この記事は2022年2月18日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー『輸入物価の上昇は最終的にはデフレ圧力』」を一部編集し、転載したものです。
日本の物価上昇は、輸入物価の上昇が影響
日本の物価上昇は、そのほとんどが「輸入物価の上昇」が影響している。国内の需要が供給を大きく上回っていることが理由ではない。
「輸入物価の上昇」は、家計のコスト上昇として、ほかの支出を抑制する原因になる。そこからデフレ圧力がかかるため「輸入物価の上昇」による物価上昇は長続きしない。
内需が弱い状況で、海外経済が悪化して原油価格が大きく落ち込めば、一転してデフレが心配になるだろう。「輸入物価の上昇」は消費者物価を押し上げるが、そのコスト上昇を企業が完全に価格転嫁できなければ、GDPデフレーターには下落圧力がかかることになる。
10月〜12月期のGDPデフレーターは前年同期比マイナス1.3%とまだ大きく下落している。各国の中央銀行が順々に金融緩和の縮小に動いていっても、日銀は最後まで粘り強く現行の金融緩和の枠組みを維持していくことになるだろう。
交易条件の悪化による物価上昇の負担を軽減するのは日銀の役割ではない。政府の追加経済対策が必要になる。
▽消費者物価指数とGDPデフレーター
1月のコア消費者物価指数
1月のコア消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月比プラス0.2%と、12月の同プラス0.5%から上昇幅が縮小した。1月のエネルギー価格は同プラス17.9%(12月同プラス16.4%)と上昇幅はまだ拡大している。
しかしテクニカルに、昨年1月にGo toトラベルの停止で宿泊料などが大きく上昇した反動があった。火災・保険料が引き上げられた反動もあった。
原油価格は再び上昇しているため、2月、3月にはコア消費者物価指数の上昇幅は若干、拡大するだろう。4月には昨年の携帯電話通信料の大幅な下落の影響が剥落する。
さらに、企業が供給制約を意識することでシェアではなく収益を最大化する。値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視するようになっているとみられる。
供給制約への理解などにより「需要の価格弾力性が低下している」と認識されれば、コストの増加分の価格転嫁を進めるとともに、需要の回復にともなう値上げの可能性につながる。4月の新年度入り後に価格戦略の変化がみられるだろう。
一方、延長された「まん延防止等重点措置」が3月中に終了すれば、4月にはGo toトラベルの再開による宿泊料の低下が見込まれる。それを考慮しても、4月のコア消費者物価指数は1%台の半ばまで一気に上昇幅が拡大する可能性がある。
▽物価動向指数 注:2014年度の大きな上昇は消費税率引き上げの影響
物価動向指数
物価、賃金、マネー関連の指標をまとめて物価動向指数を作った。全国と東京のコア消費者物価指数、企業物価指数、企業向けサービス価格指数(1ラグ)、新規求人倍率(1ラグ)、毎月勤労統計総賃金(1ラグ)、広義流動性、マネーストック(M1)を、Zスコア(当月データ−36カ月移動平均/36カ月標準偏差)をとり、平均をとる。
物価動向指数は2022年1月には1.1となり、12月の1.2から低下した。2020年5月の0.2を底に持ち直している。プラスはトレンドを上回ることを意味するため、物価動向には上昇圧力が蓄積してきている。
しかし、物価上昇が問題になるような強さの水準にはない。4月に消費者物価指数の前年同月比が大きく上昇しても、そのほかの要因も考慮する物価動向指数の上昇は比較的小さなものになるだろう。内需拡大による総じた物価上昇圧力が強くなるまで、日銀は現行の強力な金融緩和を続けることになるだろう。
▽物価動向指数の各構成要素のZスコア
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