この記事は2022年7月20日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「中国インフラ公募REIT上場1周年~平均して25%価格上昇、初の保障性賃貸住宅REIT上場へ~」を一部編集し、転載したものです。

中国インフラ公募REIT
(画像=Dzmitry/stock.adobe.com)

目次

  1. 中国インフラ公募REIT上場1周年、平均して25%価格上昇
  2. 初の保障性賃貸住宅REIT 2銘柄が審査で合格、まもなく上場へ
  3. 公募REITを通じた分譲住宅や商業不動産開発分野への資金流入を厳重に禁止

中国インフラ公募REIT(*1)は2021年6月21日における第一弾9銘柄の上場から1年が経過したが、時価総額も銘柄数も順調に伸び続けている。

2021年7月に発表されたインフラ公募REITの対象地域と対象分野が拡大されたことを受け、2022年7月、初の保障性賃貸住宅(*2)REIT 2銘柄もまもなく上場する。

しかし、公募REITを通じた分譲住宅や商業不動産の開発に係る規制が強化され、中国REITの分譲住宅や商業不動産等への拡大はしばらく見込みにくく、厳しい状況が続くだろう。

中国インフラ公募REIT
(画像=ニッセイ基礎研究所)

*1:中国インフラ公募REIT、および類REITの概念、仕組み、比較等について、基礎研レポート「2020年中国REIT市場の現状と今後の見通し~公募REITが始動、民間資本や個人投資家に期待~」をご参照ください。
*2:保障性賃貸住宅は、主に就職や就学で他の地域から移住した「新市民」を対象とし、政府より土地取得等における政策支援や補助金を与え、建築面積(※)が70m2以下の低賃料の住宅である。※建築面積=専有部分(室内)面積+共有部分(廊下等)割当面積+バルコニー面積


中国インフラ公募REIT上場1周年、平均して25%価格上昇

2022年7月15日現在、中国インフラ公募REITの上場銘柄数は14銘柄である。

14銘柄の発行規模は541億元(約1兆820億円(*3))だったが、2022年7月15日時点の市場全体の時価総額は580億元(約1兆1,600億円)である。

上場承認から1ヶ月以内の2銘柄を除いた12の上場銘柄は、それぞれの上場日から2022年7月15日まで、平均して約25%と急成長している。


*3:本稿では1元=20円で換算している。


初の保障性賃貸住宅REIT 2銘柄が審査で合格、まもなく上場へ

2021年7月、国家開発改革委員会(*4)は「インフラセクターにおける不動産投資信託基金(REITs)パイロットプロジェクトのさらなる促進に関する通知」を発表し、インフラ公募REITの対象地域が当初の一部優先地域から全国へと拡大された上、対象分野に新たに充電ステーションを含めたエネルギーインフラ施設、保障性賃貸住宅、水利施設、自然遺産・観光施設、駐車場等が追加された(*5)。

2022年7月14日と15日に上海証券取引所と深セン証券取引所は、それぞれ保障性賃貸住宅REITである厦門市1銘柄と深セン市1銘柄の審査合格を発表し、初めての保障性賃貸住宅REITがまもなく上場する見込みである。それ以外にも、重慶市、西安市、広州市、蘇州市等において保障性賃貸住宅REITの設立準備が着実に進んでいる(*6)。

保障性賃貸住宅の拡充及びストックの利活用は中国第14次5か年計画の主要な目標の1つであり、今後保障性賃貸住宅REITの銘柄数がさらに増えることが見込まれる。


*4:経済政策等の立案、改革等の指導を担当する国家機関である。
*5:現時点における中国インフラ公募REITの9つの対象分野は(1)道路、鉄道、空港、港など交通インフラ、(2)風力、太陽エネルギー、水力、LNG、バイオマス、原子力など発電施設および電力系統、充電インフラ、分散型複合冷暖房・電力システム(CCHP)等、(3)上下水、電気、ガス、駐車場等、(4)汚水・ゴミ処理施設等環境インフラ、(5)倉庫物流(一般消費者向けサービスを提供することを強調)、(6)産業園区、(7)データセンター、AI、5Gなど新型インフラ、(8)保障性賃貸住宅、(9)水利施設、自然文化、観光地等その他のインフラである。中国インフラ公募REITの対象地域及び対象分野が拡大された経緯については、研究員の眼「中国、インフラ公募REITの対象範囲を拡大へ~再生可能エネルギー施設、保障性賃貸住宅に期待~」をご参照ください。
*6:各プロジェクトの公示情報より。


公募REITを通じた分譲住宅や商業不動産開発分野への資金流入を厳重に禁止

一方で、2022年7月15日に上海証券取引所及び深セン証券取引所は「保障性賃貸住宅REITガイドライン」を発表し、公募REITを通じて回収された資金を利用して、分譲住宅や商業不動産の開発に資することを厳重に禁止した。

具体的には、保障性賃貸住宅REITのオリジネーターが分譲住宅や商業不動産の開発業務に携わることを禁止している。また、オリジネーターが賃貸住宅以外の不動産開発プロジェクトに融資することも禁止している。

更に、オリジネーターの支配株主や関係者が分譲住宅や商業不動産の開発業務を携わる場合、オリジネーターは資産、業務、財務および人事等の独立性を維持しなければならない、としている。

このように回収された資金の管理体制を強化し、分譲住宅や商業不動産の開発への資金流入を厳重に防止することが定められた。

中国の公募REITは、幅広く国内の不動産のストックを利活用する手段として期待されていたが、住宅、商業不動産等への適用分野の拡大はしばらく見込みにくく、厳しい状況が続くだろう。


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胡笳(こ か)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究員

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