この記事は2022年12月4日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「中越パルプ工業[3877・プライム]既存のグラフィック紙から成長分野に業態転換 家庭紙参入やCNFで25年度営業利益40億円へ」を一部編集し、転載したものです。


中越パルプ工業は、新聞・印刷用紙を主力とする総合製紙メーカーだ。紙の使用量は2000年をピークに、少子化・電子化により年々減少している。「紙・パルプ業界は衰退産業と思われがちですが、成長産業へ業態を変えようとしています」と植松久社長は話す。

「中期経営計画2025」で軸となるのが、生産体制の再構築。既存の印刷用紙の生産集約を図り、家庭紙への参入やパルプの新用途開発を進める。さらに新素材セルロースナノファイバー(以下:CNF)の実用化も進めながら、安定した収益基盤をつくる。

▼植松 久社長

中越パルプ工業
(画像=株主手帳)

グラフィック紙25年60%へ 需要に見合う生産体制構築

同社は、1947年の創業から一貫して紙中心の事業を営む。国内の紙の生産量では7位にランクインする。2022年3月期の連結業績は、売上高901億400万円、営業利益23億5,200万円。セグメント別売上高は、主力の「紙・パルプ製造事業」が約8割となる。

主要製品は、印刷用紙や新聞用紙、包装紙、特殊紙など。紙の売上のうち、7割以上をグラフィック用紙が占める。その他、紙の原料となるパルプや、コンビニなどで使われている紙コップの原紙となる板紙、重袋などのクラフト紙も手掛ける。また国産竹100%を使用した竹紙も、国内製紙メーカーで唯一量産をしている。

現在は情報印刷用紙中心の売上構成だが、2021年度からスタートした「中期経営計画2025」では、紙パルプ事業の生産体制の再構築を軸に取り組んでいる。具体的には、2020年度に75%を占めていた紙に占めるグラフィック用紙比率を、2025年度に60%まで低減する。

背景にあるのは、紙・板紙の需要構造の変化だ。

「製紙会社は紙中心で走ってきましたが、紙の使用量が年々減少しています。一方で板紙は堅調に推移しているため、各社板紙にシフトしている。当社としては需要に見合った生産体制を構築しなければならない」(植松久社長)

家庭紙の原紙を供給 パルプの使用先を拡大

中計の柱の1つが「既存事業の構造転換」。まず取り組むのが、高岡工場6号抄紙機の停止だ。需要が減少する印刷用紙の設備を一部停止し、生産集約を図る。一方、衛生用紙の高まりで、安定需要が期待できる家庭衛生紙の分野へ進出する。家庭紙マシンの新設にも着手しており、2023年12月の稼働を予定している。

トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生紙は、大王製紙や日本製紙など大手がシェアを有し、市場での地位を確立する。そこで中越パルプ工業は、他社を追随して最終製品を作るのではなく、中堅の家庭紙メーカーに家庭紙の原紙を供給していく。

「紙と家庭紙の商流は全く違います。大手メーカーは、長年に渡りその商流を築いてきた。そこに一朝一夕には入り込めない。我々は、すでに商流を築かれている中堅の家庭紙メーカーとタイアップしていきます」(同氏)

マシンの新設には新たな投資が必要だが、家庭紙マシンは、グラフィック紙の設備投資の3分の1~4分の1程だという。また、従来のパルプの生産レートを維持したまま、パルプの使用先を拡大することで競争力を維持する。

「紙の工場はパルプの生産から抄紙機まで全部一体です。そのため印刷用紙のマシンを停止するなら、その分のパルプの受け皿がないとバランスが崩れてしまいます」(同氏)

印刷用紙に代わるパルプの用途としては、家庭紙の他、パルプの外販強化と成長分野での新規利用・開発を進めていく。

その中で特に成長が期待されるのが紙器の分野だ。現在食品容器や紙コップ、冷凍食品のトレーなどは、国内で約月1万tの使用量がある。これが脱プラスチックの推進により、今後5年間で10~15%の伸びが予測される。現在も加工業者から引き合いが来ているため、今後増産を検討する品種になり得るという。

CNFの実用化を進める畜産・農業分野で活用

中計の2本目の柱が、「森林資源を活用した環境投資・環境ビジネス推進」。取り組みの1つが、CNF「ナノフォレスト(nanoforestⓇ)」の実用化だ。CNFは、木材から抽出したナノサイズの繊維状物質。重さが鉄の5分の1、また強度が鉄の5倍ある新素材として、様々な分野での活用が期待される。パルプが原料となるため、各製紙メーカーも量産化へ向けた開発を進めている。

CNFの抽出方法は、化学的、機械的、生物的の大きく3つある。同社の抽出方法は機械的の中でも、セルロース同士をぶつけた衝撃だけで抽出する水中対向衝突法(ACC法)という方法。化学薬品を使わないため、安定性と安全性に優れる。そのため、多分野への応用が期待できるという。

「この特性を生かし、現在は鶏舎の環境改善や農業資材などの分野で活用しています。他社がまだ参入していない独自の分野で、当面はここが目先の収益につなげるための方策だと思います。将来的には、ボリュームゾーンである樹脂、ゴム、プラスチックの中にも使われないと設備の稼働率が上がらないため、精力的に進めています」(同氏)

中計では、2025年度の売上高構成比率を、グラフィック用紙などの「紙パルプ既存領域」69%、家庭紙、パルプ外販、新規分野の「紙パルプ拡大領域」13%。エネルギー11%、CNFを含む環境ビジネス3%を計画(上図参照)。基盤をつくり、経営目標として連結営業利益40億円、ROE5%以上の達成を目指す。

▼紙製品使用例

中越パルプ工業
(画像=株主手帳)

▼セルロース・ナノファイバー スラリー品

中越パルプ工業
(画像=株主手帳)

2022年3月期 連結業績

売上高901億400万円前期比 10.0%増
営業利益23億5,200万円-
経常利益30億7,700万円-
当期純利益12億6,800万円-

2023年3月期 連結業績予想

売上高1,010億円前期比 12.1%増
営業利益15億円同 36.2%減
経常利益17億円同 44.8%減
当期純利益11億円同 13.3%減

*株主手帳2022年12月号発売日時点

植松 久社長
Profile◉植松 久(うえまつ・ひさし)社長
1956年4月生まれ。大阪府出身。1980年東京農工大学農学部林学科卒業、中越パルプ入社。2005年原材料部資材担当部長。2010年執行役員経営管理本部副本部長兼管理部長。2011年執行役員高岡工場長兼営業本部副本部長。2012年上席執行役員。2013年取締役経営管理本部長、内部監査室・東京事務所管掌。2014年常務取締役。2016年専務取締役営業本部長。2018年専務取締役社長補佐、営業本部長。2020年代表取締役社長就任。