本記事は、大久保秀夫氏の著書『勝ち続ける社長の教科書 王道経営8×8×8の法則』(ビジネス社)の中から一部を抜粋・編集しています

いい会社はもともとSDGsを実践している

横浜市はなぜ「SDGs未来都市」に選ばれたのか 各自治体の取り組みに注目
(画像=SakosshuTaro/stock.adobe.com)

ここ数年、日本でも盛んに「SDGs」という言葉が使われるようになりました。SDGsによって、多くの人が地球環境や社会環境、経済環境の問題点に気付き、その解決に向けた取り組みをしていること自体は、社会の価値観が正しい方向に変わりつつある素晴らしい変化だと歓迎しています。

ただ一方で、これは流行り廃りで取り組むことではない、ということは強くお伝えしておきたいところです。

企業は本来、社会の役に立つための公器なのですから、SDGsが掲げているさまざまな目標は、もともと企業が取り組むべきテーマなのです。

実際、私の会社はずっと社会に役立つことを事業としてきました。創業時、半官半民の電電公社が独占していた通信市場を、民間の発想で、より安く、より便利に使えるように「新しいあたりまえ」をつくってきたことは、まさにSDGsの目標9にある「産業と技術革新の基盤をつくろう」に直結したものです。だからこそ、日本中で多くの中小企業に受け入れられたのだと思います。

同様に、日本を代表するようなすべての企業は、自社でできる社会貢献を試行錯誤し、その結果、社会に役立つ存在であることが認められ、顧客を増やし、会社を成長させてきたのです。

ある経営者は「今さらSDGsのバッジを付けるなんて恥ずかしいこと。これまで何も社会貢献をしてこなかったと宣言しているようなものだ」とおっしゃっていました。まったく同感です。本来、企業が果たすべき役割は何も変わっていないのです。

このSDGsが単なるムーブメントで終わるのではなく、従来の間違った価値観を正してくれるきっかけになることを期待しています。これから世界中で「企業は世の中の役に立つために存在する」という考え方があたりまえになる、その変化のポイントにしなければいけません。

特にこれから成長が期待されるアジアやアフリカの新興国において、企業が果たす役割はより大きなものとなります。そこで「儲ける」が最優先されてしまったら、働く人も、顧客も、地球環境も、大変なことになってしまうでしょう。そうならないためにも、企業の目的は「社会性」が第一であることを、一人でも多くの人に気付いてもらわなければならないのです。

SDGsの最も素晴らしい点は、地球レベルで物事を捉える大きな視座から考えたフレームワークになっていることです。

この地球は、未来の子どもたちのためにもなくてはならないものです。自分たちが「未来に残す」のではなく、未来の子どもたちのために私たちが「今、預かっている」という気持ちで、しっかり取り組んでいく必要があります。地球という場を借りて商売を行い、得た利益は、この地球を守るために使っていくのが当然ではないでしょうか。

そして社会のために、地球全体の利益、つまり「地球益」のために取り組む国、企業、個人が高く評価される時代にしていくべきなのです。

このような話をすると、たまに勘違いされる方がいるので補足しておきましょう。「利益」を得ることは決して悪いことではありません。「利益」がなければ、より社会に貢献するための活動を広げることはもちろん、事業を続けることすらできなくなります。

よって、私は「利益」を否定しているわけではありません。しかし、それは「社会性」「独自性」ということをきちんと理解し、実行したうえで、結果としての「経済性」でなければいけないということをお伝えしたいのです。

「ありがとう」を見える化する

私は、企業の本当の価値は「ありがとう」の数だと思っています。この「ありがとう」がどれだけ集まっているのかが、その企業の存在感となるのです。

そして企業が「ありがとう」を集めるためになすべきは、ライバルとの競争に勝つことではありません。本当になすべき競争は、お客様と向き合い、お客様が困っていること、求めていることに対して、「どうすれば、どうすれば」「何をしたら、何をしたら」「これでもか、これでもか」と、お客様に満足していただけるような商品開発やサービスの向上を図ることです。

