本記事は、児玉隆洋氏の著書『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています。

紙幣の時代の終わりがくる

紙幣の人物はどうやって決めているのか?お札に関する疑問あれこれ
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

私たちのお金は今、大きな変革の時を迎えようとしています。流れとしては2つあります。ひとつはお金の完全なデジタル化です。そう聞くと、「今のキャッシュレスもデジタルでは?」と思われるかもしれませんが、キャッシュレスはあくまでも紙幣や硬貨のデジタル化。これから始まろうとしているのは、最初からデジタルで発行されるお金です。我々が長く親しんだ貨幣が、ついに次の形へ変わろうとしている、ということになります。

もうひとつもやはりデジタルですが、新しい概念のお金の始まりです。どういうものかといいますと、企業や個人が発行するお金。そう聞くと、「国が発行する以外のお金って、一体なに?」と、また疑問が出るかもしれません。こちらについては、後ほどきちんと解説します。お伝えしたいのは、おそらくこれから数年のうちに、私たちの生活にはこれら新しい形のお金が入ってくるということです。

そしてお金は形だけでなく、その使い方や稼ぎ方も新しいステージへ進んでいきます。理由はテクノロジーの急速な進化です。たとえばアメリカのテスラ社が開発するハイパーループ※1。空飛ぶ鉄道といわれ、技術的には東京─大阪間をなんと20分で移動することができるそうです。インターネットの通信速度もまだまだ加速し、現在は5G※2ですが、数年以内に6G、7Gへと進化していくでしょう。2時間の映画をスマートフォンにダウンロードするのに、5秒かかったら「遅い」と感じる時代がやってきます。

※1:イーロン・マスクが進めるチューブ型新輸送システム。チューブ内の真空化で時速1,000km超の移動を可能にする
※2:第5世代移動通信システム。5th Generationの略。高速大容量・高信頼、低遅延・多数同時接続がコンセプト

極めつけはバーチャル空間として注目されるメタバースです。バーチャルな世界に入ることができるメタバースは、特に多くの可能性が示唆されています。たとえば、自宅にいながら海外のアーティストのライブに行ったり、タイムスリップ旅行ができたり。これまでになかった形の新しいサービスやビジネスが、ものすごい勢いで始まろうとしているのです。

テクノロジーの進化によって社会が変わる。すると、自然とそこで生活する我々も、欲しいものや必要なものが変わってきます。収入を得るための仕事やキャリアも、時代に即したものが選ばれるようになるでしょう。テクノロジーの進化は、私たちの未来の暮らしだけでなく、お金にも広く影響を及ぼします。

そして留意したいのは、今のテクノロジーが進化するスピードは人類史上最速レベルだということです。世界が一足飛び、二足飛びに変わっていく時代、と言っても過言ではありません。社会が変わり、お金も変わる。しかも急速に。そんな時代に私たちは暮らしているのです。

一方で、忘れてはならないのがお金の本質は変わらないということです。姿や使い方がどのようになろうとも、お金は自分の人生を豊かにするための道具にすぎません。ここを理解していないと、急激な変化に惑わされ、本来使うべきところに使えなくなったり、表面的な数字に騙されて損したりします。

お金の本質を理解し、お金とテクノロジーのメガトレンドを知っておく。これは新しいお金の時代に入るにあたって、最低限持っておきたいお金のスキルです。

お金も世界も変えるブロックチェーンという技術

まず、お金のメガトレンドからお伝えしていきます。次世代マネーの鍵となるデジタルのお金には、大きく分けて次の3つのカテゴリーがあります。「暗号資産※3」「CBDC」「ステーブルコイン」です。

※3:法定通貨と交換できるデジタル発行の資産。銀行等を介さずに財産的価値をやりとりできる

これらはブロックチェーンの技術が活用されることがほとんどです。ブロックチェーンには、改ざんが難しいという特性があり、現在、あらゆる分野に応用されています。すでに普及している、ビジネスでの契約書を電子管理できる「スマートコントラクト※4」という仕組みもブロックチェーンを活用したものです。メタバースは3次元インターネットとも言われますが、ここで人々が交流したり、経済活動を行ったりするのにもブロックチェーンが使われています。

※4:ブロックチェーン上に記録した条件が満たされると処理が実行される仕組み。透明性の高い契約・取引を実現

政治の世界も例外ではありません。アメリカのウエストバージニア州では2018年、選挙にブロックチェーンを使った電子投票を取り入れました。最近では日本の自民党も、メタバースを政治活動に取り入れています。

かつてイギリスで始まった産業革命では、燃料を用いた動力が自動車や工業、列車などを次々に発達させました。それと同じように、ブロックチェーンはこれから新しい産業やサービスを作るための基盤として使われ、社会の構造を大きく変える力を持っています。目には見えない技術ですが、そのインパクトはインターネットやスマートフォンの登場に匹敵します。

ではなぜ、ブロックチェーンがお金のデジタル化に必要なのか。その秘密はブロックチェーンの仕組みそのものにあります。ブロックチェーンはデータの改ざんが非常に困難で、情報の信頼性がとても高く、取引の記録を消すことができない自律分散型システムという特徴を持ち、参加者が全員の取引履歴のコピーを記録する仕組みです。

