本記事は、大久保秀夫氏の著書『勝ち続ける社長の教科書 王道経営8×8×8の法則』(ビジネス社)の中から一部を抜粋・編集しています

「会社」の理想像、正しい現状と向き合う

スピード
(画像=BillionPhotos.com/stock.adobe.com)

社長は会社の代表として、自分の会社はもちろんのこと、お客様、取引先、社会、未来、ライバル等、多くの相手と向き合うことが求められます。どのような相手に、どのような向き合い方をするべきか、私なりに心がけ、実践してきた8つの法則を紹介させていただきます。

「PDCA」については皆さんご存じだと思いますが、私は会社と向き合う時に「PDCA」ではなく「PDCAA」をチェックするようにしています。

最後の「A」が意味するのは「アチーブメント」です。PDCAを漫然と回すだけでは不十分であり、アチーブメント、すなわち「必ず達成する」という意識を持って物事に臨むことで、大きく成果が変わります。

通常のPDCAは、「計画を立てる → 実行する → 評価する → 改善してまた行う」という、経営品質を改善するためのフレームワークです。

しかし、PDCAを行っても、必ずうまくいくとは限りません。そもそも、うまくいかないやり方を何度改善したとしても、0は1にならないからです。

アチーブメントしている理想の状態をイメージして、「どうしてこのやり方では達成できなかったのか」を全員で共有し、次から同じ失敗を繰り返さないようにする。また前回よりも理想の状態に近づけるようにするための作戦を立て、うまくいったところも共有し、その成功体験を高く積み重ねていく。これを繰り返さなければ、会社や社員に力が付きません。

反対に、達成できた場合も理想とするアチーブメント像をしっかり持つことで、向き合い方が変わります。多くの会社は目標が達成できた場合、「結果が良ければすべてよし」で済ませてしまいがちだと思います。

結果は非常に大切ですが、特に営業などは、たまたまある月に受注が偏ったせいで、数字的に目標を達成できることもあります。そのような「たまたま」に一喜一憂しても成長にはつながりません。フォーバルでは「理想とする達成ができているか」までをきちんと検証し、全体像をチェックするようにしています。

私は社長と毎週2時間、定例会議の時間を設けています。それは達成された目標が、理想とする形のものかどうかを検証するためのものでもあります。社長の中島から1週間の営業数字について、「先週は、売上・利益においては予算を達成しましたが、中身は0点です」という報告を受けることがあるのです。

仮説通りの動きをして、想定した相手先から、想定した通りの数字を達成できれば満点です。

しかし、仮説通りの営業活動をまったく行わなくても、結果オーライで注文をいただけることもあります。フォーバルでは、そういう営業成果は評価しません。

この方針を徹底するため、チェック機能を設け、事業の進捗状況について何十、何百という角度からプロセスをチェックします。私も社長の中島も慣れているので20分もあれば確認できますが、普通の人がすべてチェックしたら、何時間もかかるような膨大な量のデータです。

我々は毎週、同じデータを確認し、過去の数字が時系列ですべて頭に入っているため、「1週間前からどう変わったのか」が、見た瞬間にわかります。このプロセスチェックについては10年以上、凡事徹底で絶対に手を抜かず、どんなに忙しくても毎週確認を続けています。

参考までに、我々がチェックしている資料を簡単に紹介しておきます。

まず、部門ごとの実績を月別・期別・年別で確認できる資料があり、予算に対する進捗はもちろん、前月対比、前年対比、前々年対比について、一目で確認できるようになっています。また、同じ内容を商品セグメントごとに確認できる資料や、日割りベースで確認できる資料もあります。さらに、営業一人あたりの行動量も決めていますので、それに対して全国の拠点別に、稼動人数、訪問件数、商談数、成約数などをデイリーで出し、週単位でチェックしています。

これを確認することで、「この支店は絶対、来週は売上が落ちるぞ」とか、反対に「来週は挽回するな」ということが、すべてわかるのです。なぜかというと、営業の成果は訪問数・商談数に比例するからです。日頃から訪問成約率や商談成約率を把握しておけば、プロセスである訪問・商談件数をチェックすることで、最終的な成約数をおおむね予測できるのです。

もう何年もデータを積み重ねているので、この見通しが大きく狂うことはありません。もし、商談成約率や訪問成約率が急に上がったり、下がったりした場合、何か特別な変動要因が発生していることに、いち早く気付けます。

