脱炭素への動きが世界的に進んでいるなか、「脱炭素の関連銘柄に投資したい」と考えている人も多いことだろう。国連のパリ協定にて締結された脱炭素社会(カーボンニュートラル)の実現に向けて、政府も予算や税制などを整備、推進しており、企業の取り組みも活発化している。この脱炭素の取り組みとは実際にはどのようなものか、また、脱炭素関連の銘柄を探すにはどのような方法があるのか、詳しく解説していこう。

目次

  1. 脱炭素とは? そして脱炭素銘柄とは何か
  2. 脱炭素銘柄の探し方
  3. 脱炭素関連の投資信託には何がある?
  4. 脱炭素関連のETFには何がある?
  5. 「脱炭素」に関連するテーマには何がある?
  6. 脱炭素は世界的なメガトレンド

脱炭素とは? そして脱炭素銘柄とは何か

脱炭素の関連銘柄には何がある?企業名とともに探し方も解説
(画像=PIXTA)

脱炭素銘柄について解説を始めるにあたり、まずは脱炭素社会について概要を説明しよう。「脱炭素社会」とは「カーボンニュートラル」の実現された社会であり、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を全体としてゼロとすることを指す。

2020年10月、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣(当時)は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。

「排出を全体としてゼロ」が意味することは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの人為的な「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計をゼロにし、実質的にこれ以上温室効果ガスが増えなくさせることを指す。そのため、脱炭素社会の達成には、「排出量の削減」と「吸収量の強化」の両方に取り組んでいく必要がある。

▽環境省が示すカーボンニュートラルのイメージ

2015年11月30日~12月13日に行われた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」にて、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」が合意されたこともあり、現在、日本のみならず120以上の国と地域が「2050年の脱炭素社会の実現」を目標に掲げている。そのため、日本を含めた世界各国が、ここから脱炭素社会の実現に向けた施策を加速させていくことになるだろう。

脱炭素銘柄に注目が集まる

無数の投資家が収益機会を狙っている株式市場においては、「経済界や社会で話題になっていることに関連する銘柄」に良くも悪くも資金や注目が集まりやすい(必ずしも利益が出るという意味ではない)。経済界や社会で話題になっているということは、市場が大きく伸びたり、業績が改善したりする可能性が(期待感が)あるためだ。

この「2050年の脱炭素社会の実現」も株式市場においては大きなテーマであり、「脱炭素社会の実現に関連する銘柄」は「脱炭素(関連)銘柄」と言えるだろう。「2050年の脱炭素社会の実現」は全世界共通の目標であるため、時間の経過とともに注目度や機運が小さくなっていくことは考えづらく、むしろ、ますますヒト・モノ・カネといったリソースが投下されていくことが予想される。

日本政府だけの動きを切り取っても、2021年6月18日には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、従来の「気候変動問題への対応は経済成長の制約やコスト」という発想の転換と「経済と環境の好循環」を目指すことが発表されている。脱炭素社会の実現のための予算を確保し、脱炭素社会の実現に資する企業の税負担は減らしていく方向(税制改正)だ。規制改革・標準化も行うという。

多少の違いはあれど、世界中でこれらと同じような動きが増えていくだろう。だからといって、必ずしも脱炭素銘柄の株価が上昇するわけではないが、客観的に考えても、脱炭素銘柄には追い風が吹いていると言える。

▽経済産業省が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」資料

カーボンニュートラル成長戦略
カーボンニュートラル成長戦略

脱炭素銘柄の探し方

市場において投資家の注目を集める脱炭素銘柄だが、我々はどのように探すとよいだろうか。ここでは、以下3つの方法を紹介しよう。なお、本稿は個別企業や個別銘柄に言及することがあるが、いずれもそれらを推奨しているわけではない。実際に投資判断する場合は、その企業をよく調べたうえで、自己責任にて投資を行って頂きたい。

脱炭素銘柄の探し方1:脱炭素関連のアクティブ型投資信託の組み入れ銘柄を確認する

脱炭素銘柄に限らず、有望な銘柄を探すひとつのヒントが「アクティブ型投資信託の組み入れ銘柄を確認する」という方法だ。前提として、投資信託の運用方法には大きく分けて「インデックス運用」と「アクティブ運用」がある。

