「横断指標」と「課題別指標」

報告書では、横断指標を「社会課題の種類に依らずインパクトを示す際に課題横断的に参考になる指標」、課題別指標を「課題ごとに参考になる指標」と定義し、前述のように、指標例を示している。

例えば横断指標では、「社会課題の解決に資する製品・サービスが売上高全体に占める割合(%)」「製品・サービスの提供数(数/人)」といった具合だ。ヘルスケア分野の課題別指標では、労働災害による死傷者数」「生活習慣の改善者」などを挙げている。

課題もたくさん

ただ、インパクト指標の実践に向けた課題もたくさんある。

新しい考え方なので、当然と言えば当然なのだが、例えば「どのインパクト指標を特定すべきか」という問題だ。また、インパクト指標と財務価値をどのように結び付けて提示すべきか、インパクト指標における目標値の設定や測定は、どのぐらい正確であるべきか、良い方向の効果なら良いが悪い方向への影響についてはどう対処するか、といった問題がある。

これらについて、経団連は一応の解決方法を示している。どのインパクト指標にすべきかの判断は自社で取得できるデータを収集し、投資家との対話を通じて特定すべきとした。

財務価値とのかかわりは逸失機会を基に説明する方法もあり、目標値の正確さについては将来的に格付け機関や第三者認証機関に委ねる方法も考えられるとした。外部環境への影響を考える概念である以上、プラスの影響だけでなく、マイナスの影響も含めて考慮することが大切だという。

インパクト指標に関するQ&A

インパクト指標とは?

企業活動の結果として、どれだけ社会や環境に変化や効果を与えたのかを示す指標のこと。

インパクト指標の課題は?

インパクト指標における目標値の設定や測定はどのぐらい正確であるべきか、インパクト指標と財務価値をどのように結び付けて提示すべきか、といった課題がある。

インパクト指標の目的は?

企業の事業活動が社会に与えている影響を「見える化」する目的や社会課題への良い影響を促進することなどが目的の一例となる。

インパクト指標と投資の関係は?

近年はSDGsの観点から、社会や環境への影響を考慮している企業に対して投資を積極的に行おうという動きが顕在化している。インパクト評価はそうした動きにおける判断指標の1つに位置付けられる。

ポイントは投資家との長期的視点の対話

経団連の報告書を読むと、インパクト指標の実践には企業と投資家の対話が必要だという記述が何度も出てくる。これは、単なるコミュニケーションなら容易になってきているものの、サステナビリティ(持続可能性)に関するコミュニケーションでは、今なお溝があるという認識があるからだ。

それと言うのも、企業が環境に対応した新しい取り組みを行う場合、例えば、設備投資が必要になれば短期的には利益が圧迫され、株主にとってはマイナスになると捉えられる可能性もある。

そこで大切になるのが「長期的に事業を見つめる視点」だ。それゆえ、経団連は報告書の中で、企業側は「パーパス(企業の目的)」を起点としたビジネスモデル、イノベーションのストーリーを提示することで、サステナビリティに関する市場機会を新たに捉えられることを説明し、投資家と建設的な議論を進めるべきだと指摘している。

地球環境の保全や改善は人類共通の課題だが、ともすると後回しになりかねない。そんな中で「インパクト指標」が多様な利害関係者に企業の取り組みの意義を伝える方法となり、企業と利害関係者の「共通言語」になり得るという。