本記事は、美濃部哲也氏の著書『仕事の研究』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

士気が上がる目標設定

やる気
(画像=buritora/PIXTA)

挑戦の成功確率は、「退路を断って臨む」姿勢があるかどうかが大きく影響します。特に、スキルや人脈が十分ではない状態で挑戦をする時は、「退路を断って臨む」姿勢とそうではないのでは、異次元の違いが生まれていくように思います。

退路を断つことで、「突き抜けて物事を推進していく」というモードで仕事をすることになり、チャンスやピンチの時には大きな力を発揮します。

その一方で、時間も体力も精神力もすべてMAXでやり続ける状態を保ち続けるのは、ごく一部の人を除いてそう長続きはしません。通常なら半年〜1年、精神力と体力がとても高い人で3〜4年くらいだと思います。ごく稀に、5年以上という人もいます。

では、「どの程度の頑張り方であれば、やる気が長続きする」ものなのでしょうか。つまり、どの程度の目標設定が持続可能なモチベーションを生み出すのでしょうか、

目標の売上、目標の件数、目標の期限。それらを決めていく際に、この「持続可能なモチベーションを生み出す目標設定」ができると、自分自身の仕事もチームでの仕事も、上手くいく確率が上がっていきます。

アメリカの心理学者ジョン・ウイリアム・アトキンソン博士が提唱した「達成動機理論」によれば、「達成したいという気持ちがある状態の人たちのモチベーションがMAXなる目標設定は、成功率50%の目標を掲げた時」だそうです。この理論に出会い、自分自身の仕事やチームでの仕事にこの考えを取り入れたところ、確かに、その通りでした。

ただし、大前提は、「達成したいという気持ちがある状態」ということを忘れてはいけません。そのために、「なぜ、それをやるのか」という意味づけがされている状態が必要です。その上で、「成功率50%の目標を掲げた時」にモチベーションが最も高い状態になるというわけです。

この「成功率50%の目標を掲げる」際、チームメンバーとの間でやり取りをする時に、次のように翻訳をして問いかけていくと、「成功率50%」の数字や期限が見えてきます。

【期限の目標を設定する場合】

「いつまでにできそうです?」→「頑張ってやって、できるかできないか半々なのは何月何日だと思います?」という感じです。

【売上や件数の目標を設定する場合】

「目標数字はどのぐらいにしましょう?」→「このチームが全員で頑張れた時に達成できるかできないか、半々の売り上げ(または、件数)はいくらでしょう?」

このような目標の設定をすることによって、「すべきこと」が「したいこと」に、「Should」が「Want」に変わっていきます。

プロジェクトを推進していく際、複数の担当者が連携して一つのものを創り上げていくような仕事、たとえば、新規事業の立ち上げやコーポレートサイト構築やオウンドメディア立ち上げなどの仕事では、担当者ごとの細かな期限の目標設定がプロジェクト全体の推進状況を大きく左右します。プロジェクトリーダーと各担当との間で期限を切って進めて、それぞれのパートが連携し合って一つのものが生まれていくからです。その際には、「頑張ってやってみて、できるかできないか半々のタイミング」でお互いが会話をしていくことで、プロジェクトの進み方が早まりますし、チーム全体のテンションも高い状態を保つことができます。

また、営業部隊の推進をする際は、「ノルマをやる」ということではなく、「ノルマ」をいったん忘れて、自分たちが一生懸命頑張って達成できるかできないか半々の数字を目標に掲げると、士気が高揚していくことが多いです。それは個人の目標を設ける時にも有効です。「今の自分が一生懸命やってできるかできないか半々のライン」が引き出されることで、「よし頑張ってみよう」と本気になっていけます。読者の皆さんのなかでも、過去に一生懸命頑張れた時の記憶を思い出してみたら、「できるかできないか半々ぐらい」のことを目標にしていた時だったのではないでしょうか?

仕事の法則
一生懸命頑張って達成確率50%の目標を設定する

モチベーションの上げ方の秘訣

どんな仕事をする上でも、「伝わるかどうか」「どう伝わっていくか」がとても重要です。実は、「自分自身への伝わり方」を自分でコントロールすることができるようになると、自律する力が高まっていきます。「伝わり方が9割」なのと同じように、「受け取り方が9割」とも言えます。

仕事をしていく上で、自分自身に着けていきたい力というのは、「自走する力」「自立する力」です。それには、「自家発電のような心のエネルギー」を自分の中に持てることが大切になっていきます。

では、どのようにしたら、「心のエネルギーの自家発電所」を自分の中に持てるのでしょうか。それを手にできると、「モチベーション」が下がることはない、という状態になります。

