この記事は2022年8月9日に三菱総合研究所で公開された「アジアの脱炭素に向けたポイントと日本の貢献可能性」を一部編集し、転載したものです。
世界の脱炭素化に向けて高まるアジアの重要性
2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、パリ協定の努力目標である1.5℃目標が公式文書に明記された。世界が急激に脱炭素に向けた動きを加速させる中、2019年の世界のエネルギー起源CO2(エネ起CO2)は336億トンである。気候変動は地球規模の課題であり、世界全体で温室効果ガスの排出を削減して1.5℃目標に向かうことが求められる。
図1に示すとおり、足元で世界のエネ起CO2の約6割はアジアからの排出である。そのうち中国が29%、インドが7%、日本が3%であり、インドネシア、ベトナム、タイ、マレーシア、フィリピンといった東南アジアの主要国を加えると世界の半数近くを占める。さらにアジアの多くの国では将来的な人口増加・経済成長が見込まれている。
日本の排出量は世界の数%程度にとどまるが、世界全体での脱炭素化に向けて、アジアにおける排出削減の取り組みは足元の排出総量および将来的なエネルギー需要増加ポテンシャルの観点から非常に重要となる。
▽図1 世界のエネルギー起源CO2排出の内訳(2019年)
面積制約克服へ次世代太陽光など技術展開がポイントに
脱炭素に向けた第一の選択肢として再生可能エネルギー(再エネ)の普及拡大が挙げられる。再エネは化石燃料由来のエネルギーに比べて面積当たりのエネルギー密度が低い傾向がある。つまり再エネは化石燃料と同じエネルギーを生み出すために多くの土地面積が必要であり、日本では太陽光発電などの設置場所の制約が顕在化しつつある。
図2には世界各国の人口密度と経済成長率の見通しを示す。人口密度は、その値が高いほど面積当たりのエネルギー需要が増える傾向があるため、再エネ設置場所制約の発生しやすさを示す一指標として採用した。
図中には2050年の人口上位30カ国を抽出した。アジアやアフリカ各国を中心に高い経済成長が見込まれているが、特にアジアでは人口密度が高い国が多く、図中の右上に偏る傾向が確認できる。1km2あたりの人口はバングラデシュで1,500人程度と日本の約5倍であり、インド、フィリピン、ベトナムといった国でも日本の水準を上回っている。
こうした人口密度が高く今後の経済成長が見込まれるアジア各国では将来的に、現在の日本と同様の課題に直面することも考えられる。特に東南アジアの一部のエリアでは風速があまり強くないことも踏まえると、例えば軽量・柔軟で設置制約が少ない次世代型太陽電池(ペロブスカイト)や、農地・水上などへの設置技術が展開できる可能性があるだろう。
▽図2 世界主要国※の人口密度とGDP伸び率の見通し
アンモニア・CCUSなどの革新技術や需要側機器を通じた貢献に期待
また、脱炭素化に向けては再エネのみならず別の技術オプションによる排出削減も重要である。図3にはアジア主要国と他地域の電源構成を示す。アジア主要国では石炭火力への依存度が高い傾向がある。石炭火力の脱炭素転換はアジアの重要な論点であり、トランジションとしてのガス火力転換や、石炭火力へのアンモニア混焼による排出削減、CO2の回収・利用・貯留(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)といった技術が選択肢として挙げられる。
日本が世界に先駆けてアンモニアやCCUSといった技術開発に成功すれば、日本の経済成長とアジア脱炭素への貢献を両立させることができると期待される。
また、当社が2022年7月に発表した「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」では、脱炭素に向けて電化や省エネといった需要サイドの取り組みの重要性も指摘されている。こうした観点では、日本が競争力を有するヒートポンプの展開などが、需要側技術を通じた国際貢献として有力な選択肢になるだろう。
日本はその国情を背景に脱炭素に向けた特有の課題に直面している。そうした課題に対して開発した技術を国際展開することで世界の脱炭素化へ貢献し、さらに日本の競争力強化に繋げる道筋を描きたい。その際、将来的に日本と立ち位置が近くなることが予想されるアジア各国への展開を見据えた技術開発や戦略構築が、重要なポイントになるだろう。
▽図3 アジア主要国と他地域の電源構成(2019年)
脱炭素ソリューショングループ
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