インデックス運用とは、目安となる指数(ベンチマーク)に連動することを目指す運用スタイルのことだ。たとえば、日本株で運用する場合は日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、米国株で運用する場合はダウ平均株価やS&P500などのインデックスをベンチマークとして、それに連動した値動きをするように運用する。

一方、アクティブ運用とは、目安となる指数(ベンチマーク)を上回ることを目指す運用スタイルのことだ。ベンチマークを上回るため、ファンドマネージャーや運用チームは日々金融市場の情報収集を行い、売買する銘柄やタイミングを判断している。

アクティブ運用を行っている投資信託(アクティブ型投資信託)において、例外はあるものの、ファンドマネージャーや運用チームの主な業務は「有望な銘柄を探すこと」だ。売買の執行やリスク管理に重きを置く場合もあるだろうが、多くの場合、アクティブ型投資信託の保有銘柄は、運用のプロであるファンドマネージャーや運用チームが専門的な知識を活かしつつ、たくさんの時間とエネルギーをかけて厳選した銘柄と言える。

アクティブ型投資信託は、ファンドの運用成績がファンドマネージャーや運用チームの評価に直結するため、銘柄選定に熱が入ることは言うまでもないだろう。そのような銘柄だからといって必ずしも株価上昇するわけではないが、専門的な知識が少なく、銘柄選定にたくさんの時間とエネルギーをかけることができない個人投資家にとっては、ひとつの参考材料になるはずだ。

今日においては、いくつかの脱炭素関連の投資信託が組成されている。脱炭素銘柄を探したい場合は、脱炭素関連の投資信託の組み入れ銘柄を確認してみるとよいだろう。基本的には、組み入れ比率が高い銘柄順に「ファンドマネージャーや運用チームが有望だと思っている銘柄」と言える。

脱炭素銘柄の探し方2: ETFの構成銘柄を確認する

脱炭素に関するETFの構成銘柄を確認する方法だ。ETFはベンチマーク(インデックス)に連動するように運用する金融商品であるので、実質的には脱炭素に関するインデックスの構成銘柄を確認することとほとんど同義である。

脱炭素銘柄の探し方3:「脱炭素」内のテーマごとに関連する銘柄を探す

脱炭素とひと口でいっても、その方法は多岐に渡る。たとえば、「排出量の削減」の一例としてクリーンエネルギーの創出・活用が挙げられるが、クリーンに電気を生み出す方法には水力発電、太陽光発電、風力発電、地熱発電など複数の方法がある。「ガソリン車ではなくEVを使う」という方法もある。このような「各テーマに関連する銘柄を調べる」という方法だ。

▽経産省による脱炭素(カーボンニュートラル)の産業イメージ

脱炭素関連の投資信託には何がある?

それでは、脱炭素関連の投資信託には何があるのだろうか。それを知ることで、脱炭素関連のアクティブ型投資信託の組み入れ銘柄を確認することができる。

投資信託などの金融商品を比較検討できるウェブサイト「モーニングスター」の検索欄に「脱炭素」と打ち込み、検索をかけてみると8件ヒットする(2022年5月1日現在)。これらのファンド概要と組み入れ銘柄を紹介していこう。なお、上記検索件数においては、「脱炭素関連 世界株式戦略」の「資産成長型」と「予想分配金提示型」がそれぞれ別物としてカウントされているが、本質的には同じ投資信託であり、下記では4つの投資信託を紹介していく。

主な脱炭素関連の投資信託その1:脱炭素テクノロジー株式ファンド 『愛称:カーボンZERO』

日本を含む世界の株式などのなかから、脱炭素社会の実現に向けたソリューションを提供している銘柄を選び出して投資する投資信託だ。ファンド自体が実質カーボンゼロを目指していることもユニークだ。

投資する銘柄ごとのCO2排出量を算出し、ファンド全体のCO2総排出量も算出し、助言会社に支払う報酬の一部を「CO2削減を目的としたグリーンプロジェクト」へ資金拠出することで、ファンドのCO2排出量と相殺するという。2022年1月11日時点の組み入れ上位5つは以下の通りだ。

