この記事は2022年8月25日に「The Finance」で公開された「【連載】金融×新潮流⑤-前編- Web3とは? ~日本企業にとってのWeb3上でのビジネス戦略~」を一部編集し、転載したものです。


【連載】金融×新潮流⑤-前編- Web3とは? ~日本企業にとってのWeb3上でのビジネス戦略~
(画像=EZPS/stock.adobe.com)

直近、日本や米国などでWeb3という言葉が注目されている。本稿では、Web3を正しく理解するために、前提となるキーワードをおさらいした上で、テクノロジーとビジネスの両面の特徴について解説し、日本企業にとって有望なビジネス戦略を議論する。

主なポイント

  • 2020年暮れから、徐々に存在感が増してきたWeb3は、政府の基本方針にも織り込まれ、今後は様々な方面での活用が議論・実証されていき、社会に影響を与えうることが予想される。
  • Web3を正しくとらえるためには、中央集権的なWeb2、分散的なWeb3という対比に留まらず、テクノロジー・ビジネスの両面で特徴を捉えることが重要だ。
  • これまでWeb2ではGAFAM等のプラットフォーマーに後塵を拝してきた日本企業が、何をフックに、どのようにしてWeb3で戦っていくべきか、有望な戦略を理解したうえで、Web3における資本の論理の影響など、重要な論点に予め備えておくことが求められる。

目次

  1. 主なポイント
  2. Web3とは何か?注目される背景と前提知識
  3. Web3のテクノロジー面の特徴
  4. Web3のビジネス面の特徴
    1. (1)ファットプロトコル理論
    2. (2)マネタイズの実例
    3. (3)有望な戦略
    4. (4)日本企業が直面する論点
  5. まとめ

Web3とは何か?注目される背景と前提知識

2022年6月、政府は国によるデジタル政策の基本方針を取りまとめた「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の改訂を閣議決定した。次世代のインターネット技術と目されていた「Web3」も、その基本戦略の柱の1つとして掲げられ、デジタル庁のリードのもと、政策も含めてWeb3の導入を推進する方針が明示された。

これまで古くは2014年ごろのイーサリアムホワイトペーパーで提唱され、限定的なメンバーでのみ認知されていたコンセプトが、ついに日本でも重要なデジタルの変革要素として捉えられた瞬間と言えるだろう。

ここに至るまでには、2009年のビットコイン誕生から約13年を要している。2013年のスマートコントラクトによる汎用プラットフォーム化、2017年のDApps、2020年のDeFiの勃興を経て、2021年にはNFTとDAOが急拡大したことが、直近でWeb3が取りざたされる背景だ。ここで挙げたキーワードは本稿を読み進めるにあたって前提となるため、簡単に触れておきたい。

  • ブロックチェーン:情報通信の技術の一つで、データの送受信が特定の事業者によって仲介されることなく、ユーザー同士が直接やりとりできる技術を指す。
  • スマートコントラクト:ブロックチェーン上の一つ一つのブロックに定義されるプログラムを指し、予め決められた通りの処理を自動執行する。
  • ビットコイン:仲介する管理者を必要としない仮想通貨としてブロックチェーンの最初の実用例となった暗号資産を指す。
  • DApps:Decentralized Applicationの略で、ブロックチェーン上で提供されるユーザー向けサービスを指す。
  • DeFi:Decentralized Financeの略で、金融機関などの仲介事業者の代わりに、スマートコントラクトを利用して、自動的に執行される金融取引・サービスを指す。
  • NFT:Non-Fungible-Tokenの略で、唯一固有のものとして発行されるデジタル資産を指す。
  • DAO:狭義には特定の個人の指示ではなく自律的にブロックチェーンが定めたルールに則り、目的に向かって個々人が協力し合うコミュニティを指す。

Web3とは何かに答えるため、しばしばWeb2との対比が描かれることが多い。GAFAMのような一部のプラットフォーマーがデータを掌握していた中央集権的なWeb2と、個々人にデータが紐づき管理できる分散的なWeb3だ。

Web3は、ルールメイクやアルゴリズム改変の特権、データの掌握などを通じて、富の集中を生み出すGAFAMを筆頭としたプラットフォーマーへのアンチテーゼであり、個人に主権を取り戻す大義ある取り組みとして語られがちだが、Web3を正しく理解するためにはテクノロジーとビジネスの両面で特徴を捉えることが重要だ。

