この記事は2022年7月11日に「第一生命経済研究所」で公開された「懸念される野菜価格の上昇」を一部編集し、転載したものです。


食物繊維,野菜
(画像=PIXTA)

目次

  1. 7~9月期に1世帯あたり5,000円の負担増の可能性
  2. シニア層への悪影響が大きい

7~9月期に1世帯あたり5,000円の負担増の可能性

野菜価格の上昇が懸念されている。もともと野菜価格は、2021年末以降、天候不順等の影響により大幅な上昇が続いていた。2022年6月に入ってからはやや落ち着きを取り戻しており、上昇幅も鈍化しているが、それでも依然として高い水準にある。

こうしたなかで懸念されるのが、猛暑による悪影響である。強過ぎる日差しによる日焼けで野菜や果物の見た目や品質に悪影響が出るほか、高温による痛みや生育不良が生じることも多い。実際、2022年6月末以降の猛暑で悪影響を受けた野菜や果物は多かった模様であり、今後の出荷価格に影響が及ぶ可能性があるだろう。暑さについては、先週いったん和らいだが、今後再び気温が急上昇する可能性もあり、警戒は怠れない。

また、近年、夏場に豪雨等の天候不順が多発していることを考えると、今後も季節外れの台風等により被害が生じる可能性にも注意が必要だろう。今後、野菜や果物の価格が一段と押し上げられるリスクを意識しておく必要がある。

上昇しているのは野菜だけではない。生鮮魚介類についても、まぐろやさけ、ぶりなどを中心として、2022年1月以降は前年比で2桁の上昇が続いている。原油価格の上昇に伴って燃料費が高騰していることに加え、円安によって輸入価格が上昇していることも押し上げ要因になっている。

なお、円安については魚介類に限らず、輸入野菜や果物にも影響が及ぶ。これまで円安が急速に進んでいたことを考えると、今後も生鮮食品の輸入価格は大きく押し上げられる可能性があるだろう。

生鮮野菜にしても生鮮魚介にしても、消費者物価指数のコアには含まれず、物価を見る上で通常、あまり注目されることはない。だが、これはあくまで物価の基調を把握するために振れの大きい生鮮食品を除いているだけであり、消費者の現実の生活に直結するのはコアではなく総合だ。個人消費への影響を見る上では生鮮食品を含んだ総合指数を見る必要があるが、2022年5月の全国CPIをみると、生鮮食品を除いたコアは前年比+2.1%である一方、総合の伸びは+2.5%と、コアを大きく上回る。

ここで、仮に今後の生鮮食品の価格が2022年5月並みの前年比上昇幅で推移した場合、2022年7~9月期合計で1世帯当たり約5,100円の負担増となる(昨年同時期対比)。生鮮食品は生活に必要不可欠であり節約が難しい。そのため、この支出金額増加分は、貯蓄を減らすか他の消費を減らすことで対応することになる。短期であれば、貯蓄を減らして対応することも可能だが、期間が長くなれば、他の消費を削って帳尻を合わせる必要性が生じ、消費の押し下げが広がることになるだろう。

加えて、マインドへの悪影響にも注意が必要だ。野菜等の生鮮食品は生活に身近で購入頻度が非常に高く、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇により家計や生活苦を意識しやすくなる。所得の回復が明確な中では許容できる程度の生鮮食品価格の上昇でも、所得の伸びが停滞する中ではマインドの悪化に繋がる可能性が高いだろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

シニア層への悪影響が大きい

こうした生鮮食品価格上昇の影響をもっとも受けるのがシニア層だ。野菜・海藻への支出が消費全体に占める割合を世帯主の年齢階級別にみると、29歳以下の世帯では1.2%にとどまるのに対して、70歳以上の世帯では4.2%と、年齢が上がると野菜への支出割合が上昇することが確認できる(食費に占める割合でみても同じ)。魚介類や果物でも同様の傾向がみられ、若年層では支出割合が小さい一方で、シニア層では多く支出していることがわかる。このように、シニア層では食の好みの影響から野菜や魚など生鮮食品への支出が多く、価格上昇の影響を受けやすい。

生鮮食品価格の上昇により、2022年7~9月期における1世帯当たりの負担が5,100円増えるとの試算を先ほど示したが、これはあくまで全世帯平均の値である。70歳以上の世帯に限定すれば、負担増は6,300円に達することとなり、相応の悪影響が生じる可能性が高い。

シニア層においては、2022年度の公的年金支給額が前年比▲0.4%の減額となっていることも逆風となる。所得の基盤である年金額が減少する中、生活必需品であり、消費額も大きい生鮮食品の価格が上昇すれば、高齢者世帯の生活を直撃することになるだろう。

なお、2022年度の消費者物価指数(生鮮除くコア)は前年比で+2%強が見込まれているが、生鮮食品を含む総合では、コア以上の上昇が予想される。仮に総合指数で+2.5%となれば、物価上昇率を考慮した実質年金支給額で見れば前年比▲3%程度の減少となる。

高齢化が進展する中、シニア世帯が消費に与えるインパクトは大きくなっており、影響は無視できない。今後、シニア層の消費抑制により、個人消費回復の頭が抑えられる可能性があることに注意が必要だろう。

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第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