この記事は2022年7月29日に「The Finance」で公開された「【連載】金融×新潮流④ 金融が導くエンタメ産業の未来」を一部編集し、転載したものです。


本稿では、グローバルにおいてアニメ産業が拡大しているなかで、世界に誇る日本のアニメ産業の課題を深堀し、金融の切り口から今後発展につながる可能性について示唆する。

目次

  1. 主なポイント
  2. 日本が世界に誇る産業、アニメのポテンシャル
  3. 日本のアニメ産業に忍び寄る危機
  4. アニメ産業の進化をもたらす金融の可能性
  5. NFT活用取り組み
    1. (1)ファンと共創するアニメ制作|企画・資金調達~制作
    2. (2)二次利用ビジネスを拡大|ライセンス管理~二次利用
  6. 信託スキーム活用アイディア
  7. 最後に

主なポイント

【連載】金融×新潮流④ 金融が導くエンタメ産業の未来
(画像=denisismagilov/stock.adobe.com)
  • エンタメにおいて日本が世界に誇るアニメ産業は、海外マーケットが急激に拡大しており、日本がグローバルで戦える数少ない産業の1つと期待されている
  • ただし、アニメ産業のクリエイターである制作関係者の生活水準が低い課題は根深く、このままでは国際競争力を失いかねない懸念がある
  • 打開に向けては、グローバル視点での取り組みが重要であり、NFTや信託スキームなどの金融の切り口から新たなアニメ産業の在り方を見いだせる可能性がある

日本が世界に誇る産業、アニメのポテンシャル

2021年5月10日、日本のアニメが世界に金字塔を打ち立てた。日本でも空前のヒットとなった「鬼滅の刃 無限列車編」が、アメリカの映画データサイト「ザ・ナンバーズ」が公表した2020年公開映画の世界興行収入ランキングにおいて、全世界1位に輝いたのだ。

日本のエンタメコンテンツにおいて、ゲームと双璧をなすアニメは、日本が世界で戦える数少ない産業の1つとも言われている。これまでのアニメ産業の発展を振り返ってみると、2002年は1兆円程度であった国内外の日本アニメ市場規模がCOVID-19前の2019年には約2.5兆円と20年近くで2.5倍にまで拡大している。

変化点は2012年頃であり、2002年から2011年の年平均成長率が約2%であったものが、2012年から2019年は約9%と、ここ10年近くで市場が急速に拡大したことが分かる。主な要因は、海外市場と、NetflixをはじめとしたSVOD(Subscription Video On Demand:定額制動画配信)サービスが該当する配信市場の拡大だ。

特に、海外市場の伸びは凄まじく、2012年の2,408億円から2019年には約1.2兆円と年平均成長率は26%、アニメ市場全体に占める海外比率も同期間で18%から48%と目覚ましい成果をあげており、アニメ産業発展のけん引役となっている。

海外でもアニメ≒オタクではなく、ポップカルチャーとして受け止められるようになったこともあって、黄金期を迎えつつある。

例えば、世界的なシンガーのビリー・アイリッシュが日本のアニメを題材にしたPV(Promotion Video)を発表したことや、米国最大のスポーツであるNFL(アメリカンフットボール)のロサンゼルス・チャージャーズというチームが全米注目のスケジュール発表告知において、鬼滅の刃、進撃の巨人、ONE PIECEなどのキャラクターを引用した動画をTwitterに投稿したことが大きな話題となった。

また、ファン同士がアニメについて語り合うこと自体がビジネスとなる動きもでてきている。例えば、注目アニメ作品の共有や、特定シーンの解説などを動画配信するThe Anime Manは3百万人強のフォロワーを抱えており、YouTubeで有名なアニメ系のチャンネルである。アニメを盛り上げる動きは、枚挙にいとまがなく、海外を軸に更なる市場成長が期待できる。

日本のアニメ産業に忍び寄る危機

一方、国内に目を移すと明るいニュースばかりではない実態が浮き彫りになる。2015年の国内市場規模は、狭義で1,700億円、広義で1.2兆円と両者に大きな乖離がみられる。

