この記事は2022年10月31日に「The Finance」で公開された「デジタルバンクとは?概要・国内外の事例まで総解説【2022年版】」を一部編集し、転載したものです。


本稿では、デジタルバンクとは何か?また従来のネットバンクの違いについて解説し、メリット・デメリットや関連する具体的な取り組みについて紹介します。

目次

  1. デジタルバンクとは
  2. デジタルバンクの種類
    1. (1)チャレンジャーバンク
    2. (2)ネオバンク
    3. (3)BaaS (Banking as a Service)
  3. デジタルバンクとネット銀行との違い
  4. デジタルバンクが注目される理由
  5. デジタルバンクのメリット・強み
  6. デジタルバンクの課題
  7. デジタルバンクの将来性
  8. 日本のデジタルバンクの先行例
    1. (1)みんなの銀行
    2. (2)UI銀行
    3. (3)LINEバンク
  9. 海外のデジタルバンク 3選
    1. (1)OakNorth Bank
    2. (2)N26
    3. (3)Green Dot Bank
  10. まとめ

デジタルバンクとは

デジタルバンクとは?概要・国内外の事例まで総解説【2022年版】
(画像=photon_photo/stock.adobe.com)

デジタルバンクとは、デジタル技術を活用してオンライン上でサービスを提供している銀行のことです。デジタルバンクは欧米を中心に広がっており、米調査会社マーケッツアンドマーケッツによれば、デジタルバンクの市場規模は2018年で33億ドル(約3,500億円)でしたが、2023年には57億ドルに達すると予測されています。

日本国内においても、第一生命が住信SBIネット銀行と楽天銀行と提携して、2022年にオンライン上で銀行サービスを開始すると発表しています。また三菱UFJフィナンシャル・グループは、金融サービスをBaaSに切り替える考えを示すなど広がりを見せています。

デジタルバンクでは、銀行免許の有無や銀行機能の提供方法によって「チャレンジャーバンク」「ネオバンク」「BaaS(Banking as a Service)」の3つに分類されるが、詳細については「デジタルバンクの種類」を参照いただきたい。

スマートフォンの普及などで、デジタル技術が身近になってきている現代において、デジタルバンクはさらに規模を拡大していくと考えられます。

* 参考:スマホ銀行(デジタル銀行)とは アプリで預金や送金
  参考:第一生命、銀行サービス参入 住信SBI・楽天銀行と提携
  参考:銀行機能、異業種に提供へ 三菱UFJFG亀澤社長

デジタルバンクの種類

デジタルバンクは、それぞれ以下の3種類に分類がされます。

  • チャレンジャーバンク
  • ネオバンク
  • BaaS (Banking as a Service)

本章ではそれぞれの種類について解説していきます。

(1)チャレンジャーバンク

チャレンジャーバンクとは、銀行免許を取得して銀行サービスを提供している事業者のことです。Fintech企業が銀行免許を取得して創業する他、既存の銀行がデジタル部門を独立させて創業させるなど、様々なケースで誕生しています。

チャレンジャーバンクの特徴はデジタル技術を活用して、スマートフォンのアプリなどで金融サービスを提供していることです。アプリ操作で銀行サービスが完結できるため、実店舗などを持たないのも特徴とされています。基本的な銀行サービスはもちろんのこと、年金や保険などのサービスもアプリを通じて提供しており、新しい銀行の形とされています。

海外では欧州が銀行免許取得のプロセスが緩和されたのをきっかけに、イギリスやドイツなどでチャレンジャーバンクは創業されており、中には大手銀行にまで成長を遂げた銀行もあります。

(2)ネオバンク

ネオバンクとは、自らが銀行免許の取得をせずに、既存の銀行が所持している免許を利用して金融サービスをスマートフォンなどで提供している事業者のことです。

ネオバンクの特徴としては、デジタル技術を活用して新たな付加価値をユーザーに提供していることが挙げられます。ネオバンクの事業者は銀行免許を持たないため、既存銀行からの支援を受け、スマホアプリなどを開発し、ユーザーに提供しています。つまり既存銀行のプラットフォームを活用して、個別サービスに特化した機能を持つアプリを開発することで、利便性を高めています。

