本記事は、鹿子木 健氏の著書『投資で失敗する人 成功する人 ―― あなたの人生を貧しくする投資のウラ側』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています
インフレだから投資しないといけない? インフレでも慌てて始める必要はない
インフレは通貨供給量を増やし産業を興す
日本は長らくデフレの国だと言われていたのに、いつのまにかインフレが進んでいます。
米欧先進諸国ではコロナ禍における経済対策として、軒並みゼロ金利政策をとっていましたが、インフレの懸念がはっきりと出てきたことから、2021年12月にまず英国が政策金利の利上げに転換しました。続いて11月から「量的金融緩和の縮小」を開始した米国も、2022年3月から利上げに転じています(2022年7月時点/2.25〜2.5%)
◆日本でも確実に進むインフレの波
日本でもガソリン価格や原材料費を中心に物価の高騰がみられており、「原油などエネルギー価格が上がっているだけだ、日本はまだデフレだ」と言い張っている一部の経済評論家たちの思惑とは裏腹に、確実にインフレが進んでいます。たとえば不動産価格。住宅地や戸建て住宅の値上がりはほとんどありませんが、マンション価格の高騰はすでに10年続いています(図表7)。
2010年を基準に考えると、2021年までに160%超え、つまり1.6倍になっています。5,000万円で買えていたマンションが、8,000万円出さなければ買えなくなっている計算です。
これには低金利が影響しています。低金利によって利息分が圧縮され支払総額が大きく下がるので、その分高い物件の住宅ローンが通りやすくなります。同じ年収であっても、相対的に高いマンションの購入が可能になっています。2022年8月現在の住宅ローン金利は、変動金利で最低0.3%台から、固定金利で1.1%台からです。
年収800万円の人が購入可能な住宅価格を金利別に見ていくと、金利1%で7,085万円、2%で6,037万円、3%で5,196万円、そして5%で3,962万円と下がります(年収に対する返済負担率はフラット35の年収400万円未満の基準である30%、融資率は頭金なしの100%で計算)。
10%の場合は2,326万円と、1%の3分の1以下の価格のマンションしか買えません。これほど金利の影響が大きいのです(図表8)。
仮に全期間0.3%ならば、7,973万円のマンションが購入可能です。低金利下においては、住宅ローンを使ってより高いマンションを買うことができるようになります。
◆よいインフレと悪いインフレ
改めて「インフレ」とは、物価が上がることです。裏を返せばお金の価値が下がることを意味します。お金の価値が下がるのはネガティブな要因のように感じる人もいるかもしれませんが、資本主義経済においては、「適度に」物価が上昇し、お金の価値が下がっていくのはとても大事なのです。
お金の価値が少しずつ下がっていくのがわかっていると、お金を貯め込んで置いておくのが損だと思うようになります。
だから消費に使うか、使わなくても投資に回すか、という行動を促す。消費が活発になっても景気がよくなり、企業に投資資金が流れても景気がよくなります。
景気が上向けば所得も上がり、所得が上がれば消費や投資の意欲がさらに旺盛になります。これが「よいインフレ」と言われるものです。
一方で、インフレになっても企業が原材料費などの高騰分を価格に転嫁できず、給与収入が上がらない、生活もよくならないのが「悪いインフレ」と言われるものです。これがさらに進んで、景気が後退する中でインフレが進行する、そんな現象を「スタグフレーション」と言います。最悪の経済状態と言えます。
すべてのインフレはよいものとは言えないものの、資本主義経済である限りは、物価が下落しお金の価値が上がる「デフレ」より、インフレのほうが「まし」なのです。
◆「インフレだから投資」では短絡にすぎる
インフレが顕著になると、銀行預金は資産価値が目減りするので株に投資したほうがよい、投資信託を買ったほうがよい、という議論になります。
でもちょっとお待ちください。
「インフレで物価が上がるからさあ投資だ!」と、安易に投資に手を出してしまうのは危険です。多くの人が「投資をしよう」と思ったところが天井で、暴落が起こるのが相場の常です。
インフレだから株を買う、不動産を買う。それは理解できます。
しかし一度立ち止まって考えてみてください。インフレになれば世の中に流通するお金の量が増えるので、そのお金を消化しようと色々な産業にお金が回っていきます。そこに新たなビジネスチャンスも生まれ、雇用も生まれます。
必ずしも投資でなくても、お金を儲ける方法はあるわけです。
他の人がやっているから自分もやる?同じ失敗を繰り返すだけ
煽られて投資を始めてもロクなことにはならない
