本記事は、澤上篤人氏の著書『暴落相場とインフレ 本番はこれからだ』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

金融商品から離れよう

売る
(画像=kromkrathog/stock.adobe.com)

インフレと金利上昇の波が押し寄せてきている。金融緩和バブルの崩壊は、もう時間の問題である。といっても、それがいつはじまるかは、神のみぞ知るところ。

もし、まだ金融マーケットが崩れずにモタモタしていてくれるなら、それはありがたい。

大崩れしはじめる前に、ほとんどすべての金融商品は、片っ端から売ってしまおう。残しておくのは、長期投資で株式保有している投資勘定だけだ

とにかく、この金融緩和バブルから離れてしまうのだ。カネ余りバブルに乗ってきた株式はもちろんのこと、すべての債券、すべての金融商品も売れるうちに売っておこう。それも、一刻も早くにだ。

暴落がはじまったらわかる。おそろしい量の売りものが殺到して、どの金融商品もまったく値段がつかないまま、価格だけがつるべ落としに下がっていく。

その時になって、早く売っておけば良かったと後悔しても遅い。バブルがはじけてしまったら、マーケットは売り逃げと、現金化を急ぐ投げ売りの修羅場と化す。もはや誰もなにもできない。

売っておくのは不動産も同様である。ゼロ金利の上に、資金はいくらでも貸してくれるということで、不動産ビジネス全般にバブル買いが進んでいた。

そのあたりにも、カネ余りバブルがはじければ売りものが殺到しよう。その前に撤退しておくに限る。

もし変動金利の住宅ローンを抱えているのなら、迷わず固定金利のものに切り換えておこう。変動金利よりも毎月の支払い額は増加するが、ここで金利コストを固定してしまえば、先々の金利高局面ですばらしく価値が出てくる。

売れ売っておけと主張するが、金融緩和バブルの崩壊は、そんなに深刻なものとなるのか? リーマン・ショックの時のように、先進国の政府や中央銀行が強力な対策を打ってくるのでは?

もう、無理だ! 国も中央銀行も、今回はなにも対策を打ちだせない。なにしろ、インフレ圧力で金利が上昇してきているのだ。

マーケットの暴落を抑えようと、さらなる金融緩和をしようにも、金利上昇に阻まれる。緊急の景気対策予算をと言ったところで、国債発行もままならない

中央銀行も保有国債などの値下がりで、債務超過の危機に直面している。下手にムリを重ねると、インフレとさらなる金利上昇を煽るばかりとなる。

資産の置き場所は?

ほとんどの金融商品は、きれいさっぱり売っておけと書いた。だが、売った後の資金の置き場所も、しっかり考えておこう。そう、売却代金を銀行などに預けておくのは危険なのだ。

金融緩和バブルがはじけると、あちこちで想像もつかないほどの投資損失や評価損が発生する。また、銀行など金融機関も、これまた巨額の不良債権を抱えて身動きがとれなくなる。

場合によっては、銀行などの経営に黄色信号が灯ることにもなりかねない。そうなったら、預金などは資産性の資金ということで、毎月の生活に必要な額までといった払い戻し制限を受けることもあり得る。

日本の戦後、1946年から5年間、預金封鎖ということもあった。預金など資産性の資金は、「いますぐに、その全額は要らないでしょう。もちろん、毎月の生活費だけは引きだしていいですよ」といった扱いも、あり得る。

その点、株式投資やその売却代金は「決済性の資金」と位置づけられる。決済性の資金とは、いついかなる時でも、経済は動かさねばならない。経済を動かすにも絶対に必要な資金というわけだ。

そういうわけだから、株式や債券そしてあらゆる金融商品を売った代金は、そのまま証券会社に預けておこう。その資金は証券保管振替機構(ほふり)を通して、日証金信託銀行に信託財産として保管・管理される。

信託財産として預けておけば、払い戻し制限や預金封鎖とかの心配など無用。いつでも次の投資案件に投入できるし、お金の置き場所として最も安全である。

あるいは、長い実績のある長期保有型の投信を購入しておく。投信購入に振り向けた資産も、信託銀行が信託財産として保管・管理してくれるから、やはり安心安全である。

いざ暴落となったら

先ほども書いたように、金融緩和バブルに乗っていた株式・債券・金融商品は、いずれ大崩れとなる。いざ暴落がはじまったら、もう売れっこない。

えらい時間がかかって、ようやく売れたとなっても、資産はおそろしく目減りしてしまっている。それを、いまさら嘆いたり後悔したりしても遅い。

バブルが崩壊した後は、大きくやられてしまった資産も含めて、どう立て直していくかだ。個人の場合は、その人の覚悟次第ですぐにでも動きだせる。その点、機関投資家などは投資損の残骸に身動きがとれないままとなる。

ともあれ、読者の皆さんは生きている限り、自助努力を重ねていくしかない。そして、金融緩和バブル崩壊後の生活再建や、新たなる財産づくりに手をつけなければならない。

といっても、暴落後しばらくはインフレと金利上昇で、経済も社会も大混乱の渦中にある。したがって、いつどこでどう動きだせば良いのか、ちょっと方向が定まらないかもしれない。

