本記事は、清田幸弘氏の著書『相続専門の税理士、父の相続を担当する』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

相続対策を「できるだけ早く」はじめたほうがいい理由

相続対策
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

「遺産分割トラブル」と、「相続税負担」を軽減する

親と相続の話をする場合、「親の死」が前提なので、人によっては抵抗を感じます。

相続に関する話はデリケートであり、気心の知れた親子であっても、話しにくいものです。親と相続の話をしておきたくても、なかなか切り出せずにいる方も多いと思います。

それでも、相続対策は、できるだけ早めにはじめたほうが得策です。

「相続のタイミングは、いつやってくるかわからない」
「相続対策には、時間がかかる」
「相続発生後(親が亡くなったあと)では、相続対策はできない」

からです。親(財産所有者)が健康を損ねてしまったあとでは、相続対策を検討するのが難しくなってしまいます。

【相続対策を早くはじめたほうがいい2つの理由】

(1)相続人同士のトラブルを減らすことができる

「誰に、どの財産を、どれくらい残したいか」、遺産分割のしかたを遺言書に示ておけば、相続人同士のトラブルを減らすことができます。

遺言書を残していない場合、相続人同士が話し合って財産の分け方を決めることになります。相続人同士の利害が対立すると、遺産分割が難航することがあります。

遺産分割

各相続人に財産を分配する手続きのこと。被相続人の死後、相続財産はいったん相続人全員の共有財産になる。その後、遺産分割によって各相続人に分配される。

遺産と、相続財産(財産)は同じ意味。

遺産分割で不動産を保有しているのなら、生前のうちに分割しやすい他の財産や金融商品に置き換えることで、遺産分割がスムーズに進みます。

(2)相続税を軽減できる

相続税の負担を軽くするには、生前贈与や控除制度の活用、相続税評価額の引き下げなどがあります。評価額とは、わかりやすく言うと、「価格」のことです。

相続税を計算するには、財産の価値(財産がいくらになるか)を調べなくてはなりません。

相続税は、購入価格や建築費で決まるのではなく、相続税法や国税庁によって決められた「相続税評価額」(以下、評価額)を基準に計算します。

たとえば、現金を不動産に変えて相続すれば、現金で相続するよりも相続税評価額を引き下げることが可能です。

相続税評価額

財産の価値を決める場合、「財産評価基本通達」という評価基準で決める。この評価基準で決めた財産の値段が相続税評価額。

相続対策の最初の一歩は「裏山」の整理

「相続の話」ではなく、「資産活用」の話として切り出す

清田家の場合、「父」から相続の話があったわけではなく、「私」から話を切り出しました。「清田会計事務所」を開業してすぐのことです(1997年ごろ)。

私から話を振った理由は、

・父は先代から「家督相続」によって財産を譲り受けたため、「均分相続」の大変さを知らない

・私は息子でありながらも、税理士として客観的、専門的な意見ができると考えたからです。

当時の私はまだ、相続税の実務には精通していませんでした。それでも農協時代から、農家の方々の

「農地が財産に含まれていると、遺産分割がまとまりにくい」

「農地は面積が大きいので、地域によっては評価額が高額になり、相続税が多額になる」

「農地を相続すると、固定資産税、維持費用などのコストや管理の手間が生じる」

「親が相続の方向性を示さないまま亡くなると、相続人同士が揉めやすい」

といった相続のトラブルを見ていたため、「早くから相続対策すること」の必要性を感じていました。

ただし、「相続対策をしたい」とストレートに切り出すと、父が機嫌を悪くするかもしれません。そこでまず、「税理士の意見」として、

「自宅の裏山が、不良資産になっている」

「うちは、現預金よりも土地のほうが多いから、資産の組み換えをしたほうがいい」

ことを指摘しました。

資産の組み換え

活用していない不動産を売却して現金化する、不動産を売却した資金で賃貸物件を購入するなど、高い収益を生むように転換すること。

自宅の裏山は、約1ヘクタール(1ヘクタールは、100m×100mの広さ)。収益性はなく、固定資産税だけがかかっていた状態です。「ほったらかし」にはできないため、草刈りもしなければなりません。1ヘクタールの山林を維持管理するのは、時間とお金がかかります。

