本記事は、鹿子木 健氏の著書『投資で失敗する人 成功する人 ―― あなたの人生を貧しくする投資のウラ側』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています

投資で失敗する人 成功する人
(画像=guy2men/stock.adobe.com)

投資を考える前に公的年金制度を最大限活用する

投資よりも年金が当然先です。投資を考える前に、まず公的年金についてしっかり学んでいただきたい。それが私の最大限の善意です。

公的年金について正しい知識を得ることは、保険会社や証券会社の利益とは相反します。なぜなら、公的年金を理解すれば、投資をする必要がそもそもなくなる人も出てくるからです。

◆公的年金の仕組みと実態を正しく理解する

年金の実態を大雑把にとらえておきましょう。

今後数十年、日本の年金政策は「マクロ経済スライド」というルールによってコントロールされていきます。

マクロ経済スライドとは、賃金や物価の改定率の調整に加え、現役世代である年金保険料の負担者が減って年金を受け取る世代である受給者が増えると、年金額がだんだん減っていく仕組みです。

絶対額としては増える可能性がありますが、そのときには物価も上昇するはずなので、相対的には受給額は減っていきます。そして、マクロ経済スライドだけでなく、今後は健康保険料の負担増、消費税の増税や所得税・住民税の増税もあるでしょう。「年金財政だけが健全であれば大丈夫」というものではなく、年金は日本全体の財政の一部分にすぎない、と考える必要があります。

今、「老後資金が平均2,000万円不足する」と言われても、その数字は現時点でのものであり、実際にそれが来たときの予想として信頼できるものではありません。将来、世界や日本国に、そして家族に何が起こるかわからないからです。

だから、老後資金について、半ばあきらめに似た思いになっている人もいるかもしれません。将来のことは何とかなるとは思わないけれど、かといって今何かができるとは思わない。そう考えている人も多いかもしれません。

知り合いや金融機関に勧められるままに、不動産や投資信託や保険を買ってしまって、後悔している人もいるかもしれません。

今必要なのは、煽られて金融商品を買うことでも、不安につけ込まれて何もわからないまま投資をしてしまうことでもありません。

本当に必要なのは、次のことです。

1 公的年金の仕組みを理解し、公的年金の受け取りを最大化すること
2 公的年金で不足する金額を補う「自分年金」を作ること
3 年金以外のセーフティネットを、可能な限りたくさん準備すること

「年金制度は崩壊する!」「若い人は将来年金がもらえなくなる!」などとセンセーショナルな主張がネット上に氾濫しています。

年金制度に対して悲観してもよいし、危機感をもって準備するのは大切なことですが、「年金崩壊」「年金ゼロ」と煽り、だから年金保険料は納めなくてもよい、滞納しても問題ない、というミスリードを信じる若者たちがいることに危惧をおぼえます。

年金についてあまりにも無知すぎます。

無知は経済的な大損失を招きます。無知に対しては、いずれは大きな対価を払わなければならなくなります。

本来なら受け取れたはずの数千万円が受け取れなくなる ── そんな可能性もあります。

◆年金は「積み立て」ではなく「保険」

年金についての最大の誤解は、年金が積み立てた金額を将来受け取れる仕組みではなく、「保険」だということです。

一般に保険とは、何か悪いことが起こったときに、保障される仕組みです。けがをしたときに支払われるのが傷害保険、死亡したときに支払われるのが生命保険、地震で被害を受けたときに支払われるのが地震保険です。

では、年金「保険」というと、仕事をリタイアした後、「長生きしてしまったとき」に支払われます。

本来、長生きすること自体は悪いことではなくむしろよいことです。

しかし長生きという「リスク」に備えるために年金「保険」が存在します。リスクに対する備え(これをリスクヘッジと言います)ができていれば、安心して過ごせます。安心して長生きできるということです。

年金は保険ですから、保険料を支払わなければならないし、保障は保険料の支払いの条件を満たしたときに受けられます。保険料を納めていなければ万一のことがあった場合にも、助けてもらえないのです。

だから保険料を支払うことが重要です。

たしかに年金保険料の負担は、今後だんだん大きくなっていくかもしれませんし、受け取れる年金額も減っていくでしょう。しかし、だからといって未加入や未納でいると、大きな損をしてしまいます。