現場の総責任者である中島社長は、執行責任者会議や営業会議のなかで、さらにまた違った角度から、より踏み込んだチェックをしています。経営者が会社と向き合うためには、このようなチェック機能、プロセス管理方法が必要です。

なお、この管理方法は同じことを繰り返すのではありません。年々、PDCAAを回していくことで、改良改善を続けています。経営とは進化なのです。

皆さんは、ここまで徹底して会社と向き合っていますか。何もしていなければ、会社が伸びなかったり、業績の浮き沈みが激しくなったりしても仕方がありません。社員が少ないうちは「勘ピュータ」でも十分ですが、「社員が増えてきた」「支店ができた」「新規事業を始める」となったら、この手のチェックを常に怠らないようにしておかないと、経営状況が見えなくなってしまいます。

これが、いわゆる「計器飛行」です。セスナ機ならばパイロット一人の五感を使って操縦すればいいでしょう。しかし、ジャンボジェット機のように大きな機体になると、さまざまな計器を見てバランスをとりながら操縦しなければなりません。

大きい企業、伸びている企業のトップは、これをすべて実行しており、決して人任せにはしません。どれだけ会社が大きくなろうと、いくら忙しくなろうと、会社の食い扶持(ぶち)である営業数字は、経営者自らがしっかりチェックしなければならないのです。

中小零細企業でもこういったチェック機能・プロセス管理を実施すれば、会社は絶対に伸びます。むしろ小さい会社だからこそ、今のように変化の多い時期にしっかり会社と向き合うことによって、いろいろなことが見えてくるはずです。社長は、会社が本当の意味で強くなれるよう、PDCAAを大切にしてください。

勝ち続ける企業は組織改革のスピードが速い

勝ち続ける会社の経営者は、会社が外部環境に適応することは必須と考え、柔軟に組織変革を行っています。頭でわかっていても、会社の歴史が長いほど、規模が大きいほど、なかなかこれができません。PDCAAを回した結果、「組織のここを変えて対応しなければ」と改善ポイントが見えたとしても、縦割り組織が固まっているため、社内の反発が強過ぎて、小さな組織改革すらできない会社が意外と多いのです。

一方、伸びている企業は、歴史の長さや規模の大きさに関係なく、組織改革のスピードが非常に速いという特徴があります。

たとえば今回のコロナ禍への対応では、この違いが顕著に表れました。緊急事態宣言に対応し、迅速にデリバリーやテイクアウトを始め、売上を伸ばした飲食店もあれば、「お店じゃなく自宅で食べてもらうなんてイメージできない」「しばらくしたらコロナも落ち着くだろう」と、何も体制を変えずに休業を続けた飲食店もありました。

またテレワーク等の働き方改革を進め、通勤交通費や事務所賃料で経費削減に成功した会社もあれば、「出社しなければ仕事にならない」と、コロナ前と変わらない働き方を続けて、ペーパーレスもハンコレスも進んでいない会社もあります。

個々の会社の事情はもちろんあると思いますが、こうした変化への対応力の違いは、その会社の体質が大きく関係しています。組織とは常に一定ではなく、勝つための手段であり、変化するものということを理解できているかどうかで、組織改革のスピード感覚に違いが出るのです。

勝つためには、できない理由を挙げるのではなく、「できるようにするためにはどうすれば良いのか」という発想に立ち、組織やオペレーションを改革しなければいけません。

これは社長がただ旗を振ればできるものではありません。会社全体がひとつの方向に向かい、何かあれば一糸乱れず方向転換できる俊敏さを、日頃から培っておく必要があります。

あるいは社員においても、何かを変えようとするたびに「反対」ではなく、「勝つため変わるのはあたりまえだ」「どうすればお客様のためになるのか」という発想で考える習慣を定着させなければなりません。

会社という組織は、ともすると内部に既得権益のような壁をつくってしまいがちです。会社で働く社員が安心して働きやすい場づくりをするのが、経営者の仕事ですが、それが行き過ぎて、その会社が本来、発揮できるはずの最大パフォーマンスに蓋をしてしまう結果になってしまっては本末転倒です。

環境や商品・サービスが変われば、会社や組織も最適化するのがあたりまえという意識を、社員全体で共有することが大切です。コロナ禍でいろいろな価値観や常識が変わっている今こそ、その好機なのです。

自分の会社のアキレス腱をきちんと知っているか

「アキレス腱」とは、会社のウイークポイントです。自分の会社のウイークポイントとは、「ここをズバッとやられたら、ウチの会社は立ち行かなくなる」ことを指します。どの会社にも大なり小なりあるはずです。

