本記事は、清水康裕氏の著書『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

「新しい働き方」が浸透した今こそ組織改革のチャンス

チャンス
(画像=Jo Panuwat D/stock.adobe.com)

コロナウイルスによる社会の変化

新型コロナウイルスが流行し始めた2020年から、人々の生活は大きく変化しています。

コロナ禍がもたらしたものは、ウィルスに対する不安、1年中マスクを着けての生活、外食に対する価値観の変化など多岐にわたり、世界中の人々の生活に大きな影響を与えました。

それに合わせて人々の「生活様式(ライフスタイル)」の変化とともに、人々の「仕事様式(ワークスタイル)」も変化しています。

ワークスタイルの変化の代表例が、テレワークやWEB会議の浸透ではないでしょうか。それまでは大企業が先導してきたデジタル化は、中小企業にも急速に普及しています。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)

また、通信回線の高速化やインフラの整備が急速に進んだことでテレワークの環境が整い、満員電車に乗って会社に通わなくなった人も多くなりました。

人が動かなくなった代わりに、情報やモノが動くようになりました。

コロナ禍以降、WEBを媒体として商品を購入するECサイトが急速に普及しています。

ECサイトは、ネット上に仮想店舗を構えて、受注を行うもので、amazonや楽天のようにさまざまな店舗が集合したショッピングモールだけでなく、店舗個別のショッピングサイトも存在します。

ショッピングサイトを立ち上げるためのツールやアプリが充実し、FacebookやInstagramなどのSNSでも商品を手軽に販売できるようになりました。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)

そして、このECサイトの普及により、注文された商品を「運ぶ仕事」が増加しています。

配送するための物流業、配送用商品を管理する倉庫業が盛況で、デベロッパーによる物流倉庫の建築が急増しています。

一方で、物流が活発になったことで問題も顕在化しています。トラック業界の人不足が深刻化しているのです。

この問題に対応するために、ドローンを利用した配送業務の実施検証や、自動運転車両による物流の効率化の検証など、さまざまな革新的な技術・サービスが試行されています。

食も大きく変化しています。コロナで出前(フードデリバリーサービス)が発達しました。

出前と言えば、従来はお寿司やお蕎麦を主にそのお店の人が運ぶ形式でした。それが、今ではデリバリーと名を変え、出前館やUber Eatsのような仲介業者が店、配達人、顧客をつないでいます。また、マクドナルドのように自前で配達網を築く企業もあります。

いずれにせよ、デリバリーは外食の1つの形態として人々の生活に定着しました。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)
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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)

このように今までの仕事の形態を変える企業のことをディスラプター(破壊的企業)と言います。

コロナによるパンデミックは、革新技術の活用や、ディスラプターによる仕事の多様化を生み出しました。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)

コロナに関しては、ダメージを受けている業界のことが大きく取り上げられますが、このようにこの状況を契機として大きく躍進し、我々の日常に定着しつつある業界もあります。

そう考えると、コロナが沈静化したとしても、おそらく社会は完全に元通りになるということはないと思われます。

従業員のエンゲージメントを高めることで社会の変化に対応できる

エンゲージマネジメントとは、従業員が会社に愛着を持ち、積極的に仕事に従事するという意味のエンゲージメントと、管理者による統制という意味のマネジメントを組み合わせた造語です。

エンゲージマネジメントを行うことで、従業員の意識を経営者・管理者の意識に近づけ、さまざまな情報発信を促します。その情報を収集、分析することで、時代や社会に適合した組織に自らが変わろうとする自走型組織を作ることを目的としています。

皆さまの仕事はコロナを契機にどのような変化を遂げているでしょうか? 仕事に対する価値観は、何時から何時まで働くという時間の管理から、計画したことを確実に実行するという成果の管理への変化が加速しています。時間ではなく成果を管理するということは、時間管理を個人に委ねるということです。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)

テレワークによる仕事の変化

時間管理から成果管理に切り替わると、ライフスタイルも変わります。

テレワークが可能な職種の場合、郊外に移り住んで自然を満喫しながら仕事をしたり、かつての移動時間を自己啓発に費やしたりと、時間の使い方を選択することが可能になりました。多くのベテラン従業員にとって、時間を最大限有効活用できるということは、とても魅力的だと思います。