◆年金保険料は無理をしてでも払うほうがよい

サラリーマンやサラリーマンの夫を持つ主婦(サラリーマンの妻を持つ主夫)は、厚生年金保険の第3号被保険者に該当するケースが多く、仕組み上、年金未加入や未納が発生しにくいのですが、自営業者、フリーランス、非正規社員やその配偶者である主婦(主夫)は、それぞれが国民年金保険料を毎月支払う必要があります。

生活が苦しくなると、年金保険料の支払いは後回しになる、という人もいます。しかし他の出費を切り詰めてでも、年金保険料は払ったほうがよいです。年金を受け取れるようにするためには、最低10年保険料を納め続ける必要があります。どんなに苦しくても、とにかく10年は納めるようにしましょう。

「それでもどうしても難しい」という場合は、「保険料免除制度」「納付猶予制度」という2つの制度があります。どうしても経済的に納付が困難な場合、申請すれば保険料の支払いを、一部あるいは全額、免除あるいは猶予してもらえる制度です。

事情によって、全額、4分の3、半額、4分の1の免除があります。

たとえ保険料を免除されても、将来年金を受け取る年齢になったとき、たとえば全額免除の期間分も「2分の1の年金」を受け取ることができます。

なぜなら国民年金の2分の1は、税金で賄われているからです。財源が保険料ではなく、税金なのです。

未納にしてしまうと、たとえ納税していても、本来受け取れる分でさえ受け取る権利を失ってしまい、税金の払い損になってしまいます。

年金保険は、さらに保障があります。年金に加入しているだけで、自動的に付帯する保険が他にもあるのです。それが、「遺族年金」と「障害年金」です。

遺族年金は生計を維持していた家族が亡くなったときに遺族が受け取れる年金です。未納になっていると、この遺族年金が受け取れなくなります。

国民年金の被保険者だった「子のある配偶者」または「子」が受給要件を満たした場合に受け取れるのは遺族基礎年金です。子は18歳まで、障害年金の障害等級1級または2級の場合は20歳までです。

厚生年金加入者の遺族が受け取れるのは「遺族厚生年金」で、生計を維持していた家族が死亡した翌月から受け取れます。受給期間は「子のある妻」「子のない妻」「子」「障害年金の障害等級1級または2級に該当する子」「夫」、それ以外の家族などで異なります。

さらに、妻は40歳から65歳までは、「中高齢寡婦加算」というものがあって、条件に該当すれば毎年58万3,400円(令和4年度)が追加で受け取れます。

年金保険料を免除してもらっていても遺族年金は受け取れますが、未納だと受け取れなくなります。

次に障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)は、けがや病気、精神疾患などによって働けなくなってしまったときや、日常生活に支障が生じてしまったとき、受け取ることのできる年金です。軽い障害の場合でも障害手当金(一時金)を受け取れる制度もあります。

障害年金を知らない人が多く、受給資格があるにもかかわらず、申請してもいない人も多いとみられています。

鬱、がん、糖尿病、人工透析、けが、人工肛門、指を切断してしまった…等々、障害年金を受け取れる範囲は広いです。

それによって就労に影響がある、日常生活に影響があるという場合は、申請したら受け取れる可能性が高いものです。知らないと大損です。

年金に加入しているだけで、大きな保障を得られます。ですから、受給資格のなくなる「未納」を増やしてしまうのは、非常に愚かなことです。

免除期間や猶予期間も、年金加入期間(受給資格期間)に算入されるので、老齢年金、遺族年金、障害年金と共に、受給資格を失うことはありません。

一番理想的なのは毎月支払い続けること、苦しくても免除や猶予の手続きをすることです。一番やってはいけないのが、未納のままにすることです。

◆離婚した際は厚生年金記録の分割も可能

女性でも男性でも、離婚した場合に「年金分割」の手続きが可能となっています。

ただ、この制度は、離婚してから2年を過ぎると申請ができなくなってしまうので注意が必要です。

たとえば専業主婦の場合、夫がサラリーマンなら厚生年金に加入していると思いますが、専業主婦は第3号被保険者で、夫の年金にくっついている形になっています。

制度的に、夫が婚姻期間中に支払った年金保険料は、夫と妻、2人が稼いで納付したとみなされます。だから妻は離婚したときに請求により、婚姻期間中の厚生年金記録の半分を受け取ることができます。