Web3のテクノロジー面の特徴

テクノロジー面の特徴を捉えるために、根幹であるブロックチェーン技術は欠かせない。ブロックチェーン技術の概要は先に述べた通りだが、特にアプリケーションレイヤーのサービスがなくなったとしても利用データが消えない点と、データがアプリケーションに依存せずシームレスに持ち運べる点が、ブロックチェーンのもたらしたWeb3の技術的な特徴だ。

ユーザーが主導権を持ってデータを管理し、共有先を選択する構図となるため、アプリケーション提供者などに勝手にデータを参照・利用されることはない。

また、プロトコルの一端であるトークンを発行することが容易であることも理解しておくことが望ましい。例えば、クリエイター向けにGitHubやYouTubeなどにおけるコミュニティでトークンを発行できるツールも生まれており、トークンの発行は決して一部のIT技術者しか実現できないことではなくなってきている。

発行されるトークンには2つの要素があり、参加するコミュニティの投票などに活かされるガバナンストークンと金銭的価値を持つトークンが存在することも読み進めるにあたって理解しておきたい。

Web3のビジネス面の特徴

(1)ファットプロトコル理論

Web3を理解するための重要な概念として、ファットプロトコル理論がある。ファットプロトコル理論は、コンテンツ/IP、アプリケーション、プロトコルの3レイヤーの力関係が変わることを示している。

Web2では、ユーザーを囲い込み強大なデータを保有するアプリケーションレイヤーに価値が偏重していたが、Web3では価値の源泉がコンテンツ/IPやプロトコルレイヤーに移ることを説明する理論だ。

GAFAM等のプラットフォーマーに提供価値のほとんどを掌握され、プラットフォーム利用料や広告料といった名目で半ば強制的に価値を吸い上げられていたWeb2の構造的な問題を根本から変えうる概念としてWeb3を表現している。

アプリケーションレイヤーのプラットフォーマーが集約したデータを活用して、ユーザー向けに広告を提供するWeb2のビジネスモデルは、サービス利用体験の悪化を招くばかりか、その解消のためとして更なる課金が求められるビジネスモデルすら成立させてしまっている。

また、データを扱う側の意思が織り込まれたレコメンド広告などによって、ユーザーの興味・関心・行動すらも操られてしまうことが問題視されていた。データがアプリケーションレイヤーに集約されないWeb3ではこれらの問題が解消されるが、それを支えているのは、プロトコルレイヤーの役割の変化だ。

Web2では通信の約束事やデータのアドレスを示す程度だったが、Web3では、個人のデータを管理し、トークン発行を通じた経済価値の創出までの役割をプロトコルが担うようになる。アプリケーションレイヤーの価値が相対的に薄くなることで、冷遇されていたコンテンツのクリエイターやユーザーに改めて光をあてる思想だ。

(2)マネタイズの実例

Web3は、個人にデータの主導権があるがゆえにWeb2とは異なるマネタイズの考え方がいくつかある。例えば、コンテンツに関していえば、デジタルアートの転売履歴を追跡できることになるため、これまでクリエイターが関知できなかった二次流通ビジネスからも収益を得ることが可能となる。NFT売買サービスで有名なOpenSeaでは、二次流通の際の手数料も出品者が自ら決めることができる。

アプリケーションやサービスごとに思想が異なるものの、特にDAOが運営するようなサービスでは、手数料もDAOメンバーに還元してしまうか、DAOが有するサービスの拡大に充ててしまうケースも多い。

例えば、Uniswapは暗号資産の交換所として有名だが、交換ごとの手数料は、プール資金を貸し出すユーザーに分配されている。ゲームで有名なAxie Infinityもコンテンツ売買手数料を徴収されるが、コミュニティトレジャリーという形式で共通資産としてプールされ、ゲームの機能拡充やサービスの品質向上に用いられる。

どちらも分散型で個々人の集合体であるがゆえに、サービス提供者が収益を囲い込むのではなく、初期から利用するユーザーや開発に貢献したメンバーに還元することで更なる参加・貢献を促すという考え方だ。

では、Web3のサービスを開発・提供する事業者は何で稼ぐのか。最も一般的な解は自前で発行するトークンによるマネタイズで、株式のような捉え方が可能だ。トークンのマイニングや売買によってキャピタルゲイン的な差益を得る仕組みや、暗号資産の運用で利回りを得るインカムゲイン的な仕組みなどが存在する。

