本記事は、児玉隆洋氏の著書『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています
世界のフィンテックのトレンド
メタバース以外にも、これから私たちの生活を変えていくツールはたくさん登場してきます。お金に関してはフィンテックの動きが活発です。生活に新しい価値を提供する次世代型フィンテックの事例と、今後の可能性についてお話ししましょう。
AR(拡張現実) ── コンタクトレンズで家計が見える世界に!?
今、非常に注目されているテクノロジーがARです。ARは拡張現実と言われ、現実の世界にデジタルコンテンツをプラスして見せるという技術。「ポケモンGO※28」をイメージすると分かりやすいと思います。ポケモンGOはスマートフォンのカメラ越しにポケモンを登場させ、まるで家の中や道路上にポケモンが現れたかのように見えます。ちょうどあの感覚です。
※28:2016年リリース。位置情報を使って画像上に現れたポケモンを捕まえたり育てたりするスマートフォンゲーム
このAR技術をいち早く取り入れたのがニュージーランドのウエストパック銀行です。この銀行ではすでに顧客の口座管理にARを活用しています。顧客はARアプリが入ったスマートフォンのカメラをクレジットカードやデビットカードにかざす。すると、残高や明細、どんな支出が多いかまでを画面に表示。お金の流れを瞬時に把握できます。ブラウザを開いていちいちログインしたりせず、知りたいときにすぐ確認できる、利便性の高いサービスです。DNAが欲する「少しでもラクをしたい」を叶え、一歩進んだ快適な操作性は、まさに次世代のフィンテックといえるでしょう。
他にもさまざまな形での活用が考えられます。たとえば、AR×不動産。あなたが街を歩いていると気になる物件があったとします。そこでARカメラをかざす。すると、価格や家賃、空き情報、初期費用、間取り、投資利回りなどが瞬時に表示。そのまま不動産会社に内見を申し込む……といったことも技術的には可能になります。
ARはアプリだけでなく、スマートグラス※29やコンタクトレンズも開発されています。これらを身につければパソコンやスマートフォンすら不要に。まるで映画のように空中に浮かぶデジタル情報を、手でササッと操作するようになるのは、もう時間の問題です。
※29:メガネのように装着するウェアラブル端末。グラス越しにデジタル情報を表示、操作できる機能を持つ
グリーンフィンテック ── 支払いに新しい価値が誕生
SDGsを進めるフィンテックも世界的なトレンドです。ユーザーの利用と、環境への支援を連動させるもので、「グリーンフィンテック」と呼ばれます。たとえば、アメリカの「Aspiration(アスピレーション)」というスタートアップ企業では、ユーザーがカードで支払いをすると植樹が行われるというフィンテックサービスを提供。ユーザーは自分の買い物で植樹を支援することができ、支払いそのものに新たな価値が生まれています。あの俳優のレオナルド・ディカプリオも出資するなど、注目を集めています。
植樹支援は中国最大の電子決済サービスである「Alipay(アリペイ)」も実施中です。アプリ内に「アントフォレスト」という機能があり、任意で参加するユーザー同士でバーチャルの木を育てます。木はユーザーの環境に配慮した行動によって育ちます。参加表明したユーザーの支払い履歴から、CO2削減につながる購買や移動などを分析してポイントを付与。一定以上のポイントがたまると木が完成し、実際に植樹されるというリアル植林活動ゲームです。これまでに3億本以上の木が植えられたという実績から、かなりの支持があることがうかがえます。
これらのサービスも「いいことをしたい」という、人がもともと持っている欲求を刺激している点で共通しています。そしてこうした「社会貢献」への欲求は、DNA的にハイレベルの欲求です。アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが提唱する「マズローの欲求5段階説」によれば、人の欲求は下層から順に、「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の段階があるとされますが、先進国になるほど高いレベルの欲求が生じます。こうしたサービスを使うことが、その人のステイタスにつながるといっても過言ではないと思います。
支払い履歴から自分のSDGsへの貢献を可視化できるアプリは、イギリスのスタートアップも提供しています。「Tred(トレッド)」といって、自分が買ったものがどのぐらいのCO2を排出しているかが分かるアプリです。「タクシーに乗ったら急にCO2排出量が上がったから、次は歩こう」「製造過程でCO2の排出量が多い食品を買いすぎたから、次の買い物は気をつけよう」など、SDGs意識を高められるのがポイントです。環境意識の高い海外のデジタルネイティブ世代では、グリーンフィンテックはもう当たり前になりつつあります。
日本でもグリーンフィンテックは推進する方向で、東京都はデジタルとグリーンをキーワードとする「『国際金融都市・東京』構想2.0」を掲げています。今後、グリーンフィンテックはITの中でも成長が期待される分野であることは間違いありません。
連帯協力型フィンテック ── 絆とお得を両立させる
