本記事は、志水浩氏の著書『やさしくて強い社長になるための教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

これからの時代に求められる「やさしくて強い社長」とは?

オーナー社長
(画像=One/stock.adobe.com)

人間の4つの幸せ

「やさしくて強い社長」を別のかたちで表現すると、

自分と社員の幸せを徹底的に追求する人

ではないかと思います。

人間の幸せは4つに集約されるといいます。人に「愛されること」「ほめられること」「求められること」「貢献すること」です。

ビジネスの世界に置き換えると、顧客・市場から愛され、ほめられ、求められ、そして高いレベルで貢献できれば、給与・賞与の金銭的報酬だけでなく、自己重要感・達成感・やりがいなどの心理的報酬が満足いく水準で得られることになるでしょう。

「やさしくて強い社長」とは、自身も含めた社員にこうした幸福がより多く、より長く得られるように、真摯に経営にあたっている人ではないでしょうか。

そして4つの幸せの追求は、当然、自社を強固なものにします。顧客だけでなく、協力会社、仕入先、顧客の顧客、地域社会といったさまざまな自社を取り巻くステークホルダーにも好影響をもたらしていきます。

では、何を考え、行うことが幸せを追求することになるのか?

段階を踏んで確認していきましょう。

まずは質問からです。

「会社の未来を保証するものは何でしょうか?」

資金、設備、商品、特許といった貸借対照表に記載されている資産。

収益を生み出すための競争力あるビジネスモデル。

時間をかけて培ってきた顧客からの信頼。

どれも経営していくにあたって必要なものです。欠かせません。

ただ、本質的に考えれば、資産・ビジネスモデルを適切に運用し、より強固なものにしていくのも、顧客からの信頼をさらに高めていくのも〝人〞です。〝社員〞です。

なかでも最重要人物は組織のトップである社長です。

中小企業は社長の写し鏡

特に中小企業においては、良きにつけ悪しきにつけ社長の影響が色濃く反映されます。

具体的には、まず社長の価値観です。

売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よしを旨としている社長であれば、社員の判断基準も顧客視点、社会的視点が加味されたものとなっていきます。

逆に、自己中心的で自社の収益を最優先する社長の下では、社員も同じような価値観となります。

人を立場や職位で差別することなく、誰に対しても誠実に対応することを信条としている社長であれば、社員も、社内外の誰に対しても誠実に対応する傾向が高くなります。

職位や買い手・売り手の違いによって態度を変えるような社長であれば、1年生の社員でも同様の態度をとったりします。

人間集団は無意識のうちに影響力のある人物に倣っていくようになるのです。

重要な意思決定は、当然ですが社長が行います。そして、その決断が会社に大きな影響を及ぼします。

この社長の意思決定を仕事柄さまざまな企業で見てきましたが、同じ社長でも意思決定の精度が時に変わります。誰もが考えないような素晴らしい〝斜め上を行く〞意思決定をされることもあれば、「この人がこんな判断をするのか……」と思わず絶句するような意思決定をされることもあります。

どうしてこのようなことが起こるのか?

もちろん意思決定すべきテーマに対する情報量や知見レベルにもよりますが、本質的な要因は社長の精神状態の違いです。

真摯な方ほど多忙で疲労が蓄積するため、知らず知らずストレスを抱え込んでいきます。

業績が悪い時などは会社の先行きを考えて不安に苛まれます。

逆に好業績が続き、周りからチヤホヤされて驕りが芽生えることもあります。

平常心を失った時には、意思決定の精度は落ちます。こうした過度なストレス、不安心理、驕りなどの精神面の問題が悪しき意思決定につながっているのです。

そして、何といっても社長のマネジメント力が決定的な影響を及ぼします。

会社はどんな国で経営していても、どんな業種・業態であっても、例外なく環境適応業です。

3年、5年先の自社を取り巻く環境変化を的確に予測して、その変化に対応する手立てを講じていく「先行管理力」。

自身の思いを具現化していくため、社員に高いモチベーションを促す「動機づけ力」。

経営指標、社員の報告書、顧客の幹部から聞いた話など、さまざまな情報を基にして注力すべきことを見出す「問題発見力」。

社長のこうした力量の差が、会社の中長期的な競争力に直結していきます。自身の価値観をアップデートし、精神状態をコントロールし、マネジメント力を向上させていく。これらの〝外ではなく自身の内面にあるもの〞が何よりも会社の未来を担保し、自分自身と社員の幸せを左右します。

本当の意味で社員を幸せにする社長とは?

