本記事は、福西信文氏の著書『「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています

個人事業主の場合

破産者
(画像=mihacreative/stock.adobe.com)

会社を設立して事業を行っている法人やその経営者だけでなく、個人事業主でも、自己破産をすることはもちろん可能です。その場合、法人破産ではなく個人破産を行うことになりますが、一般のサラリーマンや専業主婦、学生などの「非事業者」が破産する場合とは、若干の違いがあるため注意が必要です。

個人事業主の破産の進め方

個人事業主の場合は、裁判所によって破産管財人が選出される「管財手続」になることが少なくありません。その理由は、個人事業主は事業を行うために店舗や事務所を借りていたり、在庫や売掛金、リース物件があったりなど、資産・負債を調査する必要のあるケースが多いためです。

そのため、同時廃止になるのではなく、管財人による調査を経るケースが少なくありません。裁判所の判断によって、同時廃止ではなく管財手続が選択されることがあります。

破産手続きの流れとしては、通常の個人のケースと変わりません。

まず、自己破産の申立て手続きをともに行う弁護士に相談し、内容を確認し、契約を締結します。依頼を受けた弁護士は、通常は各債権者に依頼を受けたことを通知(受任通知)し、これによって当該個人事業主は債務の取り立てから解放されます。

通知を受け取った債権者は、貸付や返済の記録をした取引履歴を弁護士に返送します。依頼を受けた弁護士が資産や負債、破産に至った事情などを書面にまとめて、裁判所に自己破産手続開始の申立てをし、管財事件として処理されることになれば、裁判所によって破産管財人が選任されます。その後は、一般的な管財事件と同じように、債権や債務に関する調査が行われます。

ちなみに、破産管財人が選任されると、自己破産に関連する当該個人事業主あての郵便物は、すべて破産管財人へ転送されます。その理由は、財産や債務、契約関係を破産管財人が把握するためです。

債務・債権が整理されたら、債権者集会が開かれます。債権者集会では、破産管財人によって破産手続の状況や免責などが報告され、債権者の意見も反映されます。所有不動産の換価や未回収債権に関する訴訟などがなく、配当の見込みがない場合は、一回で終わります。破産管財人は、債権者集会において免責についての意見を述べ、問題がなければ裁判所によって免責許可の決定が下されます。

また、個人事業主における破産の費用については、管財事件の場合は、「収入印紙」「郵便切手」「官報公告費」などとともに、「管財人報酬」がかかります(図表16)。これらに加えて、弁護士費用も別途必要です。

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(画像=『「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方』より)

個人の財産はどうなるか

さて、お金の点で問題になるのは「自由財産」の取り扱いについてです。個人の破産の場合、破産手続開始決定後の生活を維持し、経済的な更生を図る目的から、以下の財産は処分されないものとしています。

・99万円以下の現金
・破産開始決定後に得た財産(給与など)
・破産管財人が破産財団から放棄した財産(値段がつかない不動産など)
・差し押さえが禁止された財産(生活必需品、退職金、生活保護や年金を受け取る権利など)
・自由財産拡張が認められた財産(破産者の状況を鑑みて裁判所が決定)

ただ、個人事業主の場合、一般の個人とは異なり、事業者との取引や事業用の財産を保有しているケースもあるでしょう。そのため管財事件を経て免責を得なければ、債務はなくならないのですが、なかには免責を得てもなくならない債務があります。

たとえば、社員への未払い給料や税金は免責されません(非免責債権)。法人破産の場合、法人そのものがなくなるため、免責については問題になりません。しかし、個人事業主の場合、責任を免れるには免責の許可が必要であり、かつ、免責を得ても支払いをしなくてはならない債務があるのです。その点に注意が必要です。

「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
福西信文(ふくにし・のぶふみ)
弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所(東京弁護士会所属)弁護士。京都市出身。京都大学法学部卒業後、IT企業、経営コンサルタント、企業役員などを経て、成蹊大学法科大学院(夜間)修了。司法試験合格後、都内法律事務所を経て、現職。著書・論文として、「遺言信託 実務取扱いのポイント」(株式会社銀行研修社『銀行実務』2017年12月号)『プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて』(監修・コスミック出版)などがある。

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