本記事は、清水康裕氏の著書『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
従業員が自走すれば経営者としての仕事に専念できる
経営者としての自分の時間を確保できているか
エンゲージマネジメントで得られる経営者への恩恵はさまざまですが、中でも最も大きいのが、経営者としての時間を確保できることです。
エンゲージマネジメントが浸透することで、経営者は従業員に事細かく指示を出す必要がなくなり、絶えず監視する状況から脱却できます。
そうすることで経営者は、本来の仕事である事業計画の検討や、経営判断に費やす時間を増やすことができます。従業員が自ら考えて自発的に動くことで、経営者は経営者にしかできない仕事に専念できるのです。
しかし、経営者の多くは、自分自身が現場に入り込みすぎて、自分にしかできない事業計画の見直しやマネジメントの仕事がおろそかになっています。
もちろん、現場を放任し、担当者任せになっている場合も同じように経営者の仕事を放棄している状態です。
もし心当たりがあれば、経営者としての職務を今一度洗い直して、そのための時間を捻出できているか、自分の時間の使い方を確認してみてください。
従業員が仕事を楽しめる環境を整える
エンゲージマネジメントが浸透することで、従業員は自分で考え、その考えを発信するようになります。すると、仕事に対する責任感が生まれ、仕事にやりがいを見出すことができ、仕事が楽しくなります。
仕事を任されて楽しいという状態は、社会の役に立ちたい、会社に貢献したい、経営者に一目置かれたいとった、従業員の承認欲求を満たすことに繋がります。
それがさらに進むと、従業員は自らの意思でさまざまな企画を立案し、職場改善を提案するようになります。より貢献度を高めることで、自己実現を望むようになるのです。
この考え方はマズローの欲求5段階説として法則化されています。
マズローの欲求5段階説を簡単に説明します。
この法則は、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階として捉えます。
これら5つの欲求にはピラミッド型の序列があり、下層の欲求が満たされると、上の階層の欲求を持つようになる、というものです。
エンゲージマネジメントを実現すると、従業員は自然と、「承認欲求」「自己実現の欲求」という、上層レベルの欲求に向かうことができます。
この考え方はどのような現場にも当てはまります。
企画部や経理部のようにデスクワーク中心の現場、工場で大量の製品を製造する現場も同様の効果が期待できます。
コンビニのお弁当製造工程の目的
生産現場のエンゲージマネジメントとして、コンビニのお弁当製造を考えてみます。
コンビニのお弁当は、だれもが一度は手にしたことがある商品だと思います。その特徴は、同じ値段で、同じ味を安定的に再現し続けることです。
材料や容器の調達、お弁当の製造、売り場への搬入、廃棄ロスの低減まで、一連の作業工程がつながって成立しています。
そこには、「消費者においしいお弁当を提供する」という共通の目的がありますが、それに加えて製造業としての目的があります。
製造業の目的とは、作業効率を向上すること、歩留まりを高めることで、原価を抑えることです。
売上の最大化、利益の確保、廃棄ロスの極小化を実現するためには、最適な仕入れ先の確保、食材の効率的な活用、天候や季節に左右されない味(品質)の再現、最短時間での店頭への陳列に向けた配送ルートの確保など、さまざまな検討要素を組み合わせて検討する必要があります。
現場のコミュニケーションによる組織活性化
私は、以前、お弁当の製造工程を担う企業に訪問したことがあります。
その企業は、若手、中堅、ベテランがバランスよく配属されており、とても安心感のある組織という印象を持ちました。また、調達部門、生産部門、品質管理部門がそれぞれの作業をきっちりとこなしていました。
ただ、1点不足するものがありました。
部門間でのコミュニケーションがほとんど無い状態だったのです。
作業の引継ぎに必要な要件は伝えますが、それ以上のことは踏み込まないという様子でした。
個別にインタビューすると、従業員はそれぞれの作業に対して、「もっと利益を上げるためにできることは何か」いう問題意識を持っていました。
しかし、それを従業員が発信する機会や時間が無く、新しい施策や改善策は、管理職のみで話がついているという状況でした。
そこで、部門の垣根をなくし、年次関係なく仕事の在り方を議論してもらうことにしました。
各部門がどのような仕事をしているのかを理解し合い、そのうえで、部門から部門への課題認識を話し合ってもらったのです。
品質管理部門から調理部門に対する作業予定の共有、生産部門から調達部門に対しり入荷予定数量の早期提示などが課題として挙がり、自部門に留まらず、自社として良い仕事をしようという機運が生まれました。
些細なことをきっかけに組織は急成長する
このような意識が生まれると、上司に問題提起して組織間の調整をするという部門間の動きが活性化し、従業員のやる気が高まります。
さらに発展すれば、分業している会社間の改善提案に繋がっていくことでしょう。
エンゲージマネジメントを通じてどのようにしたら職場を活性化させられるか、埋没している意見を掘り起こすことができるかが重要です。
組織間で作られてしまった意識の垣根を取り払い、さまざまな意見を出し合うことが、会社への貢献につながるという感覚がわかると、組織は一気に成長します。健全な情報交換が、組織を活性化させる良い例だったと思います。
このように、業種や業務の「固定観念」に捕らわれることなく、自由に発想し、その意見の有効性を評価し、実現することが、エンゲージマネジメントの本質です。
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