この記事は2022年5月13日に三菱総合研究所で公開された「欧州:消費者物価(2022年4月) ―― 物価上昇継続、期待インフレは2%を超える」を一部編集し、転載したものです。
今回の結果
2022年4月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP、速報値)は前年同月比+7.5%。1997年の統計開始以来の過去最高の伸びとなった(図表1)。
エネルギー価格は同+38.0%と高い伸びが続いており、物価上昇の主因となっている。コア物価は、同+3.5%と3月(同+2.9%)から上昇幅が拡大し、幅広い品目で物価が上昇している。
基調判断と今後の流れ
ユーロ圏の消費者物価は、エネルギー価格高止まりを主因に上昇が続いている。
先行きの注目点は、(1)エネルギー価格の物価への影響と、(2)賃金の伸びを上回る物価上昇が続くかだ。
(1)について、化石燃料の脱ロシア加速により、物価の高止まりが続くとみる。欧州委員会は、ロシアからの石炭および石油・石油製品の禁輸の方針を発表、天然ガスの禁輸も検討している。欧州の天然ガス契約の7-8割はスポット契約とされており、市況の変動を受けやすい。エネルギー消費に占める化石燃料の割合やロシア依存度は各国でばらつきがあり、ロシア依存度の高いドイツなどでは、エネルギー価格上昇による物価上昇圧力が強い状況が継続するとみる(図表2)。
(2)について、雇用環境は回復しているが、賃金の伸びは抑制されており、実質賃金はマイナスで推移している(図表3)。今後は、雇用環境の改善や最低賃金引上げなどを背景に賃金上昇圧力は強まるとみるが、物価の高止まりから、実質賃金はマイナスで推移し、欧州経済の下押し要因となるだろう。
欧州経済はウクライナ危機を受けた経済減速と物価高止まりリスクに直面している。市場の期待インフレ率は3月以降2%を超えている(図表4)。ECBは緩和縮小に向けた議論を加速させているが、スタグフレーション懸念もある中、難しいかじ取りが求められるだろう。
綿谷 謙吾(わたや けんご) 政策・経済センター 官民のサイバーセキュリティ分野、特にセキュリティ経営に関する業務に従事後、現在は日本経済分析や行政分野のデジタル化などについて担当。マクロ経済の知見とデジタル分野の知見を生かし、分析・情報発信を行っている。 |