この記事は2022年4月27日(水)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『本当の基礎からわかる物価の見方』」を一部編集し、転載したものです。
はじめに
「本当の基礎からわかる日本経済」セミナーの第3回目で、エコノミストの田が物価について解説しました。
日本の物価も上がり始めました。問題は、マクロの需要が供給を持続的に上回る形の持続的なインフレであるのかどうかです。その判断をする時には、消費者物価指数を詳細に分析する必要があります。
一部の品目の価格が大きく上昇し、消費者物価指数を押し上げているのであれば、それは持続的なインフレとは言えません。一部の品目の価格が大きく上昇することにより、消費者の購買力が削がれれば、その他の品目の需要を減退させてしまいます。その他の品目にはデフレ圧力がかかってしまうことになります。
特に、エネルギーなどの輸入物価の上昇に起因した場合、購買力は海外に逃げますので、内需をより減退させます。現在の物価上昇は、そのほとんどが輸入物価の上昇の影響です。国内の需要が供給を大きく上回っていることが理由ではありません。当然ながら、賃金の強い上昇にもつながりません。
輸入物価の上昇は家計のコストの上昇として、他の支出を抑制する原因となり、そこからデフレ圧力がかかるため、輸入物価の上昇による消費者物価の上昇は長続きしないと考えられます。日本の内需が弱い状況で、中央銀行の金融引き締めなどで海外経済の状況の悪化によって海外の物価が弱含めば、日本では一転してデフレが心配になってしまうでしょう。
消費者物価指数を詳細に分析し、どのような物価上昇なのか判断することが重要です。
CPIとは何か
CPIとは、全国の世帯が購入する財およびサービスの価格変動を総合的に測定したものです。様々な品目の価格を1つの指数に統合するため、品目ごとにウエイトを設定しています。
今は2020年の家計が購入した品目別の支出額を基にウエイトを決めていますが、新型コロナウイルスの影響で2020年の家計の消費パターンが特殊だったため、特別に2019年の消費パターンも取り入れています。
ウエイトの基準は5年ごとに改定されます。基準改定をする理由は、消費者が買う個々の商品の数量や商品そのものが変わってくるからです。
例えば、2020年基準では、ビデオカメラが廃止され、タブレット端末が追加されました。基準改定によって、過去の前年比が変わることもあります。
計算対象品目
次に計算対象品目について。家計の消費支出を対象としており、消費税も含まれています。ただし、直接税や社会保険料は含まれません。
対象品目は、家計の消費支出の中で重要度が高く、価格変動の面で代表制があり、継続調査が可能であることを考慮し、582品目あります。
価格データ
価格データは原則、小売物価統計調査を使います。小売物価統計調査は、全国の店舗の販売価格を調べており、調査期間は12日を含む週の水、木、金曜日のいずれか一日です。特売価格や会員価格は排除されています。
生鮮食品などの価格の変化が大きい品目は、月に3回調査しています。例外として、テレビやパソコンなどは、POS情報による全国の家電量販店の販売価格を使います。航空運賃、宿泊料はウェブスクレイピングで集めたネット販売価格を使います。
品質調整とは
調査する銘柄も決まっています。特定の地域で人気がある銘柄ではなく、全国の消費者が多く購入しているものを採用しています。
また、長い間全国の市場に出回っていることも必要です。例えば、チョコレートは、板チョコで、重さは50g〜55g、メーカーは既定の3社、で決まっています。
同じ銘柄でも品質や内容量が変化することもあります。その場合、品質の違いを定量的に評価し、CPIに反映させます。このことを品質調整といいます。
公表
CPIは前月結果を、原則として毎月19日を含む週の金曜日の午前8時30分に総務省が公表します。同日の閣議にも報告されます。
CPIの公表文で説明
ここから、CPIの公表文で説明していきます。下図で表示しているのは、2022年2月の全国CPI公表文の2ページ目です。
