本記事は、志水浩氏の著書『やさしくて強い社長になるための教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

「主体変容姿勢」を育むことが会社も社員も強くする

高める
(画像=Andrii Yalanskyi/stock.adobe.com)

なぜ方針が実行されないのか?

仕事柄、さまざまな企業の中期経営計画を拝見します。そのなかで、こんなことが多々あります。

計画書に書かれている、環境分析、成功要因の抽出、事業ドメイン(領域)選定・戦略案などは客観的に見て的を射ています。この通り進めていれば、業績は向上しているはずです。しかし現実の業績は横這いです。場合によっては下がっている企業もあります。

なぜでしょうか?

答えはいたってシンプル。実行していないからです。絵に描いた餅の状態になっているのが要因です。

昔の経営の教えで〝組織は戦略に従う〞というものがあります。端的にいえば「企業は戦略方針に沿って組織を編成して動かしていく」ということです。

その話をもじって現実の企業を揶揄した言葉として〝戦略は組織に従う〞というものがあります。「いくら素晴らしい戦略や経営計画を立てたとしても、結局はその企業の組織・社員の力量に見合ったことしかやり切れない」という意味です。

中小企業の現場をみていて、この言葉を痛切に感じます。

ここでは、われわれ中小企業の実態を踏まえて、組織・社員の力を高めるために重点的に為すべきことを紹介します。

「くれない病」を蔓延させないために

私の知人が、ドイツ人の友人と海辺で談笑していた時の話です。

突然、ドイツ人の友人が「だから日本人は人を育てるのが下手なんだ」と言ったそうです。どういうことか?

「あそこに親子がいるでしょう。さっきまでは、子どもが波打ち際で、砂でお城のような建物を1人でつくっていたんだよ。それに気づいた親が、こんな海の近くでつくっていたら、波が来て崩れてしまうからと思ったんだろうね。子どもを波が来ない所まで連れていって、『ここでやりなさい』と言ってるんだよ。しかも見てごらん。親は城のつくり方がダメだと思ったんだろうね。自分で城をつくり始めたよ。子どもは、面白くなさそうに親の姿を見ているね」

そして、こう言ったそうです。

「日本人は過保護で、子どもが失敗することから得る学びを奪っているよね」

私もまったく同感です。日本という国におけるマイナスの特性を言い表わしている事例だと思います。

学校では事細かく校則・ルールをつくり、子どもたちに考えさせない。決めさせない。失敗から学ぶことをさせない。

日本の経済社会について、よく語られることですが、〝お上〞の主導の下、規制でがんじがらめです。行き過ぎた規制がイノベーションを阻害し、生産性を低下させている面が大きいでしょう。

こうした保護的な社会ゆえに、わが国では他国と比較して受身な人が多く、自ら考え、動き、道を切り開いていく主体性に欠けている人が多いように感じます。

このことを端的に示していることの1つが、新卒募集で受ける学生の質問です。

「御社の教育システムは、どのようになっていますか?」というものです。

新卒なのだから会社、先輩から教育を受けるのは当たり前で、別におかしな質問ではないと感じる人もいるでしょう。ただ、私は違和感を感じます。

その質問をする学生に掘り下げて意図を聞いていくと、多くの場合、自分は特段の努力をせずとも椅子に座っていれば、手取り足取り教えてくれて仕事ができるようになる。

例えていえば、幼児がお風呂から上がって立っていると、お母さんがバスタオルで頭と身体を拭いてくれて、下着や服を着させてくれる。そして、髪の毛をドライヤーで乾かしてくれる。このような感覚を感じるのです。