その結果、商品・サービスを購入してくれるお客様から、心からの「ありがとう」を言ってもらえることが本来の仕事の「在り方」であり、利益とはその結果でしかないのです。

そして、この「ありがとう」の結果としていただいた「利益」は、実は「経費」であると私は考えています。

どういうことかというと、さらに多くのお客様に「ありがとう」を言ってもらうために、この利益を経費として「社員を増やそう」「社員教育を強化しよう」「多くの拠点を増やそう」「新商品を開発しよう」という目的で使い、成長していけるからです。

このようなスタンスが、本来、企業のあるべき姿です。だから企業にとって、「利益=経費」が必要であり、会社が継続、成長していくための源泉となるのが、「ありがとう」の数なのです。

そういう意味で、売上や利益は「ありがとう」が集まった数ともいえますが、イコールといえないところが課題です。そこで、これからの社会は企業が集めた「ありがとう」を見える化し、評価できる世の中にするべきだと思います。

上場企業は、IR情報としていろいろな経営数値を開示していますが、お客様からいただいた「ありがとう」の数を発表している会社は聞いたことがありません。それは人の気持ちですから、目に見えませんし、形として残りにくいので、数値化しづらいからでしょう。

しかし、この「ありがとう」という人の気持ちこそが、本当は企業の業績を大きく左右しているはずです。

私は、経営学とは実は心理学だと思っています。我々が相手をしているのは数字ではありません。

一人ひとり個性のある人間なのです。お客様と心と心で対話をしなければ、心からの「ありがとう」をいただくことはできないのです。

しかし最近は、生活や仕事の至るところにICTが普及した結果、「ありがとう」が見えない社会になりつつあります。自分の仕事の成果として「ありがとう」に触れられない人が増えているのです。

また、パソコンで株式を売買し、一瞬で平均年収を大きく超えるようなお金を得ることも理論上は可能です。それはコストパフォーマンスとして大変優れた収入の得方かもしれませんが、「ありがとう」は得られません。いろいろご意見はあると思いますが、「ありがとう」なしにお金を得る行為は、私はゲームでしかないと考えています。

一方、日本古来の「商い」は、地域に密着し、人と人との間で行われていました。本当の付加価値をお客様に提供し、長く商売を続けるという姿勢が大切にされてきたのです。

近年はWebを通した間接的な取引が増えていますが、それでもこの「商い」の「在り方」が、正しいあるべき姿であると考えています。

古くから商人の間では、「三方よし」ということがいわれ、売り手も、買い手も、そして地域にも、すべての人に喜んでもらおうという考えが大切にされていました。

テクノロジーを活用した現代のビジネスでも、この考えは王道であり、何ら変わることはありません。いやむしろ、これからは新しいテクノロジーを活用することで、正しい商売の「在り方」を実現できる、つまり、より多くの人により多くの幸せを提供し、より多くの「ありがとう」をいただけるようになる可能性があると考えています。

勝ち続ける社長の教科書 王道経営8×8×8の法則
大久保秀夫(おおくぼ・ひでお)
1954年、東京都生まれ。國學院大學法学部卒業後、経営方針に納得できず退社。1980年、25歳で新日本工販株式会社(現在の株式会社フォーバル 東京証券取引所 プライム市場)を設立、代表取締役に就任。電電公社(現NTT)が独占していた電話機市場に一石を投じるため、ビジネスフォン販売に初めてリースを導入し、業界初の10年間無料メンテナンスを実施。1988年、創業後8年2カ月という日本最短記録、史上最年少(ともに当時)の若さで店頭登録銘柄として株式を公開。同年、社団法人ニュービジネス協議会から「第1回アントレプレナー大賞」を受賞。その後も、情報通信業界で数々の挑戦を続け、上場会社3社を含むグループ企業33社を抱える企業グループに成長させた。2010年、社長職を退き、代表取締役会長に就任。会長職の傍ら、講演・執筆、国内外を問わずさまざまな社会活動に従事。カンボジアにおける高度人材の育成を支援する「公益財団法人CIESF(シーセフ)」理事長も務める。さらに一般社団法人公益資本主義推進協議会 代表理事、東京商工会議所副会頭・中小企業委員会委員長なども務めている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)