この記事は2022年8月29日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「日本カーバイド工業【4064・プライム】80年超の歴史を持つ総合化学メーカー 構造改革から持続的成長のフェーズに転換」を一部編集し、転載したものです。


日本カーバイド工業は、近代化学工業の発展に欠かせないカーバイド(*1)を原料に創業した総合化学メーカーだ。コア技術である「樹脂重合技術」「フィルム・シート技術」「セラミック焼成技術」を軸に技術を融合させることで、最先端の電子機器から自動車・交通関連、化粧品、医薬、農業まで幅広い製品・サービスに採用されている。

業績面ではバブル時代の投資負担で大きな損失を出すこととなったが、徹底した構造改革の結果、現在は回復。2020年に就任した杉山孝久社長の下、新たな成長ストーリーの実現に取り組んでいる。

▼杉山 孝久社長

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(画像=株主手帳)

グローバルトップ製品を数々提供

同社は1935年、カーバイドを原料とするアセチレン誘導工業の「有機合成技術」を基にスタート。時代や社会のニーズとともに事業の再構築を行い、現在はコア技術の「樹脂重合技術」「フィルム・シート技術」などの高い技術を融合させて、様々な製品に採用されている。

セグメントは大きく4つに分かれる。主力の「電子・機能製品」は、ファインケミカル製品や医薬品原薬などの機能化学品、粘・接着剤などの機能樹脂、半導体用金型クリーニング材、セラミック基板などの電子素材の製造・販売。「フィルム・シート製品」はマーキングフィルムや車体装飾に使われるステッカー、再帰反射シートなど。「建材関連」はビル・住宅用アルミ建材や内装建材用プラスチック押出製品など。「エンジニアリング」は鉄鋼・化学・環境分野の産業プラントの設計・施工などを行う。

同社は代替のない、高い市場シェアを持つ製品を多く有する。例えば、電子素材のセラミック基板は、先端品では薄さ0.07ミリにもなる薄板基板や多連基板といった高付加価値品で約80%のシェア。また半導体生産工程で使用され、金型の樹脂汚れを除去するメラミン樹脂製のクリーニング材(ニカレットECR)も世界トップクラスだ。

「金型のクリーニング材はメラミン系とラバー系があり、前者が6割、後者が4割を占めています。当社はメラミン系が強く、その9割程度の市場シェアを持っています」(杉山孝久社長)

2022年の3月期の連結売上高は、前期比11.3%増の470億300万円、営業利益は同33.7%増の31億9,200万円。売上構成では、電子・機能製品事業42.3%、フィルム・シート製品事業 33.4%、建材関連事業15.5%、エンジニアリング事業8.8%となっている。

積極投資で
成長戦略を加速

創業時、カーバイド産業は化学工業の最先端だったが、1960年代には石油化学工業にとって代われ、需要は減少。同社は多角化を目指し、積極投資を行った。トップラインは増加したが利益は伸び悩み、バブル崩壊時には投資負担が大きな損失に。以降、構造改革、不採算事業からの撤退など、事業の“選択と集中”が最優先となった。

また同社の製品群は広範囲で、顧客は4,000社に及ぶ。そのうち約150社で売上の7割を占めるが、トップシェア数社でも売上比率は5%程度。そうした幅広い顧客層がいることは大きな強みである一方、顧客のオーダーに応えることが目的化し、利益が出にくい組織風土ともなりやすい。

2020年に就任した杉山社長は、事業の“成長性”や“収益性”を重視。明確な数値目標を示し、そこから逆算する未来志向の計画を策定した。

「今回の中期経営計画では、現在32億円の営業利益を2025年度に70億円までにする高い目標を立てました。これは全事業部に他社との競争に「勝てる目標」を出させた数字の積み上げから、さらに“確実な数値”に絞ったもの。決して実現不可能な数字ではありません」(同氏)

さらに現在は「電子・機能製品」が営業利益の8割超を占めているが、「フィルム・シート製品」を第2の収益の柱とするべく、戦略的投資を実施している。前中期経営計画で平均24億円だった年間投資額は、現中計期間では平均48億円、更新を除いた戦略市場への投資は3年で110億円に上る。

成長よりもコスト削減を優先する構造改革モードから、収益力強化、事業拡大のフェーズに舵が切られた。

▼「電子機能製品」では機能化学品からセラミック基板など幅広く扱う

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▼第2の柱を目指す「フィルム・シート製品」は自動車用塗料の代替としても使用される

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*1:カーバイドは炭素と金属元素の化合物(化学式 CaC₂)。石灰岩から得られる生石灰とコークス(炭素)を高温で熱して生成する。カーバイド産業は、戦前は石灰窒素肥料等、戦後は塩化ビニル樹脂、メラミン、その他有機合成群を製造し成長した。


2022年3月期 連結業績

売上高470億300万円前期比 11.3%増
営業利益31億9,200万円同 33.7%増
経常利益40億5,500万円同 42.2%増
当期純利益19億3,000万円同 19.8%減

2023年3月期 連結業績予想

売上高520億円前期比 10.6%増
営業利益34億円同 6.5%増
経常利益34億円同 16.2%減
当期純利益20億円同 3.6%増

*株主手帳9月号発売日時点

杉山 孝久社長
Profile◉杉山 孝久(すぎやま・たかひさ)社長
1959年11月、群馬県生まれ。千葉大学工学部卒業後、1982年4月旭硝子(現AGC)入社。エレクトロニクス&エネルギー事業本部光部品事業部長、執行役員電子カンパニー電子部材事業本部長等を歴任。2020年3月、日本カーバイド工業顧問就任、2020年6月、代表取締役社長社長執行役員に就任(現任)。