サービス提供者は、自ら保有するトークンの価値が上がることで収益を得られるため、UniswapやAxie Infinityのように取引・売買手数料などを収益源としないビジネスモデルが成立すると考えられる。

(3)有望な戦略

ここまでを振り返ると、Web3サービスの提供者にとっての有望な戦略が浮かび上がってくる。コンテンツなどをフックにユーザーを集めるとともに、アプリケーションでユーザー同士の交流や取引を促進し、投票権や報酬で必要となるトークンの発行を通じてプロトコルレイヤーに進展しつつ、マネタイズを図るアプローチだ。

例えば、NFTを有名にしたBored Ape Yacht Clubも同様と言えよう。Bored Ape Yacht Clubは、SNS等のプロフィール画像に使える猿のデジタルアートをNFT化して販売し、高額で取引されたことで注目を集めた。このNFTは、Bored Ape Yacht Clubの会員権にもなっており、会員限定のデジタルコンテンツ(BATHROOMと呼ばれるデジタル落書きスペース等)やDiscord(Web3でよく用いられるコミュニケーションツール)といったアプリケーションを通じて、会員同士の交流の場に参加できるプレミアムな価値を提供する仕掛けで爆発的な人気を生むことに成功した。

さらに、2022年3月には独自トークンである”ApeCoin”を導入し、同年4月にはメタバース”Otherside”をリリースした。メタバースでは”ApeCoin”が通貨として用いられることになっており、メタバースを新たな場として会員同士の交流を更に増やすとともに、トークンの価値を高めていく戦略だろう。

*メタバースについては、以下の記事を参照されたい。
【連載】金融×新潮流① メタバース社会がもたらす金融の可能性

日本企業はこれまでWeb2のアプリケーションレイヤーに存在するGAFAM等のプラットフォーマーに後塵を拝してきた。しかし、ここまでお読みいただいた読者には、コンテンツに力のある日本企業にとって、Web3が巻き返しを図るための様々な可能性を有していると共感いただけるはずだ。

グローバルで人気が集まる日本のアニメや漫画など、すでにコアなファンを獲得し、コミュニティが形成されているものも多く存在しているため、あとはコミュニティの会員権をNFT化するなどしてWeb3に取り組めば、グローバルで賞賛される新たなビジネスを築き上げられるかもしれない。

例えば、米国バスケットボールのファンコミュニティを活用した事例として、NBA Top ShotというWeb3サービスが存在している。元々価値のあったコンテンツ(NBA選手の写真)をNFTとして販売することでコミュニティ要素を高めた成功事例だ。

(4)日本企業が直面する論点

他方、手放しにWeb3がもたらす可能性を享受できるわけではない点も言及しておきたい。これまで述べてきた有望な戦略は、最初にフックとなるコンテンツがなければ成立しえないものの、同時にユーザーを獲得した後のアプリケーションレイヤーにおけるコミュニティの発展と、プロトコルレイヤーにおけるトークンを通じた価値創出への取り組みが不可欠である。

NFTなどのWeb3特有のテクノロジーや一種のバズワードに惑わされることなく、Web2においてGAFAM等に代表されるプラットフォーマーに後塵を拝した闘いからの学びを活かし、Web3におけるマネタイズポイントの正しい理解と適切なタイミングでの事業展開の見極めが重要だ。

その際の参考として、先行事例で発生している議論の中で特に重要な点に触れておきたい。トークンの発行がWeb3のマネタイズにおける重要な要素であると同時に資本主義的な意思決定に係る課題を引き起こしている点だ。

Web3のサービス提供者はユーザー対して、投票権や参加権としてトークンを発行するが、当初経済価値を定めない報酬の見返りとして発行されたとしても、元々計画されていたか、メンバーの要望を受けてか、経済価値を有する形に変化していく場合が良く見られる。

例えば、街づくりに取り組むSocial DAOの一つであるCabin DAOにおいて、投票権でもある€ABINはイーサにも交換可能な期間があった。元々、街づくりへの貢献を可視化するために発行されたガバナンストークンだったが、3カ月間の試用期間を経て、Cabin DAOの有する土地や宿泊施設を利用するためのパスポートやイーサを代替する支払い手段として進化した経緯がある。ただし、直近でも貢献に対する対価のみとする方針転換があったように、最適な形を目指して今後も変化していくとみられる。

貢献の見返りとしてトークンを発行する仕組みは、株式と同様にいわばストックオプションの新たな形式として機能する側面もあるため、早期にコミュニティに参加したメンバーやサービス初期からのユーザーに有利に働きやすく、圧倒的な貢献がない限り、年単位の参加時期の差を埋めることは非常に難しい。