CPIとは
まずは下の表をご覧ください。左の赤枠の総合は総合CPIのことで、すべての品目を取り入れたものです。普通CPIといえば、総合CPIを指します。
▽消費者物価公表文2ページ目 2022年2月
総合の下は10大費目に分かれています。食料、住居、光熱・水道、家具・家具用品、被服及び履物、保健医療、交通・通信、教育、教養娯楽、諸雑費の10個です。
野菜や果物、お肉などの「生鮮食品」は、天候の影響を強く受けるので、毎月の変動幅が大きいです。そのため、物価の基調を見るために、生鮮食品を除く総合指数で見ることがあります。これは、コアCPIと呼ばれており、日銀が重視している物価指標の1つです。総合の右隣りにあります。
コアCPIから更に、海外要因で変動するエネルギー価格の影響を除いた指標もあります。これは生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数、と呼ばれ、コアコアCPIとも言います。コア指数の右隣りです。
数字
1行目の数字は、2020年を100とした時の指数を示しています。例えば、総合CPIは100.7と100より大きいですが、コアコアCPIは99.2と100より小さいです。
2行目は前年同月比です。かっこの中は前月の1月の結果です。総合CPIをみると、前月が0.5、今月は0.9で、プラス幅が拡大しました。
3行目は寄与度です。これは各項目が総合指数の前年比に対してどれぐらい寄与したかを示しています。例えば、食料の寄与度は0.74%ポイントですが、これは総合CPIの前年同月比0.9%のうち、0.74%ポイントは食料によるものです。
4行目は寄与度差です。3行目の寄与度の今月と前月の差を示しています。食料を見ると、0.2でした。すわなち、総合CPIの前年同月比は1月の0.5%から2月の0.9%に、0.4%ポイント拡大しましたが、0.4%ポイントのうち食料が0.2%ポイント寄与したことになります。
寄与した主な内訳
図の下にある表は、総合CPIの前年同月比に寄与した主な内訳です。公表文はCPIの結果が詳細にまとまっているので、見るべきポイントを絞って確認するのに便利です。
最後に
最後に3点申し上げます。
1:普段私たちの物価観は、頻繁に購入するものにひきずられがちです。毎日コーヒーを買う人は、コーヒーが値上げしたら、物価が上がって来たと感じると思います。一方で、自動車やパソコンなど、頻繁に購入しない耐久財の値上げには気づきづらいです。CPIは総合的な物価変動を見るために、有効な指標です。
2:CPIは消費者全体に対する物価の動きを表しています。保育園が無償化されましたが、保育園児がいない家庭は影響を受けません。しかし、CPIは大きく押し下げられました。
3:CPIと企業物価指数は連動しません。企業物価は財の物価ですが、CPIは財とサービスの物価です。CPIのサービスのウエイトは約5割です。
田キャノンの政策ウォッチ ―― 経済対策
政府は2022年4月26日、物価高騰による影響を緩和するための「原油価格・物価高騰など総合緊急対策」を公表した。国費は6.2兆円にのぼる。本対策のうち、新たな財源措置を伴うものに1.5兆円の予備費を充て、更に補正予算2.7兆円を編成する。補正予算のうち1.2兆円は原油価格高騰対策、1.5兆円は予備費の補充に充てる。
本対策は4つの柱がある。第一の柱は原油価格高騰対策、第2の柱はエネルギー、原材料、食料などの安全供給対策、第3の柱は新たな価格体系への適応の円滑化に向けた中小企業対策等、第4の柱はコロナ禍において物価高騰等に直面する生活困窮者等への支援である。
政府は6月までに新しい資本主義のグランドデザインと実行計画、骨太方針2022を取りまとめる。参議院選挙後には、さらなる支援策と成長投資で大規模な補正予算をともなう経済対策が行われる可能性が高い。成長投資のメニューについての議論が自民党内で進んでおり、参議院選挙の自民党の政権公約の成長投資のメニューに注目。
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