前者はアニメ制作に関わる企業の売上総額で、後者は一般消費者がアニメ関連で消費した総額だ。これほどの大差がつく理由は、莫大な収益を生む二次流通ビジネスにクリエイターであるアニメ制作者が関われていない実情がある。

TVアニメ新世紀エヴァンゲリオンの大ヒットが起爆剤となって広く浸透した製作委員会方式が1つの要因と言われており、制作コンテンツの利権に絡めるのは、二次流通ビジネスを主力とする玩具メーカーや出版社、広告代理店などの出資者が中心となっている。

アニメ制作に関わるクリエイターは、下請けとしての委託料しか得られず、文化庁が実施した「アニメーション制作者実態調査報告書2019」によると、制作会社の経営者や監督も含めた年間収入の中央値が370万円と薄給だ。

就業形態も特殊で、正社員の14.7%、契約社員の6.0%に比べ、フリーランスの50.5%、自営業の19.1%が圧倒的に多い。このような状況も影響してか、全国平均に対して、持ち家率は約6割が35.1%、万一・老後の備えにおける生保・損保の加入は約8割が33.2%、株式や不動産投資は約2割が8.9%と非常に低く、金融サービスへのアクセスが十分ではないことが顕著だ。

これでは、アニメが好きで制作に携わりたい人や、才能のあるクリエイターが、安心して働ける、自分が思い描くライフプランを目指せる環境とは言えず、産業として有望な人材を呼び込むことが難しい。

一方、海外では、世界的なアニメブームの潮流も踏まえ、国策として力を入れる中国を筆頭に日本の座を虎視眈々と狙う国が出てきている。

例えば、中国では、政府が2004年から国産アニメ育成の目的で、海外作品のテレビ放映を3割未満とする規制を導入し、2008年にはゴールデンタイムでの海外アニメ放送を禁止、2013年には衛星チャンネルで毎日30分以上の中国アニメ放送を義務付ける政策を展開している。

また、中国企業には、税制優遇や奨励金提供などを通じて国産の作品づくりを後押しするなど、国を挙げてアニメ産業の発展に力を入れている。最近では、日本の倍近い給料を提示する中国企業に日本の優秀なクリエイターが引き抜かれることや、日本の制作会社が国内の仕事だけでは経営が苦しいことから中国企業のアニメ制作を下請けするケースが出てきている。

その結果もあってか、月間1,800万人以上が利用する世界最大級のアニメ・マンガデータベースのMyAnimeListにおいて、中国アニメ「時光代理人」がユーザーによる平均評点が8.83、19,000以上ある登録アニメ作品の中で25位というトップクラスの座を獲得するなど存在感を増している。

このような状況も踏まえ、アニプレックスを抱えるSONYも急拡大する市場の取り込みに力を入れている。2019年の現地法人設立に始まり、2020年4月には、月間利用ユーザー(MAU)が約2億人、課金ユーザーが約1,800万人と巨大な顧客基盤を抱えており、日本アニメの配信権購入も行っている中国の動画配信サービスbilibili(ビリビリ)に約430億円の出資をするなど、中国でのアニメ事業拡大に本腰を入れている。

これらの動きが中国のアニメ産業を更に発展させることは言うまでもない。

アニメ産業の進化をもたらす金融の可能性

製作委員会方式やフリーランス中心の雇用形態が一因となって顕在化している「制作関係者の生活水準向上」の課題解消に向けては、「資本家依存モデルからの脱却」や、「戦略的なコンテンツIPの育成・運用」が1つの方向性となりうる。

今回は、具体例として、NFTを活用することで「ファンと共創するアニメ制作」や「二次利用ビジネスの拡大」を図る取り組み、信託スキームを活用することで「グローバルでの国産コンテンツIPビジネスの拡大」を目指す筆者のアイディアを紹介したい。

いずれも二次利用ビジネスから制作関係者が実利を得られるモデルへの転換に繋がるものだ。

NFT活用取り組み

(1)ファンと共創するアニメ制作|企画・資金調達~制作

昭和のアニメを彷彿させる新星ギャルバース。製作委員会方式とは異なる新たなアニメ制作に挑戦する2人の日本人女性アーティストが発足させたプロジェクトだ。

美少女戦士セーラームーンのような女性キャラクターの特徴的なデザインに加え、星母の爆発によって誕生した8,888個の女神の欠片がギャルとなり、星母の使命を果たすことで、いつか輝く新しい星になることを目指すというストーリー性や、NFTを活用したweb3コミュニティ型のプロジェクトということもあいまってグローバルで注目されている。