海外ではアメリカが2010年頃から世界に先駆けてフィンテック企業が台頭してきています。また、日本においても2018年の施改正銀行法によって「オープンAPI」が整備されるようになり、ネオバンクへの注目が集まっています。

(3)BaaS (Banking as a Service)

BaaSとは銀行が提供しているサービスを、APIを利用してクラウドサービスとして提供することです。BaaSを活用することで、非金融事業者などでもパートナー契約を行えば、自社サービスに金融機能を組み込み、ユーザーに提供することが可能になりました。

BaaSは2003年頃からアメリカがフィンテック企業向けサービスとして開始を行い、その後は欧州各国に広がっています。株式会社グローバルインフォメーションの調査では、BaaSの市場規模は2027年に179億米ドルにまで上るとされているため、日本でも今後広がることが予想されています。 BaaSについての詳細は以下の記事について詳細に解説しているため、合わせて参考にいただきたい。

* 参考:BaaSとは?初心者向けにわかりやすく解説

デジタルバンクとネット銀行との違い

デジタルバンクとネット銀行の違いについて明確な定義がされているものはありません。しかしデジタルバンクが目指しているものと、現在のネット銀行が提供しているサービスの仕組みは少し異なる点があります。

デジタルバンクが目指しているものはデジタル技術を活用して、銀行に関わる全てのサービスをアプリ上などで完結ができることです。昨今の楽天銀行やソニー銀行などのネット銀行も、多くが金融サービスなどをアプリ上で提供していますが、コールセンター機能を備えている、一部のサービスはアプリからWebブラウザへの移動が必要などのケースも少なくありません。

つまり現実世界で銀行に行き、その場で行えるサービスの全てをアプリ上などで完結できるようになった際に、デジタルバンクであると呼ばれる可能性があります。

また、UI/UXや商品、顧客の特性にあったサービスを追求した使い勝手の良さ等、これまでの銀行にない商品やサービスを展開している点がデジタルバンクであると呼ばれる側面もあります。

デジタルバンクが注目される理由

デジタルバンクが注目されている背景には「現代に即したニーズを満たすこと」と「日本経済の現状」が挙げられます。

現代では「いつでも、どこでも、すぐに」が、どのサービスでもコンセプトになってきています。人々はスマートフォンを利用して、好きな時に好きなサービスを受けることが当たり前になってきており、銀行まで足を運ぶのが手間に感じることも増えてきています。

そのため既存の仕組みである、銀行に足を運ばなければ受けられなかったサービスを、オンライン上で受けられるようになり、現代のニーズを満たすことが可能なデジタルバンクの仕組みが注目されています。

加えて日本は銀行が多すぎる「オーバーバンキング状態」とされており、デジタル技術を活用した利便性の高いサービスがないのが現状です。こうした現状を打破するためにも、デジタルバンクは注目を集めています。

また日本の経済状況は、過去30年にわたって低成長を続けており、業務におけるコスト削減が叫ばれるようになりました。銀行業務におけるコストは、従業員や店舗の運営です。デジタルバンクが広まることで、店舗を減らし、従業員も生産性の高い業務に組み込み直すことができるようになるなどの理由から注目を集めています。

デジタルバンクのメリット・強み

デジタルバンクへ取り組むことへのメリットや強みには、以下のようなものが挙げられます。

  • 利便性の向上
  • パーソナライゼーションの向上
  • 業務効率化
  • コスト削減

まずデジタルバンクとなることで、ユーザーは「いつでも、どこでも、即座に」銀行サービスを受けることが可能になります。なぜなら銀行の窓口に足を運ぶ必要はなく、24時間スマートフォンからアクセスができるからです。そのためユーザーの利便性は向上します。