つまり、どこかの企業や誰かひとりがリーダーとなって管理するのではなく、全員で監視するシステムです。ブロックチェーン上で改ざんやコピーをしようと思ったら、全ブロックを書き換える必要があり、それはほぼ不可能。この技術が生まれたことによって、セキュリティ面が最も心配されるお金もデジタル化が可能になったのです。

なお、ここでは簡単に説明しましたが、裏側の技術については詳しく知る必要はありません。改ざんが難しい技術だから、お金のデジタル化が可能になった、という理解で十分です。押さえておきたいのは、これからの時代のお金は、ブロックチェーンを始めとするテクノロジーと無縁ではいられないということです。このことを理解しておくだけでも、急速な流れに溺れずにすみます。

仕事で使わないから関係ない。興味がないから知らなくていい。ではなく、テクノロジーをお金のスキルの一部としてとらえる。この目線が必要な時代になったのです。

世界中で実用化が進む「CBDC」

3つのお金のカテゴリーの中で、誰もが無視できないのが「CBDC」です。CBDCとは、Central Bank Digital Currencyの頭文字をとったもの。中央銀行デジタル通貨と呼ばれます。

平たく言うと、中央銀行が発行するお金であり、つまりはその国の法定通貨です。日本ならば日銀が発行するお金ですので、円そのものの「デジタル円」です。現在、多くの国がこのCBDCの実用化を急いでいます。

最も進んでいるのは中国です。中国は「デジタル人民元※5」の発行をいち早くスタートしていて、すでに2,000万人が口座を開設しています。中国がデジタル人民元を国際取引での決済に使うことを視野に入れているのを受け、アメリカも急いで「デジタルドル」の導入の検討を進めています。

※5:中国では2017年に「中国人民銀行デジタル通貨研究所」を設立し、2020年にデジタル人民元の実証実験を開始

なぜなら、もしデジタル人民元が国際社会で強くなってしまうと、現在の基軸通貨であるドルの立場が揺らぐ可能性があるためです。このためバイデン大統領は2022年、CBDCの導入を国家戦略の重要事項として宣言し、本格的にデジタルドルの発行に向け検討を始めました。今起きているお金の変化の裏側には、基軸通貨争いも含まれている、ということです。

中国やアメリカだけでなく、世界各国でCBDCの実用化に向けた動きが活発化しています。インドは2023年度中に「デジタルルピー」を発行すると発表し、欧州でも「デジタルユーロ」のプロジェクトが始まり、2025年までには準備が整う可能性があります。そして実は日本でもすでに日銀による「デジタル円」の実証実験が始まっています。現時点ではまだ、CBDCを発行する計画はありませんが、着々と準備は進んでいるのです。世界的なトレンドである点を見ても、日本だけ発行しないということは考えにくいので、導入へ向かう流れが逆行することはないでしょう。

ではなぜ、CBDCの実用化が世界で進んでいるのか。というのも、そもそもCBDCの発行には膨大な導入コストがかかります。法改正も必要ですし、現金と同じようにどこでも支払いに使えるよう、インフラも整えなければなりません。サイバー攻撃への対策も必要です。それらを乗り越えてでもCBDCを発行するメリットはどこにあるのでしょうか。

理由はいくつか考えられますが、最も大きいのは不正の防止です。CBDCはデジタル通貨なので、いつ・どこで・誰が利用したのか履歴を残すことが可能です。匿名性の高い現金とは異なり、利用者の足跡を追うことができます。これは、マネーロンダリングや脱税を防ぐ効果を期待できます。もちろん、デジタル化によってお金を刷ったり、運んだりするコストを減らせるのも、メリットとして大きいでしょう。

そしてCBDCの実用化が世界的に進む理由はもうひとつ、銀行の少ない地域での需要です。実際、2020年にはカリブ海のバハマで、世界で初めてCBDCとして「サンドドル※6」が発行されました。アフリカのナイジェリアでも「eナイラ」というCBDCが2021年に発行されました。こうした国々では、銀行が少なく、口座を持っている人は限られます。ですが、スマートフォンは普及しているのです。つまり、お金をデジタルで発行してくれたほうが、国民は支払いや送金など、金融サービスにアクセスしやすいというメリットがあります。むしろ、こうした国々でCBDCは求められているともいえるでしょう。

※6:2020年にバハマ中央銀行が発行した世界初のCBDC。専用アプリ上でバハマドルと1:1で両替が可能

世界中がCBDCに向かって動いている。これは押さえておきたいお金のメガトレンドのひとつです。

未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる
児玉隆洋(こだま・たかひろ)
ABCash Technologies 代表取締役社長。1983年宮崎県生まれ。2007年、サイバーエージェントに新卒で入社し、Ameba Blog事業部長、AbemaTV局長などを歴任。マネジメント、マーケティング、メディア開発などを担当し、AmebaBlogを責任者として日本最大級のブログメディアに成長させる。2018年、日本の金融教育の遅れ・お金の情報の非対称性に課題を感じ、ABCashTechnologies設立。お金のトレーニングスタジオ「ABCash」は累計受講者数2 万人を超え、パーソナル金融教育事業で日本最大規模を誇る。「日本スタートアップピッチファイナル」金賞、「すごいベンチャー100」(2019年)、「FINTECH JAPAN」準優勝(2021年)など受賞歴あり。

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