▽脱炭素テクノロジー株式ファンド 『愛称:カーボンZERO』の組み入れ銘柄
1位:マイクロソフト(米国)
2位:サーモフィッシャーサイエンティフィック(米国)
3位:エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ(米国)
4位:ウェイスト・マネジメント(米国)
5位:オン・セミコンダクター・コープ(米国)

主な脱炭素関連の投資信託その2:脱炭素ジャパン

日本株式の中から、個別企業の調査・分析等に基づいたボトムアップアプローチにより脱炭素への貢献が期待される投資候補銘柄を選定し、企業の競争⼒、成⻑性、業種分散、バリュエーション評価等を総合的に勘案して投資判断を行う投資信託だ。2022年3月末時点の組み入れ上位5つは以下の通りだ。

▽脱炭素ジャパンの組み入れ銘柄
1位:信越化学工業
2位:日立製作所
3位:東海カーボン
4位:大和工業
5位:日本電産

主な脱炭素関連の投資信託その3:脱炭素関連 世界株式戦略

日本を含む世界の株式などのなかから、脱炭素関連事業を展開している銘柄を選び出し、投資する投資信託だ。前述のように「資産成長型」と「予想分配金提示型」の2つがあり、前者は分配回数(決算回数)を年2回以内に抑えて、文字通り資産(基準価額)の成長(上昇)を目指すタイプだ。

後者は近年、毎月分配型に変わって広まっているタイプで、基準価額の水準に基づいて分配金額の目安を予め決めている。具体的には、基準価額が11,000円未満は水準を考慮して決定、11,000円以上12,000円未満は1万口当たり200円、12,000円以上13,000円未満は1万口当たり300円、13,000円以上14,000円未満は1万口当たり400円、14,000円以上は1万口当たり500円だ。2022年3月末時点の組み入れ上位5つは以下の通りだ。

▽脱炭素関連 世界株式戦略の組み入れ銘柄
1位:L&F(韓国)
2位:GFLエンバイロメンタル(カナダ)
3位:コーニンクレッカDSM(オランダ)
4位:フレッシュペット(米国)
5位:シーカ(スイス)

主な脱炭素関連の投資信託その4:チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンド

主に、脱炭素関連ビジネスを行なう中国企業や同ビジネスの恩恵を受ける中国企業の株式に投資する投資信託だ。中国株式の投資信託は比較的少ないなかで、この投資信託は脱炭素関連ビジネスに特化しているので、より希少性が高いと言えるだろう(高いパフォーマンスが期待できるという意味ではない)。2021年9月29日に運用会社(日興アセットマネジメント)が公表した販売資料によると、組み入れ上位5つは以下の通りだ。

▽チャイナ脱炭素イノベーション株式ファンドの組み入れ銘柄
1位:コンテンポラリー・アンペレックス・テクノロジー(中国)
2位:ロンジ・グリーン・エナジー(中国)
3位:ビーワイディー(中国)
4位:ナリ・テクノロジー(中国)
5位:ジーイーエム(中国)

脱炭素関連のETFには何がある?

それでは、脱炭素関連のETFには何があるのだろうか。前述のように、ETFはベンチマーク(インデックス)に連動するように運用する金融商品であるので、インデックスをベースに確認していこう。

S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数

日本の大型株式を対象とし、脱炭素の要素に着目した株価指数だ。具体的には、日本市場の動向を示す代表的な株価指数であるTOPIXをユニバース(投資対象群)とし、流動性が低い銘柄を排除したうえで、環境情報の開示状況、炭素効率性(売上高当たり炭素排出量)の水準に着目、構成銘柄のウエイトを決定する。炭素効率性が極端に低く、環境情報の開示が十分でない銘柄などは除外されている。

特定の業種を一律で除外すること(ネガティブスクリーニング)はせず、幅広い業種の企業が構成銘柄となっていることが特徴だ。そのため構成銘柄は約1,700に及ぶ。したがって、この指数をもとに特定の炭素銘柄を探すというよりは、「自分が検討している銘柄がしっかりとこの指数に組み込まれているか」を確認するツールとして活用するとよいだろう(ただし、自分が検討している銘柄がTOPIX採用銘柄である場合に限る)。この指数に組み込まれていない場合は、最低限の脱炭素の取り組みすら成されていない可能性があるためだ。

なお、この指数に連動するETFは以下の3つだ。

▽S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数に連動する脱炭素関連ETF
・MAXISカーボン・エフィシェント日本株上場投信 <2560>
・NZAM 上場投信 S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数 <2567>
・SMT ETF カーボン・エフィシェント日本株 <2642>

「脱炭素」に関連するテーマには何がある?