過保護な環境が社会に出てもあるのだという錯覚と甘えです。

社会に出ても周囲がさまざまなお膳立てをしてくれる。お膳立てがなされていないのがおかしい。

この甘えが払拭されないまま、社会人として時間を過ごしていくと「くれない病」にかかります。そして成熟した大人になることを阻みます。

「教えてくれない」「権限を与えてくれない」、自分の思いどおりに事が決まらなければ「自分の意見を聞いてくれない」。こうした「くれない病」患者になっていきます。

言い換えると、自ら動く、変える努力はせず、他責、被害者意識を募らせて、会社や上司に対して不平・不満をもつようになります。

そして「くれない病」患者が会社に蔓延すると、次のようになっていきます。

素晴らしい構想や方針があっても、労力がかかることと不安心理から〝できない理由〞を並べ立てて動かず、構想が進みません、競合や顧客といった〝外〞を意識した言動がなくなっていき、〝内〞の社員にとって都合のよい、楽な仕事をしていくようになります。

さらにいえば、客観的にみれば不思議な話ですが、「くれない病」の罹患者が増えると、患者たちこそ正義であり、会社や上司がおかしいという思い込みをもっていきます。

結果、組織力が落ち、心ある前向きで主体的な人間も会社に見切りをつけて去っていく、という展開になります。

これまでさまざまな企業をみてきましたが、会社がおかしくなる場合は、直接的には環境変化に対応できないことにあります。ただ、その底を掘っていくと、多くが内側の社員・組織の問題に起因しています。そのなかでも大きな要素が「くれない病」の蔓延です。

上位者の「黙認」が社員も組織もダメにする

図表をご覧ください。「行動促進の影響力」という考え方があります。

2-1
(画像=『やさしくて強い社長になるための教科書』より)

ビジネスの世界でいえば、縦軸に上位者が「容認する・しない」、横軸は部下が望ましい「行動をしている・していない」というかたちで縦軸と横軸をとります。

すると4つのスペースができます。右上が、部下が望ましい行動を行い、上位者が容認するスペースです。端的に表現すれば記載のとおり上位者が部下に「承認」をかけることになります。

右下は、部下が望ましい行動はしているものの上位者が容認しないスペースです。一見こんなことは起きないように感じるかもしれませんが、上位者が多忙であったり、部下への関心が薄いケースでは生じます。この場合、部下の心理としては、よい行いをしているものの評価されないので「無視」されているという心理に陥ります。

そして左上は、部下が望ましくないことをしており、それを容認するスペースです。これは一言で表せば「黙認」と表現できます。注意することで部下との関係が悪化することへの不安や心理的ストレスを避けることから起きます。

最後が左下です。部下の望ましくない行動を容認しない。これは叱るという行為に代表される「指摘」という表現が入ります。

そしてここからですが、右上の「承認」を上位者が的確に行えば、多くのケースにおいて、望ましい行動は「強化」されていきます。逆に、右下の望ましい行動を「無視」することが続けば、部下本人がしっかりとした哲学・考え方をもっていれば別ですが、影響力のある人間が評価をしないことで、その望ましい行動は「弱化」していきます。

左下の望ましくない行動を、適切なかたちで「指摘」すればよい方向に「変容」します。

最後に左上です。望ましくない行動を「黙認」すると、調子に乗っていき、より望ましくない行動が「助長」されていくことになります。

ここで最もダメなのが「黙認」でしょう。いろいろなケースを見てきましたが、黙認が続いたことにより、事業所の社員全員が始業時間に来ずに遅刻・無断欠勤するような会社もありました。

社員に「被害者意識」「他責心理」を乗り越える力を養わせる

戻りますが、甘えが払拭できずに「くれない病」が出てきた社員を黙認してはいけません。可能な限り、若いうちに病気を克服させないといけません。

ただ、2代目以降の社長の皆さんはこれがコントロールできません。2代目以降の場合は、自身で採用・育成してきたわけではない社員が多くいる状況でトップに立つケースがあります。さすがに役員は稀としても、管理者クラスでは「くれない病」にかかっている社員が多々いる場合があります。

こうした状況の際、管理職なのだから、立場上いずれよい方向に変化が起こるということはありません。歯の痛みと同じで、放っておいて治癒することはまずありません。やはり助長されていきます。

