本記事は、大下英治氏の著書『論語と経営 SBI北尾吉孝 下 立志篇』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

暗号資産
(画像=(写真=taa22/stock.adobe.com))

暗号資産の転換期

令和3年(2021年)9月24日、中国の中央銀行である中国人民銀行は暗号資産の関連事業を全面禁止すると発表した。これを受けて、代表的な暗号資産であるビットコインの価格は急落した。

北尾によると、これは令和4年(2022年)に予定されているデジタル人民元発行に向けた環境整備が目的であるという。これまでビットコインや他の暗号資産により国内から国外へ資産が流出したり、マネーロンダリングに使われたりしていた。

これらを防ぎ中国共産党がすべてコントロールするのが目的である。いかにも中国らしいやり方である。最終的には、ドルに代わる基軸通貨のポジションを得て、世界の貿易通貨にするのが狙いである。

いま、暗号資産も1つの転換期を迎えている。

令和2年(2020年)12月23日、米証券取引委員会(SEC)は、米リップル社が開発に関与するXRPの販売に関して、違法な未登録有価証券の販売に当たるとして提訴した。

さらに、令和3年(2021年)9月14日、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は、上院の公聴会で次のように述べた。

「コインベースのような暗号資産取引所でも、中には有価証券に該当する可能性のある資産を取り扱っているため、その場合は証券取引所としての登録が必要になるだろう」

現状、SECが明確に有価証券に該当しないと言及しているのはビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のみだ。それ以外の暗号資産は有価証券に該当する可能性があるため、それらを取り扱うには証券取引所としての認可が必要になるという。

XRPは、リップル社が取り組む送金ネットワーク「リップルネット」に使用される暗号資産である。リップル社が取り組む分散型台帳システムは、現在の国際送金に使用されているSWIFTで多大なコストと時間がかかっているという問題を解決できるソリューションとして注目を集めている。

金融機関や国際送金サービス業者などがリップル社の「XRP Ledger」を導入することで、国際送金コストを格段に安く、しかも、早くできるようになるというメリットがある。そしてリップル社は

「必ずしもSWIFTと競合するとは限らない」と明言している。

リップル社のこうした貢献を無視するかのように、SECは「XRPは有価証券」とし、リップル社はこれに反発して「暗号資産である」として、議員も巻き込んで争っている。北尾は、こうした訴訟の結論が今後、1年もしないうちに出て、また暗号資産の世界も変化していくだろうと見ている。

送金無料アプリ「Money Tap」

北尾が新たなツールを導入すると、モーニングスター社長の朝倉智也あさくらともやらは、その度に、猛勉強してビジネスを進めていく。他社より一歩先を行くスピーディな姿勢が、SBIグループのDNAの1つである。先頭を切って走るので道は無く、手探り状態となり、ネガティブな意見もあちこちから聞こえてくる。朝倉たちは北尾を信じて、何の疑いもなく前へ進み続ける。そこにあるのはアントレプレナーシップ(起業家精神)であり、イノベーション(技術革新)を起こす開拓者精神である。

SBIグループの場合、その開拓者精神は「世のため、人のため」であるから、先取りして市場を独占することが目的ではない。1つの分野で独占や寡占かせん状態となると、そこに権力と権益が集中してしまう。独占状態を解き放ち、裾野にまでイノベーションが広まって利便性が高まれば、一般の人たちにとって好ましい状況となる。それこそがSBIグループの目指すところである。

インターネットがその良い例である。ネットが普及する前の情報は常にメディアからの一方通行だった。それが一般の人もネットを通じて世界中からさまざまな情報を入手でき、自分で意見を発信することも可能となった。

暗号資産も同様である。進化していく世の中に対応すべく、北尾が〝ツール(道具)の1つ〟として導入を始めた。その基礎となるブロックチェーン技術は、金融のみならず分散型社会や持続可能な社会をつくる技術の1つとして関心が高まっている。

SBIホールディングスの子会社で、次世代金融インフラを提供するマネータップ社では、分散型台帳技術(DLT)を活用した高機能・低コストの「次世代金融インフラ」を提供している。

