本記事は、福西信文氏の著書『「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています

Xデーの決め方

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(画像=alphaspirit/stock.adobe.com)

最終的に破産を決断しようとするとき、どのようにして「Xデー」を決めればいいのでしょうか。Xデーとは、事業を停止させる日、つまり事業上、会社が倒産する日のことです。本来であれば、破産の全体像を理解したうえで、計画的にXデーを決める必要があります。

破産は悪いことではない

「計画的に会社を倒産させる」と言うと、「計画倒産」という言葉をイメージされる方もいるかもしれません。計画倒産という用語は「意図的に会社を潰す」という意味で、悪質なケースの場合に用いられることも少なくありません。

その場合の計画倒産とは、取引先との契約や債務をあらかじめ踏み倒す目的で、計画して会社を倒産させるというものです。一方、ここでいう〝計画〟とは、破産のスケジュールから逆算して、Xデーを決めていくという意味になります。

これまでも述べているように、「破産」という制度そのものの性質を考えると、破産は必ずしも悪いことではありません。会社の事業が維持できなければ、社員や取引先、金融機関、その他のステークホルダーに迷惑をかけることになります。だからこそ、法律に従ってきちんと会社の債務を整理し、準備することは、経営者としての重要な責務と言えるでしょう。

破産にも費用がかかる

さて、そのうえでXデーをどのように決めていくかというと、ひとつの指標になるのが「現金」です。先行きが見通せなくなった段階ですぐに破産したほうがいいと思われるかもしれませんが、事前の準備とともにお金の用意もしておく必要があります。

ただ、多くのケースでは、どうにか資金繰りをしようと、ぎりぎりまで我慢します。そうして、どうしようもなくなった段階で、弁護士などの専門家に相談するのです。その結果、破産のための費用すら捻出できない場合もあります。

そうならないよう、一定の現金があるうちから、将来を見越して破産を選択肢に入れておくことが大切です。現金があれば、破産をする費用も無理なく捻出できますし、それによってきちんと破産処理を進めていくことができます。

具体的には、裁判費用、弁護士費用、社員などに支払う給与、さらには生活費などが必要最低限用意しておくべき資金となります。それらを用意したうえで、倒産計画の策定と実行に向けて、弁護士とも相談しながら倒産の全体像を確認しておきましょう。

もちろん、なるべく早く手続きを進めたほうがいいでしょうが、すでに会社の業務を停止している場合については、Xデーをいつにしても構いません。なぜなら、業務を停止している状態であれば、現金の推移がそれほど変わらないと考えられるためです。

もし、まだ業務が停止しておらず、社員もいる会社であれば、給料や解雇予告手当なども負担する必要があります。そのような点も含めて、どのようなお金が必要になるのかを確認しつつ、不足しないように準備します。

実際の準備には、最低でも1週間以上みておくといいでしょう。もちろん急いで準備を進めていくとそれだけ大変なので、Xデーを1〜2週間後に設定しつつ、お金の準備をはじめ、スケジュールから逆算して行動できるようにしてください。

社員への通知は社長自らが行う

また、Xデー当日には、社長自らが社員に対して会社の倒産を伝えなければなりません。最もつらい仕事ですが、それは代表が行うべきことです。その後、倒産した経緯および今後の対応は弁護士が行う旨を事務所の前など社員の目につく場所に貼り出します。

その後の債権・債務に関する処理は、基本的に弁護士が行います。ただ、会社が倒産したことを知らずに取り立てを行う業者もいるかもしれません。そのような業者と鉢合わせにならないよう、事前に弁護士に相談しておくようにしましょう。

良い破産と悪い破産

「会社をたたむ」という意味において、すべての倒産は基本的に同じ道をたどります。すなわち法人が消滅し、すべての債権・債務が整理され、社員は解雇。取引先や関係者との関係もリセットされます。そして経営者個人は、一般の人に戻ります。