アプローチの仕方、言い方は考えるにせよ、「指摘」を行うことが不可欠です。

例えば、直属の上司である専務が「権限を与えてくれない」という管理者がいたなら、言い分をじっくりと聞いたあとで専務の立場になって考えさせて、なぜ権限を与えないのか? を考えさせる。想定されることを伝えていきながら対話を行う。

「自分の想いは少し横に置いて、専務の立場でも考えてみようか。どうして権限をあなたが言うようなかたちで与えないのだろうか?」

「あなたもそうだと思うが、上位者の立場で考えると、報連相の弱い部下に権限をもたせるのは不安なものだ。その点はこれまでどうなんだろう?」

「人間関係のなかで生じる葛藤は相対的なもので、どちらにも理があり、言い方を換えると非がある。権限をもたせられない、あなたの側の原因はどんなことが考えられるだろう?」

「くれない病」を治癒するこうした動きを、基本的に組織のなかで影響力の高い社員から行っていくことが求められます。

もちろん、「くれない病」がかなり重度であったり、何かの要因で会社に対する不信感をもっていれば一筋縄ではいきません。対話中に相手が感情的になることもあります。1度や2度の対話では言うことを受け入れないことも多々あります。他の社員を巻き込んで自分の主張を通そうという政治的行為に走る者も出てきます。

しかし、この治療は続けていかなければなりません。放置すると、すでに述べたように悪しき事態を生みます。

そして、「くれない病」患者を指導できる人材を役職者として据えて、自身が「くれない病」のデメリットと対処法を伝授しフォローしながら、よい方向に向かわせていくことが必要です。

出来事の解釈をプラスの方向にコントロールする力を磨かせる

あまり今は行いませんが、新人研修を行う際に、ビジネスパーソンとして成功するために最も重要なこととして、このような話をします。

「世の中は不平等で理不尽です。納得できないことがさまざま起きます。自分の力量が足りずに悔しい想いもいっぱいします。人に虚仮(こけ)にされ批難されることもあります。厳しい出来事が皆さんの周りにこれから山のようにやってきます。

ただ、厳しい出来事に対して嘆いていても、環境や相手を恨んでも、それだけでは一向に自分にとって芳しくない状況は改善していきません。

嘆きや恨みつらみの感情が生じるのは人間の自然の心理ですが、いつまでもその感情や思考に支配されていてはよくありません。

どこかの時点で、その出来事をプラスの方向に解釈してみる。例えば、悔しい感情が芽生えることで力量を高める動機づけがなされます。失敗を重ねたことで、新たな発想で仕事に取り組むことになり、それが大きな成果につながることも多々あります。

世のなかは光と影の法則で成立している。影があればどこかに光はあるものです。プラスの方向に考えてみましょう。

そして、その時にできる一歩を踏み出していく。そうすると見える風景が変わります。行動すれば局面が変わります。今まで見えなかった道が現れます。さらにその道に向かって一歩を踏み出す。これを繰り返していくことで、マイナスと思えた出来事も善き体験となります。

被害者意識や他責心理に覆われて思考停止に陥ることなく、出来事の解釈をコントロールし、自らの行動で局面を打開していく。一言でいえば主体変容姿勢を養うことがあなたを成功に導きます」

この姿勢を育むことが、会社にとっても社員一人ひとりにとっても幸福を運びます。社員教育の1つの大きなテーマだと思います。

やさしくて強い社長になるための教科書
志水浩(しみず・ひろし)
株式会社新経営サービス 専務執行役員。1967年、京都府生まれ。1991年、株式会社新経営サービスに入社。経営コンサルタントとして30年以上のキャリアを有しており、中小企業を中心にさまざまな業種・業態の企業支援を実施中。また、各種団体での講演活動を全国で行っている。コンサルティング・研修のリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。新経営サービス内の組織開発・人材開発部門、経営支援部門、管理部門の責任者。著書に『成功体験は9割捨てる』(あさ出版)がある。

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