スマートフォン用送金アプリ「Money Tap」は、チャージ不要の接続銀行間の送金アプリである。

サービス対応銀行の口座に直接、24時間365日いつでも手数料無料で、リアルタイムに送金・着金が可能である。さらに、ビリングシステム社が提供するスマートフォン決済サービス「Pay B」を「Money Tap」内アプリとし、コンビニ支払用払込票のバーコード読み取りで、公共料金・税金などの支払いがスマホで可能となった。

これまでA銀行からB銀行へ送金する場合は、高い手数料を取られていたが、「Money Tap」に参加している銀行同士ならアプリを使うことで無料となる。

今まで甘い汁を吸っていた銀行の送金システムを破壊することは当然、銀行にとって不満であろう。が、独占状態で高止まりしている部分を壊して初めて、利用者にとって非常に利便性の高い、ありがたいサービスに変身するのである。

これまでは暗号資産は「何か面白そう、値段が上がりそう」という理由でブームとなり、相場が過熱したりした。インターネットが登場した時もそうだったが、投資家の注目を浴びてバブルが来て、一度バブル崩壊となり、やがて市場に浸透して多くの人々が本当の価値に気づいた。暗号資産も同様で、バブル的な上昇を演じた反動で急落したが、最近になってその利用価値の大きさにみんなが気づき出した段階にある。このまま利用者が広がっていけば、暗号資産はゲームチェンジャーとなり、世の中が変わる。

もちろん、暗号資産は投資対象にもなり得る。モーニングスターにも仮想通貨アプリがあり、無料で提供している。

朝倉が勧めるのは、やはり長期的に投資先の将来性を見据えた「投資」であり、1つの銘柄にこだわらず「分散」させる方法である。暗号資産もまた、ファンドにして買いやすくする方法を、SBIグループが先陣を切って日本国内で展開しようと動いている。個人投資家のお金を預かり、「XRPには何%、ビットコインには何%」と分散投資するサービスである。

国内初の暗号資産ファンドを組成

アクティブファンドとは? そのメリットとデメリット、選び方のコツも解説
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

令和3年(2021年)12月、モーニングスター子会社のSBIオルタナティブ・ファンド合同会社が国内初となる暗号資産ファンドの設定および募集を開始した。富裕層を中心とした個人を対象として運用期間は1年、上限を設けず100億円超の運用を目指す。

暗号資産は価格変動が激しいが、3カ月かけて暗号資産を買付け、売却も償還前の3カ月間で行うことで投資・売却タイミングのリスクを軽減する。ポートフォリオの中身は、ビットコインやイーサリアム、XRP、ビットコインキャッシュ、ライトコイン、チェーンリンク、ポルカドットの7種類の暗号資産に分散して投資する。

ファンドは匿名組合の形式を取る。一般的な投資信託と違い税制上のメリットはないが、個人投資家では難しい資産と時間の分散をファンドの中で行ってくれる。最低投資金額は500万円とし、ある程度投資の知識を持つ個人に対象を絞る狙いがる。

より丁寧なリスクの説明をするため、地銀との共同店舗などを持つSBIマネープラザを通じて販売する。

朝倉は、暗号資産の値動きは株式や債券など伝統的な資産との相関関係が薄く、リスクヘッジとしても投資の選択肢になり得ると指摘。投機ではなく、顧客の資産ポートフォリオの中の1つとして位置づけてほしいと訴えている。

まずは、1号ファンドで信頼できるトラックレコード(運用実績)を上げることに注力する。顧客や当局の理解が進めば、2号、3号ファンドの構想や、投資信託化やETFとして多くの投資家に販売できる可能性が広がるとみる。また、スイスやカナダなど暗号資産ビジネスが広く認められている国で現地の運用会社と提携し、上場投資信託の設定なども検討する。

一方、ギャンブル的な「投機」対象として暗号資産が人気なのも確かである。

世界ナンバーワンの電気自動車メーカー・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者は、暗号資産信奉者である。会社だけでなく自らも投資を行っている。テスラ社のプロダクトやサービスの決済にはビットコインも利用可能だ(現在は環境への配慮を理由に停止中)。そんな情報が流れるだけでビットコインの価格が一気に乱高下する。1人の投資家がツイッターでつぶやくだけで、値段が爆騰することもある。