昔現役世代だった後期高齢者と比べると、今の現役世代の年金は悔しいほど不利ではあります。後期高齢者でなくとも、現在の受給世代と比べても、やはり不利です。

そして働き盛りの世代よりも、子供たちの世代のほうがさらに不利になります。ひどいと思いますが、「そういうもの」なのです。だから年金受給資格を放棄しても、何も得しない。そこを理解できるかどうかが、年金のキモです。

現状の年金制度を受け入れたうえで、受給額を最大化することを考えましょう。

繰り返しますが、年金は保険です。

保険であるからには、悪いことが起こったときに確実にたくさん受け取れることが第一です。入院していないときは、入院していないことがよいことなのであって、「入院給付金がもらえない」と嘆く必要はありません。

だからこう考えます。

「収入がある間は、年金がもらえなくてもいい」

「できるだけ年金をもらわなくても生活できるように働くこと、収入源を確保することを優先する」

働けなくなったとき、他に収入を得る手段がなくなり、どうしようもなくなったときに、可能な限りたくさんの年金を受け取れればよし、と考えるのです。それが保険を上手に使う考え方です。

だから、可能な限り「繰り下げ」を選択しましょう。

◆受給開始年齢を繰り下げると年金受給額が増える

日本の年金制度では、受給開始年齢は65歳からとなっています。しかし必ず65歳から受け取る必要はなく、現行法では、75歳まで受け取りを繰り下げることができます。

「90歳まで生きないと報われない」という議論もありますが、的外れです。

「保険」として「長生きしたときに困らない」ようにすること。これ以外の目的を欲張ってしまうと、正しい判断ができなくなります。

働ける間、他に収入のある間はできるだけ受け取らず、本当に必要になったときにたくさん受け取れるようにしましょう。

年金受給開始年齢を繰り下げると、66歳以降1カ月繰り下げるごとに、受給開始後の毎月の受給額が0.7%ずつ増えます。死ぬまで毎月、受け取り分が増えるのです。

1年繰り下げると、0.7%×12カ月で、毎月の年金額が8.4%増えます。

わかりやすい例で言うと、年金額が10万円の人は10万8,400円になります。これが一生涯続きます。長生きして30年受給するとしたら、360カ月ずっと、増額した金額を受け取れるわけです。

5年繰り下げた場合は、8.4%×5年で、受給月額が42%増えます。

10万円の場合は14万2,000円になります。15万円の人は、21万3,000円になる計算です。

受け取り年齢をさらに75歳まで繰り下げた場合は、0.7%×12カ月×10年で、毎月の年金受給額は84%増になります。

もともと15万円の年金額の場合、27万円に増えます。さらに、働きながら厚生年金保険料を納め続けると(令和4年時点で70歳まで継続可能)、年金額はさらに増額となります。

だから、できるだけ長く働けるように、楽しく仕事を続けることが大事です。長く働けるように、健康維持に心を使いましょう。

とはいえ、「どうしても65歳から受け取れないとやっていけない」という人もいるでしょう。そのような人は、年金は早くから受け取りながら、同時に他の収入を増やすことを考えましょう。

年金で損をしないためには、可能な限り保険料を納付して、保険としての機能を最大限活用すること。

そしてできるだけ受給時期を繰り下げて、受給月額をできるだけ増やすこと。

それでも足りないことが予想されるときに、初めて投資を検討する──これが正しい順番だと思います。

投資で失敗する人 成功する人――あなたの人生を貧しくする投資のウラ側
鹿子木 健(かなこぎ・けん)
株式会社メデュ代表取締役。1974年熊本県生まれ。投資と金融を12年滞在した中国で事業の傍ら学んだ。個人・法人顧客の資産防衛を主軸に活動しているが、専門分野は中国経済、宗教哲学、成人教育、デリバティブ。障がい児・者支援福祉事業にも携わる。現在展開している事業は外国為替の投資助言、法人向けコンサルティング、投資家教育の一環としての鹿子木相場塾など。
登録番号は〔投資助言・代理業 近畿財務局長(金商)第409号〕。

著書に「初心者からプロまで一生使える FXチャート分析の教科書」(総合法令出版)、「常勝FX 99%の人が実践していない勝ちパターンのつくり方」(ぱる出版)など9冊がある。

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