グリーンフィンテックもそうですが、「いいことをしたい」というDNAをとらえるサービスは今、かなり増えてきています。アメリカの住宅用家財保険サービスの「Lemonade(レモネード)」もそのひとつです。この保険はまず、アプリのユーザビリティが秀逸です。顧客とのやりとりはすべてAIやチャットボットが行い、保険金の支払いは最短3分。保険金請求手続きのストレスを徹底的になくしています。
ただ、相手が機械で保険金もすぐ下りるとなると、不正請求が増えるリスクもあります。そこでLemonadeが作ったのが、連帯協力という仕組みです。どんな仕組みかというと、まず加入時に複数人のグループを作成。1年間、誰も保険金を請求しなければ翌年は全員分の保険料がディスカウントされます。さらに、使わなかった保険料の一部はチャリティ団体に寄付されるのです。このチャリティ団体は加入者が契約時に自分の意思で指定します。自分のリスクに備えるというだけでなく、寄付という社会貢献もセットで実現できる。これがこのソーシャルインシュアランスの仕組みです。
「いいことをしたい」「仲間に迷惑をかけたくない」「安くなるなら嬉しい」という気持ちは、誰もが持っています。こうした仕組みがあることで、家財を大切に扱うようになり、自然とモラルハザードを防げるというわけです。グリーンフィンテックと同様に、この保険を選ぶこと自体に意識の高さが表れる側面もあります。実際、この新しい保険スタイルはアメリカで急速に広がり、2020年には上場。ソフトバンクも出資しています。
金融教育フィンテック ── 子どもが自らお金を学ぶ時代へ
私も注目しているフィンテックに、アメリカ発の「Greenlight(グリーンライト)」があります。親が管理できる子ども向けのデビットカードで、飛躍的に成長し、スタートアップの中でもごくまれな、評価額23億ドル以上を誇るユニコーン企業となりました。フィンテックは先行投資の費用が莫大にかかるビジネスモデルですが、資金調達額も数百億円規模と桁違いです。
日本では親子でお金の話をすることはあまりありませんが、アメリカでは盛んです。お金は自立に不可欠であり、一生つきあうものだからという認識があるからです。DNA的欲求のひとつに、親は自分の子には幸せに生きてほしいと願う気持ちがありますが、Greenlightはここをとらえたフィンテックといえます。
Greenlightもユーザビリティが秀逸です。基本的な使い方は、アカウントを登録すると、まずデビットカードが発行されます。親は子どもにこのデビットカードを持たせてお小遣いをチャージします。カードはアプリと連携しているので、親は子どものお金の使い方を追跡・管理できる仕組みです。
ポイントは親子でお金の話が自然とでき、子どももお金を主体的に学べることです。子どもがアプリ内のお手伝いリストからお手伝いを実践したら、親からお金がオンラインで振り込まれる。自分で貯めたお金をアプリ内から好きな団体に寄付することも可能です。単利や複利についてもアプリで学べ、実際に用意されている銘柄に少額で投資することもできます。小さいうちから稼ぐ、使う、増やすといった基本的なパーソナルファイナンスを、すべて実体験で学べるというのが非常に画期的だと思います。親側も子がどのようにお金を使うか管理でき、子が使える店を制限することもできるので安心です。
投資や寄付などお金に対する考え方を親子で一緒に学んでいけるフィンテックは、これまでほとんどありませんでした。Greenlightは子の幸せを願うというDNA的欲求と、テクノロジー、ユーザビリティを高いレベルで融合させているので、またたくまにアメリカの家庭に広がっていったのです。
GameFi ── ゲームでお金を稼ぐ
最後に、最近注目を集めているGameFi(ゲームファイ)についてもご紹介しましょう。これは、フィンテックサービスやアプリの名称ではなく、ゲームとファイナンスを組み合わせた造語です。「Play to Earn」、つまりゲームをしてお金を稼ぐという新しいカテゴリーです。具体的にはユーザーはNFTのゲームをプレイすることで、実際に暗号資産を稼ぐことができます。
たとえば、シンガポールのデジタルエンターテイメントアセットというベンチャー企業が運営する「JobTribes(ジョブトライブス)」は、無料で遊ぶことができるカードバトル型ゲームです。カードごとに強さの違いがあり、手持ち札は対戦相手、自分ともにそれぞれ6枚。対戦相手を倒したらコインが手に入ります。そのコインを会社が発行する暗号資産に交換することで、お金が入る仕組みです。
運営側がお金を払っていたら、会社は赤字では? と思われるかもしれませんが、多くの人がゲームに参加し、アイテム購入などの目的でコインが各取引所で購入されるので、それが儲けになるのです。もちろん、強いカードの販売も行っているので、課金も見込めます。
ユーザーはゲーム内で得た暗号資産を、交換業者を通じてリアルな世界のお金に換えることもできます。実際、ゲームの世界でお金を稼ぎ、そのお金をリアルの世界の生活費にするプレイヤーも現れています。世界的に人気のあるゲームとしては、「Axie Infinity(アクシーインフィニティ)」や「Sorare(ソラーレ)」、「Crypto Spells(クリプトスペルズ)」などがあります。これらGameFiのプラットフォームは主にメタバースとなるため、GameFiの人気が出ればメタバースも暗号資産も、ますます広がっていくでしょう。
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