暗号資産がさまざまなサービスと繋がる可能性、その基盤となるブロックチェーンの可能性は計り知れない。長期目線で投資をすれば、数年で世の中が変わっていき気付いた時には暗号資産の値段が上がっている。アマゾンやフェイスブック、テスラなど、巨大企業もその10年、20年前は、今の暗号資産と同じような状況だった。近いうちに大化けすることを、最も期待しているのが北尾である。

現在、世界の基軸通貨は「米ドル」であり、中国の「元」も躍進して「ユーロ」、「日本円」の4つが世界で認められている法定通貨である。最近は、各国の中央銀行が暗号資産を取り扱う動きがあり、紙幣などなくてもスマホで決済できるようになっている。が、法定通貨がなくなるのではなく、暗号資産と両方が併存していくことになる。

だが、10年経てばどうなっているのかは、誰にも予測できない。法定通貨は中央集権的で、暗号資産は非中央集権的であるが、もし「暗号資産の方が信頼できる」となれば今の勢力図は変わるかも知れない。世の中が変わり、皆が気づいてからでは遅い。北尾は常に先を読み、多少のリスクを取ってでもその可能性を探ることを続けている。

SBIグループでは、平成22年(2010年)8月24日、国際送金業のSBIレミット社(代表取締役・安藤伸生)を設立。次いで平成28年(2016年)11月1日、暗号資産の交換・取引サービス、システムの提供を行うSBI VCトレード社(代表取締役CEO・尾崎文紀)が設立された。

国内の暗号資産交換業者であれば10銘柄以上の暗号資産を取り扱っているが、SBI VCトレードではビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)、ビットコインキャッシュ(BCH)、ライトコイン(LTC)、チェーンリンク(LINK)、ポルカドット(DOT)の7種類のみ取り扱っている。種類を絞った分、初心者にもわかりやすくなっており、低額からの注文も可能である。また、入金手数料は無料、出金手数料も住信SBIネット銀行を利用すれば無料と、各種手数料を大幅に抑えることに成功している。可能な限りコストを抑え、取引手数料を下げる。手数料が安くても、多くの人が利用してくれれば収益になる。まさに「公益は私益に繋がる」である。

また、SBIは、XRPの開発に関与するアメリカのリップル社に、約10%投資している。もし今後XRPのニーズが急速に拡大すれば、その経済的価値は計り知れないものとなるだろう。

論語と経営 SBI北尾吉孝 上 激闘篇
大下 英治
作家。1944年広島県に生まれる。広島大学文学部仏文学科卒業。大宅壮一マスコミ塾第七期生。1970年、『週刊文春』特派記者いわゆる“トップ屋"として活躍。圧倒的な取材力から数々のスクープをものにする。月刊『文藝春秋』に発表した「三越の女帝・竹久みちの野望と金脈」が大反響を呼び、三越・岡田社長退陣のきっかけとなった。1983年、『週刊文春』を離れ作家として独立。政治、経済、芸能、闇社会まで幅広いジャンルにわたり旺盛な執筆活動を続ける。『小説電通』(三一書房)でデビュー後、『実録 田中角栄と鉄の軍団』(講談社)、『美空ひばり 時代を歌う 』(新潮社)、『昭和闇の支配者』(だいわ文庫)〈全六巻〉、自叙伝『トップ屋魂』(解説:花田紀凱)、『孫正義 世界20億人覇権の野望』、『小沢一郎の最終戦争』(以上ベストセラーズ)、『田中角栄秘録』、『児玉誉士夫闇秘録』、『日本共産党の深層』、『公明党の深層』、『内閣官房長官秘録』、『小泉純一郎・進次郎秘録』、『自由民主党の深層』(以上イースト新書)、『安倍官邸「権力」の正体』(角川新書)、『電通の深層』(イースト・プレス)、『幹事長秘録』(毎日新聞出版)、近著に、『ふたりの怪物 二階俊博と菅義偉』、『野中広務 権力闘争全史』、『小池百合子の大義と共感』、『自民党幹事長 二階俊博伝』(以上エムディエヌコーポレーション)、『内閣官房長官』、『内閣総理大臣』(MdN新書)など著書は480冊以上に及ぶ。

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