その一方で、経営者・管理者からすると、時間を管理するような今までのマネジメントが通用しないことへの不安、従業員の主体性に任せて期待した成果がでるのかという不安、若手社員への指導が行き届かない不安など、デメリットを感じている方が多いのではないかと思います。

新たな勤務形態により、どのように組織を統率していくか、どのように組織のレベルアップを図るか、どのように若手社員を教育し、組織文化を継承していくか、今後模索しなければなりません。

若手社員の育成や組織のレベルアップは、本人の自主性に任せている、という企業が多いため、意識的に組織や人の意識を変えなければなりません。

中小企業の場合、最小人数で組織を構成していることもあり、ご自身も業務をしながら管理・監督者となっていることが多く、若手社員の成長は経験した場数で決まるという傾向にあります。

若手社員を直接指導する機会が少なくなる中、今後手探りで新たな組織づくりに取り組む必要があります。

テレワークができない仕事も大きく変化

テレワークが困難な業種・業態、例えば医療、物流のように日々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーと位置付けられる業種や、製造工場のように現場にいなければ仕事にならないという業種も変化しています。

医療機関においては、WEB予約やオンライン診療が当たり前になりつつあります。外来診療は、以前は受付して呼ばれるまで待合室で待機というのが当たり前でした。

インフルエンザが流行する冬や、花粉症が流行する春は、2時間、3時間待ちというのも日常でしたから、患者からするとこの時間を別のことに使えるというのは大きなメリットです。

私は医療機関の待ち時間が苦痛だったので、少々の風邪や体調不良は我慢していたのですが、現在は「体調が悪くなる前に医療機関に行く」という予防医療的な発想に変化しました。

物流業界は、消費者宅への小口配送が増えたことで、ラストワンマイルの課題と言ったりしますが、配送センターにまとめて荷物を運んだあとの個人宅への効率的な配送の技術革新に注力しています。

物流業界は、コロナによる物流の増加だけでなく、長距離トラック運転手の高齢化や、働き方改革への対応も相まって、多くの課題に直面しています。

製造工場は、もともと、人手不足、後継者不在が問題視されている業界です。その中でも特に大きな要素は、親会社や得意先の動向です。

大口顧客を持っていると、売上は安定するのですが、発注元の意向によって自社の命運が決まってしまうというリスクも抱えます。

発注元がコロナにより競争力を失うと、たちまち自社の売上に影響してしまいます。市場の変化を的確に捉え、自ら企画提案し、多くの顧客を持つことが事業を安定化するために必要です。

変化はピンチにもチャンスにもなる

このように、どのような業務業態であっても、社会の変化にしなやかに対応することが必要となります。

今回のパンデミックのように、同時期に業種・業態を問わず変化を求める社会情勢は今後も発生し得ます。

ウクライナ情勢や円安による影響、今後想定される災害も変化を必要とする社会の変化です。

現状維持を望むなら、社会の変化は絶体絶命のピンチとなりかねませんが、さらなる発展を望むなら絶好の機会と捉えることもできます。

改革というのは平時には実施しづらいものです。例えば、働き方改革や時差出勤は、コロナ以前から提唱されていましたが、なかなか浸透しませんでした。

おそらく、差し迫った危機が無かったためだと思います。

平時にわざわざ、やらなくても何とかなることを改変するのはとても困難な作業となります。

では、パンデミックでもない状況で改変するためにどのような対応をしているかというと、システム刷新を契機に組織の在り方を見直す、あるいは、コンサルタントを雇ってプロジェクトを立ち上げるといった対応で、「変革しなければならない状況を作る」というのが一般的です。

今は社会情勢が大きく様変わりしており、業種・業態や規模にかかわらず、すべての企業が変わらなければならない状況です。

この大転換期を会社が変わるチャンスと捉え、積極的に会社や組織を強くするきっかけとすることが求められています。

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(画像=『エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方』より)
エンゲージマネジメント 本当に愛される職場のつくり方
清水康裕(しみず・やすひろ)
中小企業診断士。株式会社ワイズリッジ代表。大学で経営工学を専攻後、EYアドバイザリーアンドコンサルティングに就職。シンクタンク、外資系コンサルティングファームにて100件以上の業務改革プロジェクトに従事。独立後は中小企業診断士として、年間50社以上の企業のコンサルティング・企業研修を実施。従業員が自ら考え、自ら答えを出す自走型組織への改善を支援している。

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