社員に給料を稼ぎ続ける力をつけさせる

定年間際の人を除き、多くの社員には、5年、10年、20年、ビジネスパーソンとしての未来があります。当然、キャリアとともに求められる能力や成果は高まっていきます。

その高まる期待のなか、自律的な努力によって年齢やキャリアに見合った給料を稼ぎ続けられる社員にしていく。あってはならないことですが、もし自社が倒産したとしても、他社の社員もしくはフリーランスとして十分に通用させる。このような社員にしていくことが会社の未来を担保し、社員一人ひとりの幸せにつながります。

ただ、「VUCA(ブーカ)ワールド」という変化が激しく不確実性の高い経営環境、人口減少社会の本格的な到来による経済縮小、DX(デジタル変革)がもたらす古いビジネスモデルの崩壊等々、我々を取り巻く状況はこれまでと様相が一変していきます。

リスキリング(職業能力の再開発)の必要性が叫ばれていますが、多くの社員にスキル、マインドセット(過去の経験から、頭の奥深くで固定化された見方・考え方・価値観)の多大な更新・転換が求められていきます。

しかし人間は保守的なものです。また近視眼的です。これは特に立場によっても変わります。どうしても社長と社員は視座(目線)の高さが違うので見える景色が変わります。

ある社長がこのような例えで話をされていました。一般社員はビルの1階のオフィス内で働いている。外の様子がよく見えて通行人の表情まで見える。でも視野は狭く、どんなに目がよくても数百メートル先しか見渡せない。

社長は屋上で働いている。数キロ・数十キロ先まで見渡せるので、四方の道路の渋滞状況や遠くの雨雲や稲光も見える。どこに行けば渋滞に巻き込まれてしまうのか、晴天の天気がいつ頃一変するのか、がわかる。特に雨については、屋上にいるので湿度の変化も体感できる。

それを社員に伝えるのだが、当人たちには見えないものだから、言うことをまともに取り合ってくれない。

結果、社員が渋滞に巻き込まれて、お客様のところに商品が納期通り届けられない。訪問に遅れてしまう。雷雨がくるのに傘も持たずに出かける社員がいたり、濡れてはまずいものを外に出しっ放しにしてダメにしてしまう―言い得て妙な話です。

社長と社員では視座に高低差があり、自分たちを取り巻く環境変化の情報量が違うことから、将来に対する危機感に大きな差が生じます。結果、社員はスキル・マインドセット更新の取り組みが遅れたり、将来起こり得ることを小さく見積もり、十分な準備がなされないことがあります。

社長はこうした保守的・近視眼的な社員に対して、変化の必要性を訴え続けて将来に対する備えを促していく。時には強制的に、リスキリングを行う場に身を置かせるということが求められます。

中小と大手の社員の違い

中小企業と大手企業の違いの1つに、競争状況が劇的に異なることが挙げられます。大手は同期や入社期の近い社員の数が多く、ポストをめぐる争いが熾烈です。ある意味、放っておいても多くの人が自律的に努力・勉強していきます。大手企業で研修を行うこともありますが、受講姿勢が多くの中小企業とは違います。

中小企業は、まず基本的に人手不足です。昨今では若手を採用しようにも応募そのものがないような状況です。

管理・監督職のポストも、競争どころか、どう考えても適任ではない人にマネジメント職の役割を担ってもらわざるを得ないケースも多々あります。

そして、業務を回すので一杯いっぱいの余裕のない人員で運営しているため、研修やジョブローテーションなどのスキル・マインドセットを高める機会がつくれない。それが組織能力の停滞となり余裕がさらになくなり、社員の力量を高める環境がつくれない。悪循環に嵌っていきます。