世界最大のNFTマーケットプレイスOpenSeaにおいて、2022年4月14日に世界オールカテゴリーで1位を獲得し、販売開始から数日で約18億円相当の取引総量に達する成果をあげたことで多くの反響を呼んだ。

このプロジェクトの特筆すべき点は、資金調達と制作方法の刷新にある。資金調達に関しては、公式サイトで販売した8,888種類のキャラクターデザインNFTコレクションの売上と、NFTによって可能となる二次流通取引額から制作者が得られる取り分で賄うと想定される。

また、制作方法は、NFTホルダーのみが参加できるコミュニティを通じて、アニメ制作の方向性を話し合って決めるという斬新なものだ。従来の製作委員会方式では、出資者のリクープ計画(投資回収計画)の影響を受けざるを得ず、二次流通ビジネスを見越した制作予算の決定や、内容に関する要求が制作会社の悩みの種であったが、それらとは無縁の状態ともいえる。

投機目的でNFTを購入するユーザーが多い中、「We’re gonna make an anime…together! (一緒にアニメを作ろう!)」 の掛け声と共に、NFTをアニメ制作に関与できるコミュニティへの参加権として位置づけ、限定アートやテーマソングなどの特典も付けることで長期保有するインセンティブを作り、目指す世界観の実現に向けた“同志”としての関わりを促している点も秀逸だ。

これまでもコンテンツ信託などの機関投資家などから資金調達する試みはあったが、製作委員会方式では資金調達が難しい無名クリエイターを中心に支援する構図となりがちで、投資の色合いが強く、作品の目利き力も不足するなか、利益を生み出すことが難しい課題に直面していた。

本取り組みは、投資よりもアニメのストーリー企画やイラスト、志のある制作チームの応援を主眼としたファンから資金を調達し、共にコンテンツを育む状態を築けている点がこれまでとは一線を画している。

アニメ制作を資本家主導から、制作者とファンが共創するものに変える野心的な取り組みであることに加え、資本主義の新たなあり方を追求する側面も感じられるため、筆者としては非常に注目している。

(2)二次利用ビジネスを拡大|ライセンス管理~二次利用

2022年3月2日、ブロックチェーンゲームやNFT、メタバースなどを幅広く手掛ける香港のアニモカブランズと三菱UFJ銀行が協業し、NFTなどのデジタル資産事業に参入するニュースが話題を呼んだ。

グローバルで通用する日本のアニメ作品やキャラクターなどの有力IP(知的財産)を持つ企業や団体のNFTを発行し、ゲームのアイテムやメタバースのアバターへの活用を想定して海外での販売を支援する狙いだ。

三菱UFJ銀行としては、これまで培ってきた金融機関としてのノウハウを活かし、NFT売買時の本人確認や、デジタル資産を安全に保管するなどの業務提供も視野に入れているようだ。

昨今、巷を賑わせているメタバースは、「場」そのものの魅力を訴求するための特徴が必要なことや、自己表現としてアバターに着せるスキン等の観点から、エンタメコンテンツと相性が良いと言われている。肌感はあると思うが、日本はグローバルで戦えるエンタメコンテンツを数多く有している。

アメリカの金融会社TITLEMAXが発表した全世界で人気のキャラクター総収益ランキングでは、1位がポケモン、2位がハローキティと、ミッキーマウスやスターウォーズ等のディズニー作品を上回っていることに加え、Top 25の中に日本のキャラクターが10個もランクインしており、グローバルにおける国産IPの強さを物語っている。

メタバースの詳細については、【連載】金融×新潮流① メタバース社会がもたらす金融の可能性に説明を譲るが、仮想世界が普及するにつれて、有力な国産IPを活用できる機会が格段に広がる可能性がある。また、リアル世界においてもNFT×アニメをフックに聖地巡礼をきっかけとした観光誘致や地域創生を目指す考えもあり、こちらの詳細は【連載】金融×新潮流③ 日本のインバウンド観光の発展に向けた金融の役割と最新トレンドを参照されたい。

