本記事は、美濃部哲也氏の著書『仕事の研究』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

「真似ること」から始める

新社会人
(画像=Photo Creative/PIXTA)

「真似ることは邪道だ、恰好が悪い。」社会人なりたての人や創造的な仕事の経験がそこまで多くない人たちの中に、そのような思い込みがあることをよく目にしてきました。そのような場合、一生懸命に自分自身で考ようとしているうちに、時間だけが経ってしまい、全く進まずに身動きが取れなくなってしまいます。そして、その仕事が嫌になってしまう、逃げ出したくなってしまう、ということにもなりかねません。

確かに、「オリジナル」はカッコいいですよね。でも、最初は、上手く行っている事例や上手にやれている人がやっていることややり方を、そのまま真似をすることをおすすめします。ビジネススクールで学ぶケーススタディーなども、成功事例を学び、そこの中にある本質を「WHY?」を繰り返しながら追究して、「SO WHAT?」を繰り返しながら自分たちの打ち手を考えていくような取り組みだったりします。

「良いことやそれが生まれるプロセスを真似ながら実際に動くこと」が自分を成長させるのに一番の近道だと割り切ってしまうと、自分が「これ、いいな」「これ、すごいな」「この人、すごいな」とった感覚を得た瞬間に、プライドが邪魔する間もなく真似ることをしていたように思います。大人になると変なプライドが邪魔をしてしまって、真似ることをためらうようになりがちです。でも、そんなことはお構いなしに、好奇心の赴くままに真似ることをし続けられれば、何歳になっても成長し続けられるように思います。

剣道や茶道などで、師匠から学んでいく際のプロセスを示したもので「守破離」というのがあります。この「守」にあたるのが、模範となることを真似るステップで、「破」にあたるのが、自分が良いと思ったものや、自分が好きだと思うものを取り入れることです。私自身も、20代の頃は、すごく良い企画をつくる先輩の行動や企画の流れ、そして、話し方まで、見様見真似で倣いながら実践していきながら、パターンや引き出しを身についていきました。30代以降も、「これ取り入れたい!」と思ったことは、すぐに取り入れていました。

私自身も恥じらいなく真似ることにした事例をご紹介します。「靴下屋」などTabioのお店には、デザイン性も良く、履き心地がとても良い靴下をたくさんの種類で展開しています。靴下一つひとつに、機能や履き心地に関する特徴、ものづくりの背景にある物語、そして、職人さんの想いがありました。店頭に並べているだけでは、どうしてもそれが伝わらない。「履けば良さがわかるんじゃ」と創業者の故越智会長が当時もおっしゃっていた通り、ものすごく履き心地が良い靴下です。

「どうにか、一つひとつの靴下の良さを店頭に来たお客様に予感しただけないか?」と考え、名刺3枚分ぐらいの大きさのカードに靴下の写真と解説文を書いたカードを、店頭陳列している靴下の種類毎に設置することにしました。これは、無印良品の店舗、ロクシタンの店舗、マークスアンドウェブの店舗、ルピシアの店舗、ヴィレッジヴァンガードの店舗での展開を参考にしました。

自分の足でいろいろなお店の展開を研究しているうちに、「雑貨屋さんやコスメなど、小さくて、一見どれも同じように見えてしまうものが、そうは見えていない展開をしているお店にある共通点」が見えてきたので、恥じらいなく真似をしてみたところ、お客様からはとても好評でした。

「真似ることから始める。」このことは、スキルの高いビジネスパーソンの方々の多くにとっては、あたりまえのことかもしれません。豊富な経験を通じて、そのことを知り実践して体得しているのだと思います。一方で、社会人になりたての人たち、創造的な仕事をこれから本格的にしていく人たちに、「真似することって、素晴らしいことなんですよ」ということを大きな声でお伝えしたいと思います。ぜひ、真似したくなるようなことを自分の目や耳で直接見つける機会と時間をつくってみてください。

そして、それなりの立場になっても、対象がなにであれ誰であれ、「優れたことや優れたことをしている人のことを真似ることは、柔軟性があることの象徴で、最短最速最良の方法」だという考え方で、どんどんと取り入れていくのです。真似と真似の掛け算はオリジナルになっていきます。常に、一次情報の引き出しをいくつも持っている状態の中で、真似たいと思うものは、その中でも特に良い引き出しでもあります。

そして、良い引き出しと良い引き出しの掛け算をすれば、良いアイデアや良い企画、そして、ゴールイメージのワンシーンも思い浮かびやすくなります。そして、「最前線(現場)の中に真似てみたい何かと出会いたいな」という視点で世の中を観察し続けていれば、発想が古くなったり老いたりすることもないと思うのです。「真似ることから始める」って、素敵ですよね!