また、この「圧倒的な貢献」を資本力で解決することも可能であることに関して、最近イーサリアム考案者ヴィタリック・ブテリン氏が仕掛けた議論として、投票権の譲渡・販売の是非がある。

同氏は、この問題に対して、「Soul」「SBT」という新たな概念を論文にまとめてWeb3業界に一石を投じている。Soulとは組織と個人を問わずインターネット上のアカウントが有する概念で、現実社会の人格や評判の概念に近い。

また、SBTとは、Soulbound-Tokenの略で、Soul間で発行し合うトークンだ。例えば、大学のケースで考えてみると、大学と学生がそれぞれのSoulを持ち、大学のSoulから学生のSoulに対し、学位のSBTを発行することができる。

また、大学以外で所属するDAOにおいても、DAOのSoulから参加メンバーのSoulに関係性を示すSBTが発行されることになる。結果的に、個々人のSoulは多様なSBTで紐づけられることになる。

論文では同時に、DAOにおいて大量のトークンを資本力で取得することや、大量のボットアカウントを作成して投票数を水増しすることを防ぐ方法についても言及している。

人格や評判であるSoulの相関性や情報の多寡をベースに不正を検知する仕組みで、マジョリティの意見の中に類似するSoulの特徴(SBT)を持つアカウントが多く存在する場合やSoulに紐づくSBTが少ない場合は投票の価値を下げることで対処できるとしている。

SoulやSBTですべて解決できる訳ではないとしながらも、Soulを有する個人と各コミュニティや組織が相互に影響し合う仕組みが、Web3で目指す民主主義の実現に向けた足がかりとなることが期待されている。

分散型の意思決定が触れ込みのWeb3だが、中央集権型に傾いてしまう懸念があることは理解しておく必要がある。議論を加速させるという側面でリーダーやファシリテーターが存在すること自体はネガティブな要素ではないものの、ガバナンストークンなどの仕組み等を活かしながら民主主義的な意思決定を維持しつつも、資本の論理が入り込むことや意思決定のスピードが遅くなること等の課題に対する解決策が求められる。

日本企業がWeb3上での戦略を検討するにあたって、コミュニティの意思決定をどのように捉え、設計すべきか、決して容易ではない議論に備えておくべきだろう。

まとめ

本稿では、Web3におけるブロックチェーンをはじめとしたテクノロジー面の特徴とマネタイズの変化や意思決定の在り方も含めたビジネス面の特徴を正しく理解することや、日本企業がWeb3に取り組む際に検討が必要な論点を意識することが重要であると述べた。

Web2では後れをとった日本企業だが、Web3においては、世界で戦えるコンテンツ/IPレイヤーの優位性を武器に、新たな時代を切り開く可能性を秘めている。金融サービス関係者のみならず、本稿が「Web3とは何か」から一歩踏み込み、Web3を活用した新たな価値創出の在り方を模索するための一助となることを期待している。
後編では、これらの特徴や論点をもとに、Web3における金融サービスの進化について論じることで、Web3がもたらす新たな未来の可能性について思考を深めていきたい。

*本稿は2022年8月時点の情報に基づいて作成されています。

Future of Finance|ストラテジー|デロイト トーマツ グループ|Deloitte


[寄稿]坂下 真規
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
マネジャー

電機業界を経て現職。新規事業立案を中心にクロスボーダー案件や戦略策定プロジェクトに従事しており、大企業における下流から上流までの幅広い経験やマルチナショナルな経験に基づいた提言に強みを持つ。近年は、金融業界での新規事業立案や、DAOなどを活用したサービスの検討にも取り組んでいる。
[寄稿]齋藤 亮
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
シニアコンサルタント

大手金融機関にてフィンテック領域を中心に、国内外の事業会社および投資先の経営管理、成長戦略の立案、価値向上施策の実行を経験。事業会社の経営経験に基づいた、確かな成長戦略の立案に強みを持つ。
[寄稿]三由 優一
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
ディレクター

大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。金融機関に対する中長期戦略策定・新規事業立案・全社デジタル改革プラン策定・M&Aのほか、異業種に対する金融事業参入構想策定・Fintechビジネス企画・決済事業立上・海外展開プラン策定等の支援経験に富む。近年は、脱炭素を軸とした社会・地域課題解決に資する金融の在り方やサービス検討にも取り組んでいる。