本記事は、鹿子木 健氏の著書『投資で失敗する人 成功する人 ―― あなたの人生を貧しくする投資のウラ側』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています

投資で失敗する人 成功する人
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長期下落局面でも積立を続けられる精神力があるか

「長期、分散、積立」という言葉が独り歩きしています。これが正解であるかのように教えている人が多いと思います。

◆スタート時点からの投資環境に大きく左右される

長期投資が優れているのは、「長期的に上昇する局面」です。分散が優れているのは、リスクヘッジということと、見る眼があるときだけです。積立がワークするのは、長期的に上昇していく前提があるときだけです。

図表1は、日経平均株価の1981年から2021年までの年末終値のグラフです。1980年代後半からいわゆる「バブル経済」が過熱し、株価も大きく上昇していきました。1989年末には日経平均株価が史上最高値を記録しましたか、1991年からいわゆる「バブル崩壊」が始まったとされており、株価も急落していきました。

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仮に日経平均株価が年末の終値で史上最高値3万8,915円を記録した1989年12月から毎月同額積立を始めた場合、20年後の2009年12月になっても含み損のままです。含み益に転じるのは、アベノミクスが始まってからの2014年になってから。つまり、25年続けないと利益にならない、逆に損失で終わっているということです。

長期の積立投資は、20年とか30年継続することを前提に考えなければなりません。そうでなければ、利益にするのは難しいでしょう。

20代、30代の若い人が30年の積立投資をするのは意味があるかもしれませんが、50代、60代、70代の人は、30年の積立投資が必要かどうかそもそも疑問で、仮に積立したとしても、含み損のまま死亡してしまうことも想定しておく必要があります。

長期投資と積立投資を勧める人は、「株価が下がっても買い続けることが大事」と言います。私も長期&積立をしているならそう思います。

たしかに30年待てば、どんな積立投資でも利益になる、というのは上記のチャートだけを見るとそうなのかもしれません。

しかし現実には、次の2つの問題があります。

◆20~30年積立を続けられるリテラシー・精神力があるか?

1つ目は、そんなことをできる人が、実際にどれだけいるのかということです。

問題は、株価が10年も20年も下がり続けたり、低迷して上向かない局面で、投資をやめないで買い続けられるかどうか、ということです。

20~30年投資を続けたら最終的には利益になる可能性が高い、ということを頭で理解するだけでなく行動し続けられる人は、かなりの金融リテラシーのある人です。投資初心者や投資について理解していない人ではなく、ある程度の経験があり、投資を理解している人でしょう。

投資について無知な素人が、20年下がり続ける相場で買い続けることが可能でしょうか? 現実的にはとても難しいと思います。

一般に、書店にたくさん並んでいる長期積立投資の本、たとえば「毎月S&P500を買い続けるだけで億万長者」系の本がターゲットにしている読者は、投資上級者ではなくて投資初心者です。

初心者に向けて情報を出していながら、初心者が実行するのが難しいことを書いているのはなんともお粗末です。

しかも、そのような本は株価が長期低迷している時期に出しても売れません。出版社の出版企画会議にかけても決裁がおりないでしょう。本当は株価が低迷している時期にこそ、長期積立の優位性が際立つというのに。

◆給与収入も下がる景気低迷期に積立資金を捻出できるか?

2つ目は、株価は実体経済と連動しているという事実です。

長期間積立投資を継続するのは、自分です。当然のことながら、国が投資資金を肩代わりしてくれるわけではありません。

長期積立資金を毎月捻出していく必要があります。それも20~30年間です。

長期積立の手法を唱えている人の多くは、株価が上昇したり下落したりする単なるゲームのような観念上のものだと考えている節があります。

しかし株価は、企業の経済活動を反映する指標です。具体的に言うと、株価とは企業の純資産額を発行した株式の総数で割った数値であり、株価が上昇するときは企業の資産価値が上がっているとき、つまりその企業が将来長期間にわたって成長し続けること、儲けを出し続けることが期待されているということなのです。当然、株式市場における株価は需給(買い手と売り手)によって決まり、投機的な値動きをすることもありますが、長期的には企業の成長期待に織り込まれていきます。

株価上昇局面では消費が旺盛で景気がいいので、雇用も安定し、賃金も上昇しやすくなります。

しかし株価が下がり続ける時期はどうでしょう?

企業の業績が悪い、将来の展望が見通せないという実態を株価が織り込んでいきます。

株価が下がり続けるということは、ただ「株価」という数字が減っていくということではなくて、倒産する企業が増え、失業する人も増え、全体的に給与収入が減っていくということです。

他人ごとではありません。

もし、毎月積立投資している人が自分の職を失ったら? その人は積立投資を続けていくことができるでしょうか?

まずは食べていくこと、そして家賃や住宅ローン等の支払い、それに子供の教育費をなんとか工面していくことを優先し、それ以外は削っていくのではないでしょうか。

株価が低迷したときにこそ買え! というのは金持ちの論理であり、強者の論理です。

それをお金持ちではない普通の一般読者に向けて、初心者でも儲かる! などと煽って売っていることは罪深いと私は思います。

◆住宅購入も同じ理屈で難しくなる

ちなみに「住宅価格が暴落したときこそマイホームを買うチャンス!」というのも、同様の理屈で間違いです。

住宅価格が暴落する局面は金利が上昇したり、景気が長期低迷だったり、といった経済環境です。金利が高いときに住宅ローンを組めば返済総額が増えるため、住宅ローン審査が通りにくくなりますし、審査そのものも厳しくなります。

暴落したときに買えるのは、ローンを組む必要がなく、現金で買える富裕層だけでしょう。現金を含む資産を多く持っている富裕層は、担保の信用力もあるため、住宅ローンも通りやすいでしょうが、その必要もないでしょう。

投資で失敗する人 成功する人――あなたの人生を貧しくする投資のウラ側
鹿子木 健(かなこぎ・けん)
株式会社メデュ代表取締役。1974年熊本県生まれ。投資と金融を12年滞在した中国で事業の傍ら学んだ。個人・法人顧客の資産防衛を主軸に活動しているが、専門分野は中国経済、宗教哲学、成人教育、デリバティブ。障がい児・者支援福祉事業にも携わる。現在展開している事業は外国為替の投資助言、法人向けコンサルティング、投資家教育の一環としての鹿子木相場塾など。
登録番号は〔投資助言・代理業 近畿財務局長(金商)第409号〕。

著書に「初心者からプロまで一生使える FXチャート分析の教科書」(総合法令出版)、「常勝FX 99%の人が実践していない勝ちパターンのつくり方」(ぱる出版)など9冊がある。

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