仕事の法則
真似ることは、柔軟性があることの証。最短最速最良の方法

非常識を常識に

新しい意味や価値を生み出す時は、「今までは」「普通は」「通常は」「一般的には」「常識的には」「皆は」といった言葉を自分の頭の中から消し去ることがとても重要です。「非常識を常識に」この言葉は、「……といった感じで型破りな交渉をしたいのだけど問題ないか?」という確認をお世話になった創業者の方にした時に返ってきた返信メールの中にあった一行でした。ちなみに、「品位は大切に」という言葉も添えてありました。

新しい事業や新しい商品・サービスを生み出す際には、常識を超えなければなりません。「常識を超える」というよりは、「常識を知らないまま(もしくは、知らないふりをして)突き進む」という感じで、「鈍感さ」をもって勇敢に突き進む感じの心意気が大切です。先ほど挙げたような「優等生」的な価値観から、今までになかった何かが生まれることは、ほとんどありません。また、根本から人の心を動かすような表現も、同じように、常識的な発想の中や、今までやこれまでの延長線上では生まれることがないように思います。

「誰もがやっていること」や、「多くの人がやったことがあること」は、世の中に溢れていますから、価値が低いものがほとんどです。それらは、その存在意義が問われてしまうものだったり、価格競争に巻き込まれていく運命にあります。そうすると、「効率化」によるコストダウンを余儀なくされる運命になります。

機能するものが溢れている時代で、新しい意味があるものが貴重になってきているので、「誰もしていないこと」をするほうが、新しい価値を創れる可能性が高いのです。無邪気に、良い意味で空気を読まずに、自由奔放に、理想を想像していきながら、「こういうものがあったらいいな」「これはいける」と直感したことを周囲に聞いた時に、8割以上の人が反対することのほうが上手くいくことが多いように思います。希少性があったほうが価値が高いのです。

2014年にKOEというアパレルの事業を立ち上げた時のことです。あえて既成概念をもっていない人で新しいブランドをつくる。という創業者の想いがあり、業界出身者ではない中途社員数名で立ち上げた事業でした。約1,000型の秋冬の服をつくるということをやるわけですが、それ自体が非常識でした。初めて服をつくる人たちが自由に考えた理想は無理難題に近いです。その無理難題を形にするために、取引先の繊維商社の皆さんや伴走してくださったアドバイザーにご尽力いただきました。

そのプロセスも非常識でした。ベンチマークしていたブランドが4つあったのですが、それぞれの大型店に並んでいる服すべてを一点一点調べることを自らの足を運んで2日間かけて行ったり、高級ブランドの服を購入して、解体して服のパターンの参考にしたり、ということで、タブーは一切ない感じで進めていきました。

また、古巣の電通では、とてもお世話になった先輩が役員をしていたので、「アパレルの新しい大型ブランドを立ち上げることになったので、クリエイティブ面での支援をしていただけませんか?」という直談判をしに行ったことを思い出します。2013年の秋のことでした。タブーを排除して、考え抜いた結果の行動でした。そして、その先輩が私に言ったこともロックな感じでした。

「あのさあ、グローバルスタンダードな服の大型ブランドにしたいんだったら、服とか雑貨とか靴とか……っていう考え方じゃなくて、これからの生き方のブランドにしていくっていう発想でやるのがいいんじゃないかな。」

数々の企業のブランドをプロデュースした経験を持つ先輩は、さすがでした。その話を聴きながら、私は「服は気持ちを上げてくれる心のインフラだ」というマイケル・コース氏が繊研新聞に東日本大震災直後に寄稿した記事を思い出していました。「服は心のインフラ。生き方を身に纏う。どのような生き方を身に纏うのか、それを決めて、そういうブランドをつ創ろう。」ブランドの軸が決まった瞬間でした。「服のブランドを超えた、生き方のブランドを創る」という考え方を周囲の人たちに話をすると、8割から9割の人たちは「???」でしたが、1割から2割ぐらいの人たちは、「その話に乗った」という感じで力を貸してくれ、その力は絶大でした。

そのチームからの提案内容は、コンセプトも言葉もビジュアルも圧巻でした。「エシカル」「サステナビリティー」をテーマにしたKOEというネーミングで、「誰かの声でなく、自分の声を聴いて生きよう、地球の声を聴いて生きよう。」という服のブランドが生まれました。

2020年の夏ごろから日本でも「SDGs」や「サステナビリティ」という言葉を多く目にするようになりましたが、2013年にそのコンセプトを軸にした服のブランドを創るということを提案してきてくれたドリームチームの皆さんも、そして、意志決定をしてくれた創業者の石川康晴さんも、やはり、「非常識を常識に」というぐらいに、既成概念や常識にとらわれていない人でした。

仕事の法則
非常識を常識に。人がやらないこと&やり方で勝負する

仕事の研究
美濃部哲也(みのべ・てつや)
(株)エムアンドアイ 代表取締役/XTech(株)パートナー。1993年電通入社。2000年より(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、(株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。テイクアンドギヴ・ニーズ社では売上高53億円から464億円までの急成長期を取締役営業統括本部長として牽引。タビオ社では靴下屋のリブランディングによって、出店加速と同社の顧客基盤を強化。ストライプインターナショナル社ではKOE事業を立ち上げ。ソウルドアウト社のコーポレートブランディング遂行、デジタルホールディングス社のコーポレートブランディング遂行、PR TIMES社のミッション策定など、経営と事業とブランディングに一本の筋を通すことで会社の成長に伴走。現在は、事業主側の経営視点で、アドバイザリー業務、マーケティング・ブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のプロデュースを行う。経営とマーケティングを繋ぎ、経営の情報参謀機能を果たし、ステークホルダーとの間に共感と共創関係が生まれるブランディングを創造。事業会社で、カンヌライオンズ、スパイクス・アジア、ACC、広告電通賞など、受賞多数。

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