによって、出店加速と同社の顧客基盤を強化。ストライプインターナショナル社ではKOE事業を立ち上げ。ソウルドアウト社のコーポレートブランディング遂行、デジタルホールディングス社のコーポレートブランディング遂行、PR TIMES社のミッション策定など、経営と事業とブランディングに一本の筋を通すことで会社の成長に伴走。現在は、事業主側の経営視点で、アドバイザリー業務、マーケティング・ブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のプロデュースを行う。経営とマーケティングを繋ぎ、経営の情報参謀機能を果たし、ステークホルダーとの間に共感と共創関係が生まれるブランディングを創造。事業会社で、カンヌライオンズ、スパイクス・アジア、ACC、広告電通賞など、受賞多数。

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