利用価値があるのなら、保有することにも意義はあります。ですが、ただ持っているだけでは資産ではなく、負債です。

利用価値がなくても評価額はつくため、裏山を相続するときに相続税が課せられます。

父も当然、

「裏山には、農地や宅地としての利用価値はない」
「この裏山の相続には、相続税がかかる」

ことは理解していたはずです。

それでも父がこの土地にこだわったのは、

「代々受け継いできたものを、自分の代で手放すことはできない」
「売ってしまったら、土地を残すことができない」

という心情的、感情的な理由からでした。

裏山の整理をする前に、父の気持ちの整理が先決です。

父が「裏山を整理すること」に納得するまでに3年、裏山を整理するまでさらに2年、裏山の売却には、「約5年」かかりました。

裏山を区画整理や宅地造成してから売却することも考えました。そのほうが高く売却できるからです。

区画整理

土地の区画や境界・道路などを変更・整備すること。

宅地造成

宅地以外の土地を住宅地にするため、土地の形状を変更すること。

ですが、

・工事費用は、土地の所有者が自己資金として捻出しなければならない(区画整理の場合は、補助金が出る)

・父が所有する裏山を区画整理すると、9割方、土地がなくなってしまうことから、山林の状態のまま売却しました。

「裏山の売却資金」は手をつけずに貯めて残し、父が亡くなったあとの「相続税資金」(納税資金)として使っています。父が亡くなってから慌てないように、

「相続税を払うための現金は、父が亡くなる前からキープしておこう」

と考えていたからです。

問題地は、すみやかに解消する

市街地山林、耕作権(農民が土地を耕作する権利)の付いている土地などは、収益性や処分のしやすさの面からみると、一般的には不良資産化している土地といえます(収益がなく、売りにくい)。こうした土地のことを「問題地」といいます。

問題地は、他の資産に組み換えると、相続対策がしやすくなります。

不良資産化している土地「問題地」と解消例

⚫貸宅地

建物を建てて使用することを目的として、第三者に貸している土地のこと。

解消例 借主に買ってもらう交渉をする。

⚫耕作権の付いている土地

第三者に、耕作や牧畜をする権利を与えている土地のこと。

解消例 交換の特例を使って権利を整理したうえで売却する。

⚫市街地山林

住宅地内や住宅地に隣接する場所にある山林のこと(私が整理した裏山は市街地山林)。

解消例 そのまま売却する、あるいは区画整理や宅地造成をしてから売却する。

⚫市街化調整区域

乱開発を防ぐため、開発や建築が制限されている区域のこと。土地の利用にかかる規制が厳しく、原則、あらたに建築物を建てることはできない。

解消例 売却する。駐車場や資材置き場をつくる。土地の用途変更をする。

相続専門の税理士、父の相続を担当する
清田幸弘(せいた・ゆきひろ)
ランドマーク税理士法人 代表税理士、立教大学大学院客員教授、1962年、神奈川県横浜市生まれ。明治大学卒業。横浜農協(旧横浜北農協)に9年間勤務、金融・経営相談業務を行う。資産税専門の会計事務所勤務の後、1997年、清田会計事務所設立。その後、ランドマーク税理士法人に組織変更し、現在13の本支店で精力的に活動中。急増する相談案件に対応するべく、相続の相談窓口「丸の内相続プラザ」を開設。また、相続実務のプロフェッショナルを育成するため「丸の内相続大学校」を開校し、業界全体の底上げと後進の育成にも力を注いでいる。『お金持ちはどうやって資産を残しているのか』(あさ出版)、『都市農家・地主の税金ガイド』(税務研究会出版局)など著書多数。

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