本記事は、志水浩氏の著書『やさしくて強い社長になるための教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
計画的なエリート教育が会社の未来を約束する
新2:6:2の法則
「2:6:2の法則」という考え方があります。働きアリの観察から生まれた話です。働きアリの集団は、よく働くアリ2割、普通に働くアリ6割、ほとんど働かないアリ2割に大別されます。
よく働く2割のアリだけを集めて集団形成させても、やはり、2:6:2の割合に分かれていきます。逆に働かないアリだけで集団形成しても2:6:2に分かれます。
この法則を、企業組織にも当てはめると、ハイパフォーマー2割、普通の求められる成果を出す6割、問題児の2割に分かれる傾向にある。こうした話です。
私は、この話をこのようにとらえています。
技術・営業構造・戦略・ビジネスモデルなど会社や部門のコア・コンピタンス(中核的能力)をつくり発展させていく、一言でいえば成果が上がる仕組みをつくる2割の人材、仕組みを活用して成果を上げていく6割の人材、仕組みをうまく活用できず成果が上げられない2割の人材。
通常の階層別に求められるスキル・マインドセットを開発する教育は、もちろん全員に一律実施することが必要でしょう。
ただ、それだけでは変革期を迎える時代には足りません。環境変化に適応すべく、先頭を切って市場・競合に向かい、「組織のコア・コンピタンスをつくる2割のリーダー人材」を特別枠でレベル高く育成していくことが肝要です。
具体的には、現幹部・管理者層のなかではもちろんですが、中堅・若手などの世代別にコア・コンピタンスをつくる一翼を担っている、もしくはつくり出していく可能性ある人材を選定します。そして、個別事情(力量・個性傾向・経験値など)を踏まえた次のような環境を与え、計画的に鍛えていきます。
・成果が上がらず停滞している部門・部署の立て直し、誰もが経験したことのない新規課題の推進など、難易度が高くストレスのかかる課題にあたらせる。
・外部機関や大学院に派遣して他流試合をさせ、社内では得られない知見をつけさせる。また、優秀な外部人材に触れさせることで力量強化における目標レベルを高める。
・部門横断型のプロジェクトリーダーに抜擢し、視座を高めて経営者目線で意思決定する訓練をさせる。
・ジョブローテーションを計画的に行い、部門・部署特有の課題や制約を理解させ、多角的な判断ができるようにする。
こうした経験を計画的にさまざま積ませていくなかで、昇進・昇格も行い、各階層・世代で「組織のコア・コンピタンスをつくる2割のリーダー人材、人材候補」を切れ目なく育成していくことが肝要です。
大切なのは「生きた手本」に接すること
この育成については、こうした方法だけでなく他にもさまざまな方法があり、1つだけやればよいということでもありません。
ただ、組織の中核を担う人物がどのように生まれていくのか。さまざまな組織を見てきて感じるのは、われわれ中小企業は次のことが大きいように思います。
それは、社長はじめ会社のなかのトップクラスの人材とどれだけ濃密な時間を過ごしているかということです。
事例でお話ししましょう。ある企業に中途採用で2十歳の男性が入社します。ちょうど前任者が退職する時期だったので、しばらく社長の運転手として仕事をしていきます。
そして時が過ぎ、その人は会社のナンバー2にまで昇進しています。
これは、もちろん本人に素養があったのですが、運転手として仕事をしていくなかで、車中で社長が携帯電話で話すこと、部下やお客様との車中での会話、そして直接的な社長との会話を通じて、意思決定プロセス・判断軸など、視座高く、適切に物事を考えていく思考習慣が身についたことが大きかったようです。
結果、実働部隊に異動したあと、目線や思考力が違いますので、どんどん成果をあげていってナンバー2の立場までのぼったということです。
社長はじめ会社のトップクラスのメンバーと、見込みある人材とが時間を共有していくことこそ「組織のコア・コンピタンスをつくる2割のリーダー人材」を育成する有効な要素といえます。
中小企業こそ必要なサクセッション・プラン
一部の大手企業は、サクセッション・プラン(後継者育成計画)をさまざまな階層で作成し運用しています。なかには、外部有識者が「社長の後継者が育成できていない」と判断すれば、社長の給料が減額される企業もあります。
もちろん大手は、成果が上がる仕組みをつくる人材を育成するため、各階層・職場でサクセッション・プランをもって動くことが必須です。しかし、より求められるのは中小企業です。
これから、さまざまな業界で、デジタル化をはじめとした技術進歩によってビジネスモデルが大きく変わります。また、われわれ中小企業も本格的なグローバル競争を迎えます。
そして、このグローバルで考えると日本の中小企業は収益性・生産性が低い状況です。
ゴールドマン・サックスのアナリストから、国宝などを修復する小西美術工藝社の社長に転じるというユニークな経歴をもち、政府の顧問としても活躍をしているデービッド・アトキンソン氏。
人口減少社会において、日本の経済力を維持するためには「2060年までに日本の中小企業は半分以下の160万社に減らして、1社あたりの生産性を上げる政策を採るべきだ」と述べて話題になりました。
アトキンソン氏の言うように半分以下になるかはわかりませんが、競争環境の激化による合併・倒産、そして後継者難による廃業というファクターも含めて考えると、企業数が大幅に減っていくことは間違いないでしょう。淘汰が現実的に始まっていきます。
こうしたなかで、存続、成長、そして合併をリードするには、仕組みをつくり、会社の中核を担う人材をいかに育成できるかが鍵を握ります。自然発生で優秀な人材が生まれるのを待つのではなく、意図的・計画的に育成していくことが求められます。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます