ダイバーシティ&インクルージョンの注意点や課題
ダイバーシティ&インクルージョンには、注意しておきたいリスクやデメリット、課題も潜んでいる。焦って導入すると新たな問題が生じてしまうので、導入の前には以下の点も確認しておこう。
導入自体が目的になりやすい
KPIを設定する影響で、ダイバーシティ&インクルージョンは手段ではなく目的にすり替わりやすい。消費者や投資家は分かりやすい数値を求めるかもしれないが、KPIにこだわり過ぎると本来の目的を見失ってしまう。
例えば、肉体労働が中心の現場において、女性やシニア人材の採用比率が下がることは当然である。このようなケースでKPIにこだわると、生産性や業務効率が著しくダウンするため、業績に悪影響が生じてしまうだろう。
ダイバーシティ&インクルージョンは、あくまで企業が理想の姿を目指すための手段である。特にKPIを設定して実施する際には、この点を強く意識しておきたい。
全従業員を対象にしなければならない
前述でも触れたように、ダイバーシティ&インクルージョンはいずれも個人にフォーカスした施策である。特定の層だけではなく、ひとり一人にメリットがなければ成功とは言えないため、全従業員を対象にしたプランを立てなければならない。
例えば、外国人労働者に対して日本語サポートを行う場合は、ほかの日本人スタッフの声にも耳を傾ける必要がある。残りのスタッフに不公平感が生まれないよう、外国人労働者とは異なる角度からのサポートが求められる。
混乱やハラスメントのリスクがある
ダイバーシティ&インクルージョンで特に注意したいのが、社内の混乱やハラスメントのリスクだ。具体的にどのようなトラブルが想定されるのか、いくつか例を紹介しよう。
○ダイバーシティ&インクルージョンのトラブル例
・一時的にチームワークが低下する
・評価が変わることで、不平不満をもつ従業員が増える
・パワーハラスメントなどのコミュニケーション障害
・新たな人材が目立つことで、差別や排他意識が助長される
上記のようなトラブルを防ぐには、ハラスメントに対する罰則などのルール整備や、業務遂行手順の周知などが必要になる。また、経営者がすべての決定に責任をもち、会社の在り方をうまく伝えることも重要だ。
環境が変われば新しい問題が生じるのは当然であるため、経営トップを中心として丁寧にトラブル対応することを心がけたい。
ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み事例
ダイバーシティ&インクルージョンの具体的なイメージをつかむために、ここからは参考になる事例を見ていこう。
【事例1】あらゆる女性が働きやすい環境づくり/日本アイ・ビー・エム
米IBMの子会社である日本アイ・ビー・エムは、1998年から女性活躍推進に取り組んでいる。「Japan Women's Council(JWC)」と呼ばれるプロジェクトでは、在宅勤務制度やフレックス短時間勤務制度など女性が働きやすい環境づくりが行われており、社内には保育所も設置された。
さらに、女性役員の登用やメンター制度など、女性のキャリアアップを支援する施策にも力を入れている。子育てに関わる従業員だけでなく、積極的な昇進を目指す女性もサポートしている点はぜひ参考にしたいポイントだろう。
【事例2】福利厚生やロードマップであらゆる人材をサポート/モルガン・スタンレー
世界的な金融グループのモルガン・スタンレーは、女性や障がい者などあらゆる人材を積極的にサポートしている。2020年にはコア・バリューとして「Commit to Diversity and Inclusion」を掲げ、社内外にダイバーシティ&インクルージョンへのこだわりを表明した。
さらに同社は福利厚生プログラムを通して、従業員だけではなくその家族も支援している。キャリア再開時のロードマップも整備されているため、育児や介護に関わる人材も安心して働き続けられる。
【事例3】文化・慣習に配慮した外国人向けの施策/CASIO
大手電機メーカーのCASIOは、外国籍従業員の活躍支援に力を入れている。宗教を意識した食堂メニューの調整や英語表記、母国に帰るための特別休暇など、文化・慣習の違いをフォローする施策を充実させている。
2014年からは正社員のグローバル比率を公開するなど、情報公開にも積極的だ。公式サイトでは成果が数値でまとめられているため、対外的なアピールにもつながっている。