日本人は、他の人がやっていると安心する特性がどうもあるようです。誰もやっていないと不安になり、他の人もやっていると安心する。これは投資では失敗する「大衆心理」です。
以前、テレビでみのもんたさんが紹介したという理由で、スーパーの納豆やココアに人が殺到したことがありましたが、それくらいならまだよいです。でも投資で「他の人もやっているから」と、「右にならえ」で動く人がうまくいくことはないでしょう。
◆需要と供給で価格が動く仕組み
投資には、先行者利益を得るという要素も含まれます。まだ実践している人が少数派だからこそ、儲けのチャンスがあります。
これは相場が動く仕組みに大きく関係しています。相場の素人が思い違いをしやすいこととして、「みなが買うと上昇し、みなが売ると下落する」という考え方があります。
しかし、事実はこれと反対です。みなが買うと下落し、みなが売ると上昇するのが相場です。
このことには説明が必要でしょう。相場(=市場)は需要と供給から成り立っています。
これは資本主義経済の原理の1つです。
需要とはそれを欲している人、供給とはそれを提供している人のことです。一般的に、市場とは1対1のことではなく、多数対多数のことを指します。
欲しがっている人たちがたくさんいて、提供している人たちがたくさんいる。全体として、欲しがっている人と提供している人のどちらが多いのか、という話です。
コロナ禍の初期に不織布マスクが品薄になり、何倍にも高騰したのは記憶に新しいところです。マスクが欲しい人は多い一方、お店は十分に提供できない。つまり需要は多いが供給が足りない状態です。
欲しい人がたくさんいるので、少々高くても買ってくれます。モノが足りないから奪い合いになります。他の人より少しでも高くお金を払った人がそれを手に入れる。
もしもマスクを買いたいと思う人たちが一人残らずマスクを買えたなら、「マスク市場」は値上がりするでしょうか、それとも値下がりするでしょうか。
消耗品なのでリピート購入も考慮に入れる必要があるものの、買うべき人が全員買ったなら、それ以上買う人がいなくなるので、価格は下がります(図表9)。
◆投資における売買も同じこと
これを投資に当てはめてみましょう。
投資熱が盛り上がって、みなが株を買いに走った。昔からの株式投資家だけでなく、普通のサラリーマンや主婦、それに学生まで、しまいには「株なんてギャンブルだ」と言っていた会社の同僚や近所のお年寄りまで買っている。
これはもう末期だということがわかります。第35代米大統領ジョン・F・ケネディの父親であるジョセフ・P・ケネディ氏が、ウォール街の靴磨きの少年が株の話をしているのを聞き、そのタイミングで売り逃げると直後に暴落した、という有名な話があります。
これは決して教訓話などではありません。需要と供給のことを言っています。猫も杓子も買い始めたら、もうその次に続く人が残っていないので需要が減って売れ残るため、値を下げるしかないのです。
ここでは、需要は「買い」、供給は「売り」です。買う人がいなくて、売りたいと思っている人だけなら値が下がるのは当たり前です。
だから「他の人がやっているから自分も」という行動は、わざわざババをつかむために投資をするようなものです。カモがネギを背負って市場に向かう、と言ったほうが日本人には理解しやすいかもしれません。
まさに、虹色の未来が見えてきたら天井、絶望の景色が見えてきたら大底です。
具体的に言えば、9割の人がこれから本格上昇だ!と思ったところが天井です。9割の人がもっと下がる!と思ったところが大底です。
◆自分が理解するまでは始めない
投資は大きなお金が動くので、最悪の場合は自己破産する可能性もあります。芸能人がやっているからよいものに違いない、有名人が紹介しているからきっと稼げるのだろう、などと考える人は例外なく成功しません。大きな損失を出して、「こんなはずではなかった」と後悔するのがオチです。
他の人がやっているから自分も…! この行動が身を滅ぼします。お金や投資に関しては、自分が理解していないことを、他人がしているからという理由だけで行ってはいけません。まず自分で理解することが先です。
他人を見て自分の行動を決めるという生き方は、自分で考えなくても済むので癖になります。
子供の頃からそうだったという人も、今その生き方を変えないと、「人と比べて不安になる」「他人の成功が羨ましくて行動する」というような人生が一生続くのです。
登録番号は〔投資助言・代理業 近畿財務局長(金商)第409号〕。
著書に「初心者からプロまで一生使える FXチャート分析の教科書」(総合法令出版)、「常勝FX 99%の人が実践していない勝ちパターンのつくり方」(ぱる出版)など9冊がある。
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