またデジタル化によって顧客データ等を商品やサービスへ活用できるため、顧客それぞれに適したサービス提供が行えるなど、パーソナライゼーションの向上も期待ができます。

またデジタルバンクとなることで、銀行業務における紙の発生がなくなります。業務で利用していた紙がなくなることで、コスト削減につながるのはもちろんのこと、ヒューマンエラー等もなくなるため、業務効率化の実現にも貢献できます。加えてデジタルバンクが実現できれば、店舗は最小限の活用で済むため、店舗運営のコストの削減も可能です。

低コストでの運営が実現できれば、従来の銀行よりも高い金利を預金に付与することも可能です。実際に欧米のデジタルバンクでは、金利が有利な銀行が登場してきています。

上記のようにデジタルバンクとなることで、多くのメリットをユーザーはもちろん、事業者側も受けられます。

デジタルバンクの課題

デジタルバンクのデメリットや課題には、以下のようなものが挙げられます。

  • セキュリティ対策
  • ITリテラシーの向上

デジタルサービスに必ず必要なのが「セキュリティ対策」です。悪意のあるユーザーによってハッキングなどにあってしまい、個人情報やパスワードの流出などにつながってしまうと、運営会社の社会的信用は落ちてしまいます。

そのためデジタルバンクには、抜本的なセキュリティ対策や対策に伴うIT人材の確保などが求められます。他にもガバナンスの強化やマネーロンダリングの対策も必要と言えます。

またユーザー側には「ITリテラシーの向上」が求められます。デジタルバンクはアプリ上で全ての銀行サービスが完結できるもののため、アプリを十分に使いこなせなければ、サービスの利便性が低いと感じてしまいます。加えてスマートフォンの紛失や盗難が起きてしまうと、物理的に悪用されてしまうリスクもゼロではありません。

デジタルバンクの将来性

デジタル技術の進歩、現代のニーズを見ても、デジタルバンク市場の拡大に注目が集まります。金融業界には「フィンテック」という単語がすでに一般的になってきており、テクノロジーの導入を前向きに捉えている土壌があると言っても過言ではありません。

デジタルバンクには現状としてセキュリティ対策やデジタル人材の確保、収益化等課題があるにせよ、近い将来、デジタルバンクが当たり前の存在となり、銀行の窓口に並ぶことがほとんどなくなる可能性もあります。

日本のデジタルバンクの先行例

(1)みんなの銀行

「みんなの銀行」は、ふくおかフィナンシャルグループが2021年5月に開設した日本初のデジタルバンクです。スマホ完結型のデジタルバンクのため、チャレンジャーバンクに分類されます。

みんなの銀行ではスマートフォンアプリを利用することで、ユーザーは24時間365日、銀行サービスの利用が可能になります。みんなの銀行には、「普通預金(Wallet)」「デビットカード(Debit Card)」「貯蓄預金(Box)」「お金の管理(Record)」の4つの機能が搭載されています。

また月額600円のプレミアムサービスに加入すると、ATM利用手数料や他行への振込手数料が月に10回まで無料になるサービスや、キャッシングが5万円まで一時無利息で貸越できるサービスなどが利用できます。

サービス開始から1年でアプリのダウンロード数が105万、口座開設数が40万と一定の成果を挙げています。またユーザー層は10~30代のデジタルネイティブ世代が約7割を占めており、デジタルバンクのターゲットに適していると言えます。

* 参考:みんなの銀行
  参考:スマホ専業の「みんなの銀行」1周年 100万DL突破で次の一手は?
  参考:みんなの銀行 1周年、今夏にローン参入。デジタルウォレットを強化

(2)UI銀行

UI銀行は2022年1月にサービスが開始された、東京きらぼしフィナンシャルグループが設立したデジタルバンクです。UI銀行はデジタルネイティブ世代と呼ばれる若年層に加え、シニア層もターゲットとしています。

