本記事は、平川憲秀氏の著書『日本一働きやすい治療院を目指したら、人が辞めない会社になりました』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
「経営計画書」の最大の効果は、社長に振り回されない組織づくり
経営計画書は会社のルールブック
経営計画書とは、先述した通り、会社の「ルール」をまとめたものです。
5期先までの長期事業計画を記した「数字」の部分と、経営理念やさまざまな業務でのルールや社員の人事や評価の基準、福利厚生に関する規定などの「文字」の部分で構成されています。
期ごとに更新することになっていて、期が変わる前に見直し、時流に合わせて内容も変化させていきます。当社では2016年9月に1冊目をつくり、これまでに6冊を作成しています(2022年3月現在)。
また、各期が始まる9月には、この経営計画を発表する経営計画発表会を開催。ここには社員のほか、取引のある金融機関のご担当者などをご招待し、当社の雰囲気を間近で見ていただく機会にしています。
経営計画書を作成し続けることの最大のメリットは、社員たちが社長である私に振り回されなくなったことでしょう。
私自身は自分の発言が「コロコロ変わる」という自覚はないのですが、先述した通り、経営計画書を作成する以前は、幹部社員たちからそう思われてしまうことがしばしばありました。
その結果、社員たちは、社長である私の発言に振り回され、「社長、また違うことを言っている。いい加減にしてくれ」となってしまう。こうした状況は社員たちにとってかなりストレスです。「こんな社長には付き合いきれない」と離職につながることもあり得ます。
さらに言えば、こんな状況を続けていたら会社の中長期的な成長は難しくなります。なぜなら、コロコロ変わる(ように聞こえる)社長の言葉に合わせているうちに、自分たちの会社がどこに向かっているのかわからなくなってしまうからです。
一方、経営計画書では、会社のルールや基準が数字や文字となってしっかり記されています。つまり、これらが目に見える「形」となるわけです。
口で発した言葉は録音でもしない限り消えてしまいますが、文字化された言葉はその後も残り続けます。そのため、たとえば、「3年後に、この会社はどこを目指しますか?」と質問をされたら、経営計画書でそのことについて記述している部分を読めば、この質問につねに同じ回答をすることができます。その意味で、経営計画書によって「再現性」が担保されるのです。
また社員たちも、私の発言が経営計画書からズレている場合には、「経営計画書にはこう書かれています」と指摘し、私の発言を軌道修正することができます。それによって彼らは私に振り回されなくなるし、私もさまざまな局面で軸からブレずに済むようになります。
ですから、今の私は、経営計画書を肌身離さず常に携帯するのが習慣になっています。そしてあらゆる根拠を経営計画書に求めるようになっています。平川TV等で社員たちに何かを説明するときにも、「それについては、経営計画書のここに、こう書いてあるよ」と伝えます。そうやって大本にあたってもらうことで、双方の理解に齟齬が生じないようにしているのです。
経営者のモチベーションアップにつながる
そのほか、私が個人的に経営計画書のメリットと感じているのが、経営者としてのモチベーションアップにつながる、ということです。
経営計画書には、5期先の事業構想を記していると先述しました。そこには、今後、会社がどれくらい成長していき、また社員たちの給料はどれくらい上がっていくのかといったことが記されています。
そしてそれを、経営計画発表会等を通じて、社員や取引先の金融機関のご担当者さまなどへオープンにするのです。
もし、1年後、2年後、3年後と、それらの計画があまり達成できていなかったとしたら、社長としてはやはりかっこ悪い。
そのため、計画を立てて、文字化し、たくさんの人に「達成します」と約束したからには、「実現しなくては!」という気持ちになります。
つまり、オープンにすることで、自身の退路を断つ。実現に向けて動かざるを得ない状況に自分を追い込む。その結果、仕事の取り組みへの本気度がアップする。
そして実際、これらの計画はどんどん実現していっています。これには自分でも毎回ビックリなのですが、経営計画書があってこそだと感じています。
「平川TV」は経営計画書を学ぶ仕組み
ただ、経営計画書の効果がどれくらいすごくても、それを社員たちが読まないようでは、価値はゼロになってしまいます。経営計画書は習慣的に読んでもらってこそ意味があるのです。
「会社から配布されたものは、きちんと目を通すのが社会人の常識だろう」というのは、思い込みです。社員は目なんて通してくれません。下手すれば、配布後、1年間、ずっと机の引出しの中で眠ったままです。
そのため、社員に読んでもらおうと思ったら、こちらから何らかの手を打つ必要があります。
そこで、当社では、経営計画書を習慣的に読み、理解してもらうためのいくつかの仕組みを用意しています。
その1つが「平川TV」です。
これは、私がオンラインで社員たちに講義をする、というものです。社員教育として実施しており、目的は全社員の間でエンパワーメントの価値観を共有することです。その際のテキストとなるのが経営計画書で、私の講義では毎回、その内容について解説しています。
開催する曜日は不定期で、月に4〜5回、年間にすると50〜60回実施しています。つまり、年に最低50〜60回は経営計画書を社員たちは開くわけです。平川TVはまさにそのための機会です。
時間帯は9時25分から9時55分の30分です(私の講義が20分、社員からの質疑応答やフィードバックの時間が10分)。当社は9時始業で、9時〜9時10分が朝礼、その後、9時25分までが朝の準備(レジの開設、カルテの準備、店のお掃除など)をして、9時30分から受付スタートです。一方、平川TVのある日は、受付スタートを10時にしています。
つまり、予約枠を1つブロックして、平川TVを実施しているわけです。
予約枠を1つブロックすれば、その分の売上はゼロになります。そうした貴重な予約枠をブロックしてでも平川TVを実施する。こういう話を実は社員たちにしょっちゅうしています。そうやってインパクトを与えることで、そこで語られる内容がいかに重要なのかを社員たちに強く印象付け、「しっかり経営計画書の内容を理解してください」というメッセージを送っているわけです。
環境整備点検、朝礼も経営計画書に触れる仕組み
毎月1回実施している環境整備点検も、社員たちに経営計画書を読んでもらう機会になっています。
この点検では、社長である私が各店舗を回って環境整備がきちんと実施できているかをチェックしていくのですが、その際、毎月交替で数名の社員に同行してもらいます。
その同行の最後に「社長への質問タイム」というのがあり、各社員に3つずつ、質問をしてもらいます。そのうちの1つは、「経営計画書の内容に関するもの」というのがルールです。
こうしたルールを設けることで、社員たちに確実に経営計画書を読んでもらえるわけです。
そのほか、毎朝の朝礼においても経営計画書を読む時間があり、これもまた、習慣的に経営計画書に目を通してもらう仕組みの1つとして機能しています。
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