「モチベーションを上げていくには、どうしたらいいんだろう?」「モチベーションの高低の波がある状態をなくすには、どうしたら良いのだろうか??」ということを考えたことがあります。私自身も27歳くらいまでは、モチベーションが高い時もあれば、なかなか上げられない時もありました。

上司が言ってくることに納得感がない場合は、そこまでモチベーションは上がらないものです。そして、マネジメントの本やリーダーシップの本が書店のビジネスコーナーに溢れているのを見ればわかる通り、伝え方が上手な上司(マネージャーやリーダーや管理職)は多くはありません。

フランス語で「s’inveneter」、英語では「invent yourself」という言葉があります。「自分自身を自分で発明する」という意味です。この考え方を20歳の頃に知っていたことが功を奏して「誰かや何かに影響されて、自分自身の心の持ちようが下がることこそ、許しがたいことだ」という考え方をするようになり、誰かに自分が影響されない強さを持ちたいと思うようになりました。

そこでやり始めたのは、「自分自身に自動翻訳機をつける」ということでした。

これからは「個の時代」です。働き方も、仕事も、個人の裁量によって際限なく良くも悪くもなっていきますので、誰かに影響されてモチベーションが下がるようなことは避けたいものです。しかも、好意を持てない人が言うことに影響されるのは、真っ平御免ですよね。

何かを大切な人に伝える時には(仕事の法則38伸びしろを見つけ、翻訳して意味を創り、価値を再定義する)ことがポイントですが、「受け取る時」にはその逆をしていきます。

つまり、自分のモチベーションがさらに高まるために必要な意味との関連性をつくり、「なぜやるか?」という「WHY?」になるように翻訳を加えればよいのです。

受け取る時の「世界で一番大切な、たったひとり」は本人ですから、自分自身にとっての意味や価値が生まれるように「WHY?」になるように翻訳することで、モチベーションの泉をつくることができます。そうすることで、自家発電機を心の中に持つことができるのです。

自動翻訳機をつけて意味をつくるとは、例えば次のような形です。

・お客様や周囲にとっての意味を見つける
・社会や未来にとっての意味を見つける
・自分にとっての意味を見つける

「やることとの関連性の文脈」をつくっていって、意味を見つけていくのです。

自分の人生にとっての「世界で一番大切な、たったひとり」は自分自身です。

その人が誰かの影響を受けて気持ちが高まったり、成長したり、目線が上がったり、モチベーションが上がったり、エネルギーが生まれたりするのはとてもありがたいことです。しかし、そういった「伝え方が上手な人」ばかりではありません。なので、「受け取り方が9割」ということを前提に、誰に、何を、どのように言われても、自分自身に「自動翻訳機」をつけ翻訳をするのです。そうすることで、言われたことと自分の人生や生き方との間に関連性を見つけ、意味を見出すことができます。

自分自身の心のエネルギーの自家発電機をつくれたら、世界は広がっていきます。

【自動翻訳の簡単な例】

翻訳前:「2秒でやって」
翻訳後:「助けて! なる早でおねがい! あなたの力を信じてる。」
翻訳前:「こんなの、どうしてできないの?」
翻訳後:「あなたの力があれば、できると思うよ!」

仕事の法則
受け取り方が9割。心に自動翻訳機をつける

仕事の研究
美濃部哲也(みのべ・てつや)
(株)エムアンドアイ 代表取締役/XTech(株)パートナー。1993年電通入社。2000年より(株)サイバーエージェント常務取締役、(株)テイクアンドギヴ・ニーズ取締役、タビオ(株)執行役員、(株)ストライプインターナショナル執行役員、(株)ベクトル執行役員、ソウルドアウト(株)取締役CMOなどを歴任。テイクアンドギヴ・ニーズ社では売上高53億円から464億円までの急成長期を取締役営業統括本部長として牽引。タビオ社では靴下屋のリブランディングによって、出店加速と同社の顧客基盤を強化。ストライプインターナショナル社ではKOE事業を立ち上げ。ソウルドアウト社のコーポレートブランディング遂行、デジタルホールディングス社のコーポレートブランディング遂行、PR TIMES社のミッション策定など、経営と事業とブランディングに一本の筋を通すことで会社の成長に伴走。現在は、事業主側の経営視点で、アドバイザリー業務、マーケティング・ブランディングのアドバイザリー業務、ブランディング活動のプロデュースを行う。経営とマーケティングを繋ぎ、経営の情報参謀機能を果たし、ステークホルダーとの間に共感と共創関係が生まれるブランディングを創造。事業会社で、カンヌライオンズ、スパイクス・アジア、ACC、広告電通賞など、受賞多数。

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