そのためスマホアプリで全て完結させるサービスだけではなく、対面でのサービスも残し、両面での提供を行っています。具体的には定期預金の預け入れ等はスマホアプリで行い、住宅ローンなどの重要な取引については、きらぼし銀行の店舗で行えるように設計されています。こちらもUI銀行としての店舗は持っていないため、チャレンジャーバンクと言えます。

またUI銀行は将来的にBaaSの法人向けサービスの提供も視野に入れて、活動していきたいとしています。

* 参考:UI銀行
  参考:東京きらぼしFGのデジタルバンク「UI銀行」の目指す世界とは? 口座開設、預金、振込をスマホで完結

(3)LINEバンク

LINEバンクはLINE株式会社と株式会社みずほフィナンシャルグループが共同出資した、「LINE Bank設立準備会社」が2022年度中に開業を目指すデジタルバンクです。

利用者人数が多いLINEアプリ上で銀行サービスの全てが完結する仕組みを目指しているとしています。またLINE株式会社は以前からLINE Financialという金融サービスをグローバルで展開しており、その一つであるLINEバンクも、タイ、台湾、インドネシアでサービスを開始しています。これまでのグローバルユーザー数は480万人を突破しており、日本で展開する際のノウハウも積まれています。

* 参考:LINE Financialとみずほ銀行による LINE Bank設立準備会社への追加出資および経営体制変更について
  参考:LINE Bank、「Banking in Your Hand」をミッションに歩んだ一年
  参考:LINE×みずほのスマホ銀行、2022年設立へ。スマホのメインバンクに方針転換

海外のデジタルバンク 3選

(1)OakNorth Bank

OakNorth Bankは2015年に創業した英国のデジタルバンクです。英国のチャレンジャーバンクで初めて黒字を達成したことでも知られており、中小企業向けの融資利息を収益源としています。

OakNorth Bankでは、ITシステムをクラウド上で利用する仕組みを設計しており、低コストでの事業運営を行っています。特にAIは与信分析などに活用されており、大手金融機関との差別化を図っているのが特徴です。また従業員数も必要最小限に抑えているため、利益率の高い事業モデルとなっています。

(2)N26

N26は2013年に設立したドイツ発祥のデジタルバンクです。欧州最大級のモバイル専業銀行にまで成長しており、アメリカにも進出を果たしています。

N26はスマートフォンを活用したサービス提供をしており、EUの居住者であれば、パスポート、携帯電話番号、住所登録によるオンラインID認証で簡単に口座開設が行えます。N26で開設した銀行口座には、無料のマスターカードやデビットカードが付いてくることに加え、Apple Payなどとの連携も可能で電子決済も即時に行えます。

他にも19種類の通貨を自由に送金できるサービスなど、グローバル視点でのサービス提供を行っています。

(3)Green Dot Bank

Green Dot Bankはアメリカのカリフォルニア州に本拠を置くデジタルバンクです。BaaS型の事業を展開しており、Walmartとの電子マネー提携やUberとの運転手の給与口座連携、アップル社の電子マネー基盤の提供などを行っています。

例えばUberでは、ウォレットアプリ 「Uber Wallet」のクレジットカードや電子マネーの基盤を、Green Dot Bankのサービス基盤を活用しています。Uberは銀行免許を持っていないため、Green Dot Bankとパートナー契約を結ぶことで、基盤の活用が行えます。

こうした基盤提供をGreen Dot Bankは、行ってきており、パートナー企業が有している多くのユーザーによる手数料収入によって収益を立てています。

まとめ

便利で使いやすく、UIUXに優れている新しい銀行の形であるデジタルバンクは、今後も勢力を拡大していくでしょう。すでに具体的にサービスが開始されている事例もあり、利用者はさらに増えていくことも予想されます。今後の動向に注目が集まります。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