この記事は2022年5月27日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『1ページで分かる日本経済・財政の論点(2):財政支出が足りず家計に所得が回らない』」を一部編集し、転載したものです。


日本経済,財政
(画像=PIXTA)

目次

  1. 財政支出が足りず家計に所得が回らない
  2. 松本サンダーのグローバルウォッチ:関税引き下げの物価押し下げ効果は限定的か 

財政支出が足りず家計に所得が回らない

  • 企業と政府の合わせた支出力のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が家計に所得が回る力

  • 財政支出が足りず、ネットの資金需要が消滅し、家計に所得が回らず、デフレ構造不況が継続

  • ネットの資金需要を回復させ、家計に所得を回すことが、新しい資本主義の定義であり、名目GDPを3%成長させるために-5%程度が必要

▽ネットの資金需要を消滅させたのが新自由主義の失敗

ネットの資金需要を消滅させたのが新自由主義の失敗
(画像=出所:日銀、総務省、内閣府、Refinitiv、岡三証券、作成:岡三証券)

▽積極財政で新しい資本主義が稼働

積極財政で新しい資本主義が稼働
(画像=出所:岡三証券)

松本サンダーのグローバルウォッチ:関税引き下げの物価押し下げ効果は限定的か 

輸入物価抑制のため、中国からの輸入関税引き下げをバイデン大統領が検討している。

輸入関税の引き下げは輸入企業にとってのコスト減となるため、一般的には物価抑制効果があると考えるが、仮に対中国のみでなく、全貿易国に対する関税を撤廃した場合、実際に物価をどれほど押し下げる効果があるか、試算した。

▽関税撤廃によるPCE価格の押し下げ効果

関税撤廃によるPCE価格の押し下げ効果
(画像=出所:岡三証券)

まず、米国の個人消費支出(PCE)のうち、直接的または間接的に海外から輸入されている品目やサービスは全体の10.7%であるとしている(サンフランシスコ連銀調べ)。

その中の関税対象は、WTOによると、全品目のうち対中国は66.4%、その他の国に対しては53.7%である。そして、関税対象品目に対する加重平均税率は、対中国は19.3%であり、その他の国に関しては3%であるという。

これらの情報をもとに大まかに計算すると、現実的ではないが、米国が輸入関税を仮に全品目で撤廃すれば、PCE価格指数を合計で0.35ポイント(中国のみでは0.21ポイント)押し下げることとなる。

これを、前年比・前月比ベースの変動に置き換えれば、3月PCE価格指数はともに1.2%ポイント押し下げられていた計算となる(3月PCE価格は前年比+6.6%、前月比+0.9%)。

▽米中貿易戦争前後のPCE価格指数

米中貿易戦争前後のPCE価格指数
(画像=出所:岡三証券)

以上の試算は、単月ではそれなりに大きな押し下げと言えるが、あくまでも全関税を一度に撤廃するという極端な想定であることや、関税撤廃分を企業がどの程度販売価格に転嫁させるかなどによって、試算結果が変わり得る点には注意が必要である。

試算結果は全関税撤廃であるため、対中国の限定的引き下げであれば、物価への影響はさらに軽微である可能性が高い。実際、対中国への関税が引き上げられた2018年以降を見ても、インフレ率が顕著に上昇した傾向は見られない。そのため、仮に関税が実際に引き下げられても、FRBの利上げ想定が変更されるほどのインパクトを与える可能性は極めて低いと考える。

関税の操作は単純なコスト増減だけでなく、雇用や企業の投資マインドなど幅広く波及することが考えられるため、生じ得る影響の厳密的な分析は困難である。

トランプ政権下での関税引き上げによるインパクトを分析した研究は多く出ているが、それらは、引き上げられた関税が長期間維持されたと仮定した場合の、成長率や雇用などに対する分析結果である。

そうしたことからも、輸入関税を引き下げても、その効果は金融市場に影響を与えるような短中期のものではなく、物価統計でも顕著に変化を感じられるような結果とはならないだろう。

現在の高インフレは、物流の停滞に起因する供給制約だけでなく、貯蓄の切り崩しや、堅調な雇用環境を背景にした賃金上昇などの根強い需要要因も影響している。

不透明要因が多く、広い意味での供給制約の解消には時間を要する可能性が高いことを踏まえると、高インフレの根本的な解決には、世界的な負の需要ショックが必要であると言えるだろう。

会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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