ならば、われわれ本格派の長期投資家と一緒の行動をしようではないか。バブル崩壊で大やられしたかもしれないが、財産づくりに再出発だ。

まずは、人々の生活に身近な企業の株式を買うのだ。カネ余りバブル崩壊の暴落相場で買い出動するのだから、大バーゲンハンティングとなる35

35:長期投資家が買い出動する時は、「こんな暴落相場で買いにいっても、損させられるだけ。どう考えても儲かりそうにないのに」と誰もが思うような時だ。低迷相場や暴落局面で買いにいっても、とても儲かりそうにないと思えてくるもの。そのような時にひとり買いにいくから、安値で好きなだけ買い仕込みできるわけだ。

銘柄選別の基準は、生活者にとってなくなっては困ると思える企業だ。その中でも、金融緩和バブル時に、それほど大きく買われなかった銘柄のみ。言ってみれば、どちらかというと株式市場でも地味な存在だった企業の株式だ36

36:われわれ長期投資家が応援しようとする企業は、よく株式市場で大騒ぎされる高収益企業とか有望銘柄とかからは、ほど遠いところにある。利益の伸びは大したことなくても、地味な経営に徹している企業群の中から、応援企業を選び出す。株式市場で話題となっている企業は、それなりに買われていて株価も高くなっているケースが多い。一方、地味な企業の株価は万年低位に放置されている。そのおかげで、安値で買い仕込みもスムーズにできる。低位株が化ける時の醍醐味が、いつでも長期投資にとって最高の快感である。

生活者にとって大事な企業なら、バブルが崩壊しようと、インフレの嵐が吹き荒れようと、それなりに売上は確保しつつ、ビジネスを続けられる。つまり、潰れないから安心して買える。

もちろん、そういった企業の株式を買っておけば、インフレにも乗れてしまう。どんなにインフレが激しくなろうと、多くの人々が毎日の生活でその企業の製品やサービスを購入するのだから。したがって、株価もインフレに乗った動きとなる。

また、バブル時にやたら人気化して買われるといったことがなかった地味な企業の株式だ。バブル崩壊後の売りもそうは出てこない。つまり、安心して買える。

おもしろいことに、そういった企業の株式をバーゲンハンティングしておけば、案外と早い段階で株価のV字型回復の波に乗れるのだ。

株価のV字型回復

株式市場が大暴落した後、しばらくすると一部の企業の株価が、V字型の戻りと上昇に入っていく。経験則ながら、大暴落の後ほど、よく起こる現象である。

マネーというのは、実にしたたかなものである。大暴落に遭遇しても、すべてのマネーがやられるわけではない。多くのマネーが蒸発したように消え失せても、一部のマネーは生き残る。

生き残ったマネーは、早くも新しい儲け場所を求めはじめるのだ。その時、それほど派手にバブル買いされてこなかったこともあって、早い段階で売りが途切れる銘柄群が、恰好の狙い目となる。

すこし打診買いを入れてみると案の定、株価の反応はいいではないか。もう売りが途切れているから、暴落相場後の冷え切ったマーケットながら、株価は逆行高の気配をみせたがっている。

それを確認するや、生き残ったマネーはどこからか買いを入れてくる。そして、あっという間にV字型の株価上昇を示現させてしまうのだ。

そういった銘柄がひとつふたつと顔を出してくると、重苦しかった株式市場にも一条の光がさし込む。そして、まわりからもすこしずつ買いが集まってきて、バブル崩壊後とは思えぬような活況相場が、株式市場の一部で出現する。

そういった銘柄群は、もともと売りがそれほど出てこない。だから、意外と大きなV字型上昇相場となっていく。

もう、おわかりかな? われわれ長期投資家がバブル時でも保有を続ける株式も、暴落相場でバーゲンハンティングに出るのも、やはりこのあたりの銘柄群なのだ。

確固とした銘柄選別が功を奏して、バブル崩壊後の暴落相場を尻目に、結構ごきげんな投資をやってしまえるというわけ。

このあたり、われわれ筋金入りの長期投資家の真骨頂である。

すこし説明しておこう。われわれ長期投資家は、いつでも応援したい企業のリサーチを徹底的に進めておく。そして、なんらかの理由で株式市場が大きく下げたら、断固たる応援買いに入る37

37:本来の投資は、対象を厳選してはじめてリスクが取れるし、リターンも期待できるものなのだ。したがって、リスクをコントロールしてとか、リスクを分散してといった考えなど、はじめから存在しない。

長期保有している間に、株価が大きく噴き上がってきたら、にわか応援団が買ってきたから応援をしばらく彼らにまかせようと、売り上がっていって利益確定をする。

そんな中、バブル相場などでも、それほど株価が上がらない銘柄は、そのまま保有を続ける。なぜなら、その企業を応援しようと買ったのだから、バブル相場においても株価が低迷しているなら、応援を続けて当然である。

逆に、そういった地味な銘柄がバブル崩壊後のV字型の株価上昇で主役になったりもする。だから、長期投資はやめられない。

暴落相場とインフレ 本番はこれからだ
澤上篤人(さわかみ・あつと)
さわかみホールディングス代表取締役、さわかみ投信創業者。1971年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー。その後79年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。販売会社を介さない直販にこだわり、長期投資の志を共にできる顧客を対象に、長期保有型の本格派投信「さわかみファンド」を99年に設定した。同社の投信はこの1本のみで、純資産は約3,300億円、顧客数は11万7,000人を超え、日本における長期投資のパイオニアとして熱い支持を集めている。著書多数。『日経マネー』で2000年9月号から連載執筆中。

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