この記事は2022年7月4日に「第一生命経済研究所」で公開された「日次データでみる暑すぎる夏と消費の関係」を一部編集し、転載したものです。


猛暑
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夏の消費と気温の関係

新家(2022)(*1)は猛暑が夏場の個人消費を押し上げる一方、気温の上昇が行き過ぎた場合には外出の手控えを通じて消費を押し下げる可能性について指摘している。夏場の気温と消費の関係は「気温が上昇すれば消費が増える」関係にあるが、気温が上がり過ぎた場合にはそれが成り立たないのでは、という指摘だ。気温と夏の消費が単純な線形関係にはないのでは、と言い換えることもできる。

(*1):「猛暑と個人消費を考える~「暑過ぎる夏」による外出手控え、電気代負担増、野菜価格の上昇が懸念材料~」(2022年6月28日)https://www.dlri.co.jp/report/macro/193275.html

そこで、実際のデータを用いてこの点について簡単な検証を行ってみた。用いるデータは総務省の家計調査における日別消費支出のデータと、気象庁が公表している気温のデータ(代表値として東京の最高気温)だ。新型コロナの影響を除く観点から2017~2019年の7、8月のデータを使用した。

資料は各日の消費支出と気温のデータを散布図にプロットして、トレンド線(青)を描いたものだ。トレンド線の算出には非線形関係の平滑化の際に一般的に用いられる局所的重みづけ多項式回帰(loess:locally weighted scatter plot smooth)を用いた。なお、土日祝日と平日には消費の明確な水準差があるため、たまたま一方に気温の高い日が重なったりすると、誤った関係が導かれる可能性がある。土日祝日と平日に分けて回帰曲線を引いてみた。黄色部分は真夏日(30~35度)、赤色部分は猛暑日(35度~)を示している。

図表のトレンド線を参照すると、いずれも35度近辺を境に気温と消費の関係が変化しており、概ね真夏日(30~35度)では気温が高いほど消費が増える関係になっているが、猛暑日の部分ではその関係は逆転している。気温が高すぎると却って消費にマイナスになる、という説を支持する結果が得られた。少なくとも「気温が上がれば消費が増える」という関係が常に成り立つと考えることには、慎重になるべきだろう(*2)。

(*2):なお、猛暑日のサンプル数がそもそも少ないため回帰曲線の信頼区間も広くなっており、「気温が上がると消費が“減る”」という点について、必ずしも頑健な結果が得られているわけではない点に注意。

都内では2022年7月3日までで9日連続の猛暑日となり、記録的な暑さになった。気象庁の予報などにおいても今年は平年より暑い夏が予想されているが、暑すぎる夏が消費を冷やすリスクに注意が必要だろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也