ただ、それはあくまでも、法的な手続きにのっとって破産を進めた場合です。通常の破産は、裁判所を通じて手続きを行い、破産管財人によって財産調査や清算が行われ、債権・債務の状況が整理されていきます。

社員や債権者から逃げてはいけない

法人の破産手続きが終わると、経営者個人の負債もある場合は、個人の自己破産も行います。それで免責を得られれば、借金からは解放されることになります。そうして改めて個人としてもリスタートできるようになるわけです。

しかし、そのような手続きを経て再出発せず、社長が夜逃げや雲隠れなどをしてしまったらどうなるでしょうか。債権者は資金の回収目途が立たなくなり、社員は途方に暮れてしまいます。また、取引先をはじめとするその他の関係者も、ただ困ってしまうだけです。「会社が破綻する」という意味ではどちらも同じですが、きちんと債務を処理する場合と、すべてを放棄して逃げてしまうのとでは、残された人への対応が大きく異なります。やはり夜逃げは、自分のことしか考えていない、身勝手な対応と言えそうです。

少なくとも、経営者には法的な手続きにのっとって債権者と向き合い、誠実に対応することが求められます。目の前の窮状から目をそらすのではなく、債権者には事情をきちんと説明し、頭を下げることによって、本当の再出発ができるのではないでしょうか。

誠実な対応が自身の免責につながる

破産手続きに関してよく言われるのは、金銭的な配当だけでなく、「なぜそうなったのか」を説明すること、つまり〝情報の配当〟が重要ということです。社員も取引先も、あるいはその他の利害関係者も「なぜ事業が破綻したのか」を知りたいと考えているためです。

情報の配当が適切に行われないと、周囲は納得してくれません。手続きを行う裁判所としても、当事者がどう対応するのかを見ています。だからこそ、最後まで誠実に対応することが求められます。そうすることで、未来がつくられるのです。

たとえ会社がなくなっても、事業が立ち行かなくなっても、人生が終わるわけではありません。すべての当事者には、破産後の未来があります。とくに社長の場合、当該企業の経営者ではなくなるため、その後の人生プランも考えておく必要があります。

ちなみに個人の免責においては、裁判所が裁量で判断することもあるというお話でした。そのため、破産手続きに対し、誠実な対応ができているかどうかは見られていると考えたほうがいいでしょう。そして、そのときの姿勢が、免責の結果につながります。

もちろん、必要事項をきちんと報告し、破産管財人に対しても適切に対応していれば、多くのケースで免責が不許可になることはありません。特別なことをするのではなく、常識の範囲で、真面目に対応すればよいのです。

求められた情報を提供し、調査にもきちんと協力する。そのような過程を経て、裁判所も免責の判断をしています。とくに裁判所は、破産管財人の報告書を見て最終的な判断を下すため、きちんと協力するようにしてください。

なかには、最後の最後で自らの保身に走る人もいます。財産を隠し、破産後の生活を有意義に過ごそうとする人もいます。ただ、それがバレてしまうと、免責どころではなくなってしまいます。やはり、破産管財人に対し、不誠実な対応は許されないのです。

そのような画策をするよりも、破産後の生活をどう立て直していくのか、きちんと考えたほうが無難です。会社員に戻る人もいれば、新たに事業を始める人もいます。いずれにしろ、何らかの準備が必要となります。

とくに重要なのは、人間関係の修復と構築です。破産手続きに対し、誠実に対応している人ほど、相手もまた「お互い様」と思ってくれます。そこから次の活動につながることもあるでしょう。そうした行為ができてこそ、〝良い破産〟と言えるのです。

「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
福西信文(ふくにし・のぶふみ)
弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所(東京弁護士会所属)弁護士。京都市出身。京都大学法学部卒業後、IT企業、経営コンサルタント、企業役員などを経て、成蹊大学法科大学院(夜間)修了。司法試験合格後、都内法律事務所を経て、現職。著書・論文として、「遺言信託 実務取扱いのポイント」(株式会社銀行研修社『銀行実務』2017年12月号)『プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて』(監修・コスミック出版)などがある。

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