本記事は、大久保秀夫氏の著書『勝ち続ける社長の教科書 王道経営8×8×8の法則』(ビジネス社)の中から一部を抜粋・編集しています
現場力を鍛え経営品質を高める
皆さんは「社長」という立場にあぐらをかいていませんか。恐らく、どの会社もそうだと思いますが、会社組織を頭の中で描く時、社長を頂点として、役員 → 幹部 → 社員、そしてお客様という三角形のピラミッドを描きます。
この発想だと、お客様はいちばん下のポジションになります。しかし、お客様をいちばん下に置くのは、私にとって違和感を覚えるものでしかありません。
本当は、いちばん上にお客様、次にそのお客様と最も接点のある一般社員やパート・アルバイト、その下にそれを支える幹部、さらにそれを支える役員、そしていちばん下に社長を置くべきなのです。
つまり、正しい会社組織のピラミッドは逆三角形になるのです。したがって、幹部や役員、社長は、お客様と最も接点のある社員が働きやすい環境を整えなければなりません。
幹部は、社員が動きやすいようにフォローする。その上の役員は、幹部がそれをできるような仕組みをつくる。そして社長は、役員が力を発揮できるように支える。そういう逆三角形であるべきです。ですから、本当は社長がいちばんしんどい立場にいるべきなのです。
これは言うのは簡単ですが、なかなかできることではありません。中小企業になればなるほど、社長は「俺の会社だ」という意識が強いからです。
しかし、そのような社長には「確かにあなたがつくった会社かもしれない。でも、できた会社は、あなただけのものじゃないんだ」と強く言いたいのです。
会社は「社会の公器」です。すなわち会社は社員のものであり、顧客のものであり、株主のものであり、取引先のものであり、地域のものなのです。
このように、すべてのステークホルダーを大事にすることによってのみ、企業は利益を生み出し、永続できるようになるのです。
現場力を鍛え、経営品質を高めるために大事なのは、社員のモチベーションが向上し、やる気を発揮してもらえる仕組みをどうつくるか、です。そして、それを考えるのが社長の仕事なのです。
いくら優秀な社長でも、一人でできることには限界があります。会社が成長するためには、社員の協力が不可欠です。何でも「俺がやるから」ではなくて、いかに社員にやってもらう仕組みをつくるか、いかに現場の力を蓄えるかが大事なのです。それができない限り、絶対に会社は良くなりません。答えは現場にあるのです。
社員に権限を与えて任せる
リッツ・カールトン・ホテルはお客様の満足度が高く、常に人気ランキングの上位にあることで知られていますが、その強みは、やはり現場力です。通常ではありえないような権限が、現場に与えられているのです。
私は昔、カリフォルニアに旅行した時に、このホテルに泊まりました。たまたま夜遅くに部屋に帰ったところ、部屋が清掃中で散らかったままの状況でした。私はすぐに「部屋を変えてくれ」とクレームを入れました。
しかし、応対にきた担当者は、「今から全部きれいにしますから、お待ちください」と言うのです。
「この部屋は当ホテルのなかで最も素晴らしい部屋です。今回の不手際については、私が全部、責任を持って対応させていただきます。お客様には『いい部屋だったな』と思って帰ってほしいのです」と、一生懸命訴えてきたのです。結局、「これだけ一生懸命言ってくれているから少しだけ待とう」と決めると、15分くらいで部屋をすべてきれいにしてくれました。
そして翌日、フロントへ行ったところノーチャージだったのです。対応してくれたのは何の役職もない平社員でしたが、即断・独断で室料をすべて無料にできる権限を持っているのです。最高ランクの部屋だったので、私は本当に驚きました。
でも結局、そのホテルマンは最高のPR活動をしたのです。なぜなら、その時の出来事を、私がこうして書籍に書いて紹介したり、講演で大勢の方に話したりしているからです。恐らく、宿泊代を無料にした以上のものを得ることができていると思います。
こういうことができるから、リッツ・カールトンは顧客満足度で常にトップクラスなのです。それは結局、現場力があるから実現できているのです。
もし、あの場面で上司に確認して、「すみません、上司がもう帰っておりまして」となったら、悪い印象しか残っていなかったでしょう。臨機応変に対応できるだけの権限が現場に与えられているからこその強さなのです。
すべての会社が、ここまで大きな権限を現場に与えるのは難しいかもしれません。しかし、考えていただきたいのは、「君の権限で判断してくれ」と任せた時、任された社員は大赤字になるような対応をするでしょうか。「どうすればお客様と会社がハッピーになれるだろうか」と考えるはずです。それがいちばん、現場力を鍛えることになるのです。皆さんも、現場に権限を与えて任せてみてください。
人間の本能とは何か、経営者は研究し続ける
現場を支える社員やパートがどうしたら気持ちよく働けるか、やる気を出してくれるかを、経営者は考え抜かなければなりません。そのためのヒントとなるのが、人間の本能です。
仕事における人間の本能とは何でしょうか。
ひとつめは、「お金が欲しい」という本能です。「好きなことができれば満足」という人でも、「お金がいらない」とは考えません。
2つめは、「認めてほしい」という本能です。
そして3つめは、「負けたくない」という本能です。人間は、誰しもこれらの本能を持っています。
成功している経営者は、こういった人間の本能をきちんと研究しています。そのため、「頑張った社員を正しく評価しよう」「評価に応じた褒賞を与えよう」「競争を演出していこう」という仕組みを、会社のなかに取り入れています。
ところが伸びていない会社は、それを怠っています。だから社員は「ウチは実績を上げても何も変わらないから」と言って、動かなくなってしまうのです。
ただし、お金だけで引っ張ろうとしても、人間の本能は満たされません。人としての価値を認めることも大事です。
そのためには、経営者が社員に「会社が何のために存在しているのか」「人としてどうあるべきか」など、会社や人間としての「在り方」を教える必要があります。
部下からの報告だけで経営判断をしない
上司である経営者と、部下である社員とは報・連・相の関係にあります。そこに嘘やいい加減な情報が入ってしまうと、適切な判断をくだすことが難しくなります。
現場をきちんと把握できていない上司だと、部下は適当な報告をするようになってしまいます。それでは望ましい社員との向き合い方ができません。ですから、トップが自ら現場を回って情報を収集しましょう。すると部下は「下手な報告はできない」と、いい加減な報告を上げなくなります。「部下の報告があてにならない」と嘆いている人は、部下を責めるよりも、まず上司である自分の情報不足を反省してください。
中小企業の社長に「部下の報告で経営判断をくだしていますか」と聞くと、「部下の報告をよく聞いて判断しています」と、大抵の方はおっしゃいます。
次に、「その裏を取っていますか」と聞くと、9割の社長は、「取っていない」と答えます。
そう答えた経営者は、部下の報告だけで判断するのがいかに悪いことなのか、理解していただきたいと思います。なぜなら、それが経営の根幹に関わる重大な判断だった場合、下手をすると会社が吹き飛んでしまうことがあるからです。そのような重要事項を、部下から上がってくる情報だけで判断するのは危険極まりないことです。
「裏を取る」という言葉に抵抗感があるかもしれません。言い換えるなら、経営者は根拠を確認するべきだということです。ある部下の報告に「わかった、ありがとう」と言ったうえで、「ちょっと君、この件を詳しく調べてみてくれないか」と、別の部下や外部にもう1回依頼しましょう。そのうえで正しい情報であることがわかれば、それはそれでいいのです。
少し面倒かもしれませんが、二重チェックすることがリスクヘッジにつながります。
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