技術や人事、あるいは仕入れ先との関係など、ウイークポイントは会社によって異なります。そこで大事なのは、社業の成否に直結する弱点を知り、常にその弱点を補強する努力を続けることです。

私自身、社長とよく「フォーバルのアキレス腱は、リース販売という仕組みで成り立っていることだな」という話をしています。なぜなら、ビジネスフォンもコピー機も、リース会社の審査が通らなければ、現金販売するしかないからです。

お客様の立場からすると、今まで毎月1万円のリース料を支払って使用していたのに、その何十倍ものお金を一括で支払わなければ使えないなんてことになったら、一気に買い替えが進まなくなります。これは実際に私たちが直面したことですが、お客様から注文をいただいたにもかかわらず、金融引き締めの影響でリース会社の審査がほとんど通らなくなり、業績が下がったことがあります。

今後も同じことが起こるかもしれませんし、そういう状況が続いたら、リース会社が「こんな事業はやっていられない」と、撤退してしまう恐れもあります。そうなるリスクは低いと思いますが、そのような事態が現実化したら、フォーバルのビジネスモデルは立ちいかなくなってしまうのです。ですから、私と中島社長は「ここをアキレス腱として共有しよう」と、話し合ってきました。

そのなかで生まれたのが、アイコンサービスやコンサルティングという新事業です。「リースを使ったビジネスモデルがしっかりしているうちに、リース以外の事業を打ち立てないと危ない」「リースとは関係ない新しい収益基盤を増やしていかなければいけない。これは勝負だ」という想いで取り組んでいるのです。

皆さんも「どういう状況に直面した時、社業は危機に陥るのか」「倒産を回避するにはどうすれば良いのか」を、経営幹部とディスカッションしてみてください。

自社の強みを知り、伸ばす努力をしているか

先述したように、経営者は自分の会社のウイークポイントを把握しておかなければなりません。

しかし、それと同時に自社の強みも把握し、それをさらに強化する必要があります。長所を突出したレベルまで伸ばすことで、多くの短所を補完できるケースがあるからです。

短所はいつも見る必要はありません。人間は短所ばかりを見過ぎてしまうと、ネガティブになってしまうからです。自分の、自社の悪いところばかり探していては、モチベーションが低下してしまいます。自分の弱みや悪いところを知っておく必要はありますが、それよりも強いところを伸ばしたほうが、人間はパワーが出るのです。

これは子育てにも通じます。子どもの欠点ばかりを指摘するよりも、その子どもの良いところを伸ばしてあげたほうが、欠点は目立たなくなります。逆に良いところを見ようとせず、欠点ばかり探して直そうとすると、子どもは萎縮してしまい、良かった点も失われてしまいます。

成功している経営者は、こういう何気ないことにも、しっかり向き合っています。だから成功しているのです。反対に成功していない人は、「結果だけを見て判断している」「自社のアキレス腱をわかっていない」「自分の長所をもっと伸ばせるのに、あまり伸ばしていない」など、正しい会社との向き合い方と正反対のことをしているはずです。

ぜひ皆さんも周りの成功している経営者の話も参考にして、会社との向き合い方について研究してみてください。

勝ち続ける社長の教科書 王道経営8×8×8の法則
大久保秀夫(おおくぼ・ひでお)
1954年、東京都生まれ。國學院大學法学部卒業後、経営方針に納得できず退社。1980年、25歳で新日本工販株式会社(現在の株式会社フォーバル 東京証券取引所 プライム市場)を設立、代表取締役に就任。電電公社(現NTT)が独占していた電話機市場に一石を投じるため、ビジネスフォン販売に初めてリースを導入し、業界初の10年間無料メンテナンスを実施。1988年、創業後8年2カ月という日本最短記録、史上最年少(ともに当時)の若さで店頭登録銘柄として株式を公開。同年、社団法人ニュービジネス協議会から「第1回アントレプレナー大賞」を受賞。その後も、情報通信業界で数々の挑戦を続け、上場会社3社を含むグループ企業33社を抱える企業グループに成長させた。2010年、社長職を退き、代表取締役会長に就任。会長職の傍ら、講演・執筆、国内外を問わずさまざまな社会活動に従事。カンボジアにおける高度人材の育成を支援する「公益財団法人CIESF(シーセフ)」理事長も務める。さらに一般社団法人公益資本主義推進協議会 代表理事、東京商工会議所副会頭・中小企業委員会委員長なども務めている。

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