本記事は、志水浩氏の著書『やさしくて強い社長になるための教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

先代社長はとことん味方につける

味方
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

ファミリービジネスにおける事業承継の難しさ

長崎地方の訛りがある甲高い声で通販番組のMCを行い、テレビ通販大手に会社を成長させたジャパネットたかた元社長の高田明氏。2015年に副社長で息子の高田旭人氏に社長職を譲り、自身は会長職にも相談役にも就くこともなく完全引退をしました。

その後、会社は順調に成長しており、連結売上額を2015年の約1,559億円から2020年には2,405億円まで伸ばしています。

理想的な事業承継がなされた事例としてよく取り上げられています。

後継した高田旭人社長が、雑誌インタビューでこのように語っています。

実は父が社長を辞める時も、『会長として残ってはどう?』と提案はしました。しかし、父のほうから『自分が残ると(経営を)やりにくいだろう』、『社員も迷うし、やりづらいからそんなことはやめたほうがいい』ときっぱり言われました。経営のバトンを渡す時は、あっさり自分の身を引くと言っていたので、父は言葉通り、きっぱりとジャパネットから身を引いたのです ―― 『NIKKEI STYLE』2017年4・5号

この承継がなされる10年間は2人で意見を戦わせたようですが、見事な承継です。

ただ、このようなケースはかなり少ないのが実態です。

日本の企業は上場企業でも過半数、全企業となると95%以上がファミリービジネスといわれます。そのなかでジャパネットたかた同様、親子での事業承継が最も多くなされますが、さまざまな事情で経営権を争う形になり、どちらかが会社を出ざるを得ない事態も数多く生まれます。

子が経営権を握り、親である先代が会社を辞めていくケースでは、大塚家具、星野リゾートなどが挙げられます。逆に親が子を解任して経営権を握るケースでは赤福などが挙げられます。

どちらかが会社を去るような事態にならずとも、先代と現社長で対立が続くこともあり、双方に強いストレスが生じる事態は多々あります。

NHKの連続テレビ小説「まんぷく」のモデルである日清食品の安藤百福氏とご子息で2代目社長の安藤宏基氏もそうでした。著書『カップヌードルをぶっつぶせ!』(2010年・中公文庫)で安藤宏基氏はこのように述べています。

私が社長になってから創業者が96歳で亡くなるまでの22年間というもの、飽きることなく口論を繰り返すことになったのである。よく社長の座を続けられたものだと、われながら感心するほどである。

では、バトンを受ける・受けた者として、先代とどのように接していけば経営をスムーズに進めていくことができるのでしょうか。いくつかポイントとなることをみていきましょう。

先代をモンスターにしないために

私がこれまで直接的ないしは間接的に聞いた先代社長の心情をまとめると、まずは矛盾する心理状態が生じることが多いように感じます。

具体的には、これまでの既定路線とは違う政策を新社長が推進し、結果が出れば嬉しい反面、自分が否定されたようで悔しくもある。幹部からの報連相がなくなってくれば安心できるものの、寂しさが湧き出てくる。

特に、創業経営者を筆頭に何十年も経営に情熱を注ぎ、さまざまな事態に矢面に立ってきた方ほど、こうした気持ちが顕著に現れる傾向があります。

この心情に鈍感で適切な対処をしなければ、先代から嫉妬などのモンスター感情が生まれることがあります。

結果、新社長の政策のあら探しを行い否定的な見解を示す。場合によっては、古参幹部に不安・不満をぶつけて、新社長にブレーキをかけることを示唆する。ひどくなれば、取引先や一般社員まで巻き込んで新社長とは違う政策を推し進めようとします。組織が混乱していきます。

こうした事態を引き起こさないため、後継者は先代の心情に配慮した振る舞いを役割の1つとして考えることが求められます。

具体的な手立てとしては、まずは頻度多く報連相を行うことです。口では先代はそこまでしなくてよいと言ったりしますが、内心は頼りにされているという想いが生じて自尊心が満たされます。

先に妄想9割:事実1割と述べたように、人間は何かの拍子で少し悪しき印象をもってしまうとマイナスの方向にどんどん妄想が膨らんでいきます。報連相をマメに行うことにより、悪しき妄想を膨らませることが防げます。

もちろん先代は自身より経営者としての経験を長く積んでいます。さらにいえば先代の知見にはるかに及ばない分野もあります。的確かつ示唆に富んだ回答をしてくれることも多々出てきます。

会社の危機的な状況で父親の後を継いで社長となり、見事な手腕で優良企業に変貌させ、「産廃処理のジャンヌダルク」とも評される石坂産業の石坂典子社長は、毎日朝一番に先代に対して15分間の報連相ミーティングを行っていたそうです。

そして、この報連相の際、相手が親などの身内の場合は、血縁ではない株主と対話を行うつもりで接したほうがよいでしょう。

多くの場合、縁の遠い人に対してはほとんどの人が紳士・淑女の対応をします。しかし人間関係が近ければ近いほど、互いに甘えの気持ちが出てぞんざいな態度をとりがちです。結果、意に沿わないことが出てくれば感情的なやり取りをしてしまうことになります。

先代の活躍の場は社外に

活躍できる場をつくることも重要でしょう。先代はこれまで中心者として、まさに24時間365日会社のことを考え、動いてきた方です。突然、力を注ぐことがなくなると、心身ともにおかしくなります。

社内であれば、報連相が十分になされており、その部門の責任者と自身がしっかりと連携がとれているという前提で、自分の知見が及ばない、例えば技術開発分野などのサポートを行ってもらうのも1つの方法でしょう。

最もよいのは社外活動です。業界の組合団体、地域コミュニティ、商工会議所などの公的組織の事業について会社を代表して担ってもらうことです。

人は多くの場合、時間をもて余す状態になれば、よろしくない考えが浮かんだり行動をしてしまいがちです。一定レベルの多忙さが肉体的にも精神的にも健全な状態をつくります。社長を引いた後の活躍の場をつくってもらう働きかけをしておくことも必要でしょう。

また、後継者として感謝の念をもつことが不毛な対立を避け、先代の悪しき感情を生じさせないことにつながります。よくいいますが、人間関係は鏡のようなものです。自分が相手に好感をもっていれば、相手も自分に好感をもってくれます。少なくとも憎いとは思われません。逆に悪しき感情を有していれば、相手も自分に対して同様の気持ちが湧いてくることになるでしょう。

先に述べたとおり、近しい間柄ほど愛憎入り混じり感情的な対立が生まれやすく、こじれれば他人同士の関係ではあり得ない悪い状況になったりもします。

これは先代だけではありませんが、日を決めて、数名の先人たちに感謝すべきことを考え、言語化する習慣をもたれていた方がいました。このような取り組みも有効でしょう。

そして後継者には何より、自分を磨き、実績を出していくことが求められます。

やさしくて強い社長になるための教科書
志水浩(しみず・ひろし)
株式会社新経営サービス 専務執行役員。1967年、京都府生まれ。1991年、株式会社新経営サービスに入社。経営コンサルタントとして30年以上のキャリアを有しており、中小企業を中心にさまざまな業種・業態の企業支援を実施中。また、各種団体での講演活動を全国で行っている。コンサルティング・研修のリピート率は85%以上を誇り、顧客企業・受講生からの信頼は厚い。新経営サービス内の組織開発・人材開発部門、経営支援部門、管理部門の責任者。著書に『成功体験は9割捨てる』(あさ出版)がある。

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