銘柄選定にあたり、「脱炭素」に関連するテーマには何があるのだろうか。たとえば、以下のようなものが挙げられる。

脱炭素に関連するテーマ1:水素

「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれているのが「水素」だ。その理由を平易に説明すると、CO2排出がゼロであり、後には水しか残らないこと、水の惑星地球において水素はほぼ無限に存在していること、石油やLNGだけではなくバイオマスや汚泥など様々な物質から取り出すことができること、貯められたり運べたりすること、などが挙げられる。

水素に関する銘柄で真っ先に思いつくのは、水素を原動力とした燃料電池自動車(FCV)の「MIRAI(ミライ)」を発売しているトヨタ自動車だろう。2020年に発売された新型MIRAIは、CO2を含む排気ガス排出ゼロ(ゼロエミッション)であるばかりか、発電のために吸い込んだ空気をフィルターでろ過し、浄化された空気を排出する「走れば走るほど空気をクリーンにする」マイナスエミッションを実現している。

その他にも、1958年(昭和33年)にはすでに水素ガス製造を目的に関係会社を設立しており、水素事業のパイオニアと言える岩谷産業、水素ステーションの技術開発を進めている東京ガス、カーボンフリー水素の製造・販売を目指すIHIなどが挙げられる。もちろん株式市場をくまなく見渡すことで、これら以外にもたくさんの水素銘柄が見つかるだろう。

脱炭素に関連するテーマ2:EV

EV(電気自動車)も注目だ。ただ、世界全体のEV業界を見渡したときに、日本勢は大きく出遅れているという指摘も多い。実際に、兵庫三菱自動車販売グループのウェブサイトによると、2020年のEV/PHV/PHEVのメーカー別年間販売ランキングの1位がテスラ、2位がフォルクスワーゲン、3位がBYDとなっており、トップ10のなかに日本勢は1社もない(データ元はEV/PHV/PHEV販売台数調査ブログEV SALES)。

▽2020年 年間販売台数 / メーカー別 TOP20 / 全世界

そこで注目したいのがEV部品を手掛ける銘柄だ。EVは動力源がエンジンではなくモーターであり、モーターそのものやバッテリー、パワー半導体、インバーターなど、EVに必要な部品の需要が急速に拡大することが予想される。たとえば、モーターに関しては日本電産、パワー半導体に関しては富士電機、バッテリーに関してはパナソニックなどが挙げられる。

脱炭素に関連するテーマ3:アンモニア

水素やEV、太陽光発電、風力発電、洋上発電などは多くの人が脱炭素テーマとしてイメージするだろう。そのようななか、代替燃料としてにわかに注目を集めているのがアンモニアだ。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないゼロエミッション燃料であり、水素だけを使う場合よりも低コストで発電できるという指摘もある。アンモニアを有効活用する企業も、今後は脱炭素銘柄として注目される可能性があるだろう。

たとえば伊藤忠エネクスは、日本国内における舶用アンモニア燃料の供給、及び供給拠点の共同開発を発表した。東洋エンジニアリングは1969年に日本で最初の1,000 t/d級プラントを稼働させて以来、アンモニアプラントの実績として80件を超えるプロジェクトの建設に携わってきている。

脱炭素は世界的なメガトレンド

今回は、脱炭素銘柄の探し方を解説してきた。脱炭素は世界的なメガトレンドであり、方向性が大きく逆流することはないだろう。世界各国で脱炭素関連事業への投融資、規制改革、税制優遇などが加速するはずなので、必ずしも利益がでるわけではないが、有望な投資先と言える。あなたもお気に入りの脱炭素銘柄を探し出して、投資してみてはいかがだろうか。