いずれにしても国産IPのNFT発行によって、国内外、リアル・仮想世界とアニメコンテンツにおける二次流通ビジネスのすそ野が広がると期待されている。

信託スキーム活用アイディア

日本アニメ産業の発展を牽引する海外市場の更なる取り込みに向けては、韓国エンタメがグローバルで成功した要因の1つとも言われる権利関係の問題にも取り組む必要がある。

コンテンツビジネスは、ディズニーのように垂直統合型で事業を展開し、IPをシンプル化して、自社で一元管理できるようにすることがグローバルで成功するための定石となりつつある。しかしながら、資本力が必要なため、中小の制作会社が多い日本においては、SONYグループのアニプレックスなど一部に留まるのが現状だ。

裏を返せば、中小の制作会社が多い日本の業界構造において、当たり外れのあるアニメ制作のリスクを分散するうえで、製作委員会方式が上手く機能してきたともいえる。それがゆえに発生する出資者間での二次利用ビジネスに関わる各種権利の分かち合いや、制作過程で権利関係を明確化して関係者から事前に同意を得ておく業界慣習がなかったこともあり、複雑な権利関係となりがちな国産コンテンツはグローバル展開がしづらい状況にある。

アニプレックスなどの大手とは異なり、中小制作会社が自らIP管理・運用まで担うことは現実的でないが、この状況を打開するうえで信託スキームが1つの活路になるかもしれない。

単なる信託機能の提供にとどまらず、グローバルで受け入れられやすい原作の目利きやIP管理・運用に長けた人材やノウハウの獲得、電子コミックサイトのwebtoon等を通じて得られるユーザーの反応データを元に科学的にアニメ化の成功確度を検証できるような仕組みや、IPの一元管理化による全体収支の可視化・投資家への開示環境などを整備できれば、以前のコンテンツ信託が直面した課題を乗り越えられるかもしれず、NFTとは異なる視点から日本アニメのグローバル展開を加速させることができるかもしれないと期待を寄せている。

中小制作会社が多い日本の産業構造において、グローバルで成功するアニメを増やし、制作関係者が二次流通含めたビジネスから実利を得られるモデルに転換するうえでは、過去の課題も踏まえた新たな信託スキームの在り方を模索する価値もあるのではないだろうか。

NFTをフックとした取り組みや、信託スキーム活用による中小制作会社のコンテンツIP育成・運用を支える環境整備によって、日本アニメの市場が海外で更に拡大する可能性に関して言及してきたが、これらの取り組みは、二次流通市場から制作関係者が実利を得られる構造転換も促せるものだ。

その結果、国内外から多様な資金や人材を惹きつける流れが生まれ、製作委員会への依存体質からの脱却や、国際標準の雇用・賃金形態シフトへの機運醸成などを呼び起こし、産業としての魅力度が向上することで、グローバルで輝く新たなIPが生まれる好循環を創り出すことが期待できる。

最後に

海外市場が急拡大しているアニメを中心に、日本のエンタメコンテンツは、グローバルでまだまだ伸びしろがある。その果実を得るためには、足許で盛り上がりを見せるSNS中心のファンを基軸とした拡がりに加え、中長期で期待されているメタバースやNFTなどが生み出す新たな経済圏の潮流を捉えることも重要だ。

そのうえで、エンタメコンテンツ産業が抱える課題に向き合い、制作関係者、ファン、関連事業者が三方良しとなるモデルへの進化に向けた挑戦が不可欠であり、金融を切り口とした取り組みが一筋の光明になるのではないかと期待している。

Future of Finance|ストラテジー|デロイト トーマツ グループ|Deloitte


[寄稿]三由 優一
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ストラテジーユニット/モニター デロイト シニアマネジャー

大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。金融機関に対する中長期戦略策定・新規事業立案・全社デジタル改革プラン策定・M&Aのほか、異業種に対する金融事業参入構想策定・Fintechビジネス企画・決済事業立上・海外展開プラン策定等の支援経験に富む。現在は、Future of Financeオファリングチームをリードしており、脱炭素を軸とした社会・地域課題解決やweb3やメタバース等による新たな金融の在り方やサービス検討にも取り組んでいる。