中小企業の「無菌室」育ちの社員

ある製造業の話です。

製造トラブルが続き、有力なお客様に多大な迷惑をかけることになりました。当然、まずトラブル解決に全力を注ぎ、何とかトラブルが収まり従来の物量・品質で納品できるところまで持ち直しました。

落ち着きを取り戻し始めた頃合いで、まだトラブルの要因分析・再発防止策は十分に検討できていませんでしたが、お客様のところに直接お詫びにいくことになりました。

通常であれば、社長と営業担当者で訪問してお詫びをします。ただ、この時は製造担当者に当事者意識を醸成するため同行させることにしました。製造担当者がお客様のところに訪問することは何十年もなく、ましてやクレーム対応にあたることはありませんでした。

当日は、お客様から厳しい指摘を受けることになりましたが、最終的には変更なく従来通りの取引を続けることで話がつきました。社長と営業担当者からみれば最善の結果で、一安心の状況です。

ただ翌日です。クレーム対応に同行した製造担当者が会社に来ません。連絡がつくと何と、お客様からの指摘にショックを受けて寝込んでしまっていたのです。

社長と営業担当者からみれば、自分たちのかけた迷惑から考えれば当たり前の反応であり、もっと言えば感情を抑えた紳士的な振る舞いであったと感じていたほどです。どうしてそこまでショックを受けるのか? 聞いた瞬間は理解に苦しんだそうです。

しかし、製造担当者本人からすれば十数年間、お客様のところに訪問するどころか、電話で話すこともなかった状況でした。それを考えるとインパクトが強かったようです。

ここまで極端ではないにせよ、中小企業では製造業・物流業を中心に無菌室で育った箱入り息子・箱入り娘のような状態に陥っている社員が数多くいます。

身内の定まった人間関係の中で、昨日したことを今日も行う、今日行ったことを明日も行う式のルーティンワークに終始した仕事を続ける。

お客様の要望に対して、言われてから受身の対応をとる。場合によっては、その要望が自分たちの仕事の進め方を変えることにつながることから、対応自体を嫌い営業・上司に抵抗する。

給料の源泉がお客様の要望に応えることにあることを認識できておらず、親方日の丸発想で仕事をしている。

世の中の変化に鈍感で危機感がもてず、自分たちの力量を高める努力をしない。

世間の厳しさに揉まれることなく過保護な環境で育ち、足腰もメンタルも弱く、世情にも疎い社員が、残念ながら中小企業においては一定数います。

会社の未来を本質的に保証するのは人

われわれ中小企業は人的・資金的な余裕があまりありません。

保守的で近視眼的な発想に陥りがちで、世間の荒波を知らない社員も多くいます。

社長が1人で何役もこなさなければならないなかで、さまざまなトラブルが日々生じます。なかなか時間も気持ちも余裕をもてません。

ただ、冒頭述べたように、会社の未来を本質的に保証するのは、社長と社員の実力です。

その実力が、社長自身と社員の金銭的報酬、自己重要感・やりがい・達成感といった心理的報酬の多寡や持続性を決めます。

実力を高めることが、顧客だけでなく社員の家族・協力会社などのステークホルダーにも好影響をもたらします。そしてそのステークホルダーが、会社をかけがえのない存在として大切に考え、助けてくれます。プラスの影響を与え合う、よき連環が生まれます(下図参照)。

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(画像=『やさしくて強い社長になるための教科書』より)
やさしくて強い社長になるための教科書
志水浩(しみず・ひろし)
株式会社新経営サービス 専務執行役員。1967年、京都府生まれ。1991年、株式会社新経営サービスに入社。経営コンサルタントとして30年以上のキャリアを有しており、中小企業を中心にさまざまな業種・業態の企業支援を実施中。また、各種団体での講演活動を全国で行っている。コンサルティング・研修のリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。新経営サービス内の組織開発・人材開発部門、経営支援部門、管理部門の責任者。著書に『成功体験は9割捨てる』(あさ出版)がある。

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