本記事は、児玉隆洋氏の著書『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています
お金のスキルとは「投資のスキル」ではない
人口減や少子高齢化で、経済的にあまり明るい未来を描けない日本。一方で、お金そのものの姿形が大きく変わっていく時代の中、私たちはこれまで持っていたお金に対する考え方や常識を、一度見直す必要が出てきています。黙っていても右肩上がりで給料が上がっていくことはなくなり、手取りは減少。少なくとも貯金だけ頑張ればなんとかなる時代ではなくなったのです。
では、とにかく投資を始めればいいのかというと、そうではありません。よくそのように勘違いされる人が多いのですが、お金のスキルとは投資のスキルではありません。たとえば結婚、転職など人生を見通すライフプランニング。家計のキャッシュフローを適切に回せるパーソナルファイナンス。保険のこと。住宅ローンのこと。詐欺に引っかからない知識を学ぶこと。全部やらないと意味がありません。投資のスキルもたしかに必要ですが、身につけたいお金のスキルの中のひとつにすぎないのです。
たとえば、投資でいくらお金を増やしても詐欺に引っかかったらどうしようもありません。いくら稼いでも、毎月の家計管理が疎かで赤字を出していたら破綻します。基本的な知識がないために、もうすでに何百万円も損しているかもしれません。大きなルートを間違えると軌道修正は難しくなるので、基本的なお金のスキルは誰もが備える必要があります。
お金は姿形が変わっても、誰もが一生つきあうものです。知識の有無が差を生むシーンは人生で数多くあります。たとえば、毎日の買い物で払っている消費税。住宅の購入にももちろんかかります。当然、10%です。5,000万円の新築マンションを買うなら、消費税だけでプラス500万円もかかることになります。
では、築1年の中古マンションを個人から5,000万円で買う場合、物件価格にかかる消費税はいくらだと思いますか? これは0円です。理由は、消費税は企業などの課税業者に対しかかるものだから。中古マンションは個人から個人に渡るものなので、消費税はかからないのです。ちなみに土地の購入において土地そのものに消費税はかかりません。
ここで少しだけお金のスキルの具体例をお伝えします。中古マンションの売主が個人であれば基本消費税はかかりませんが、企業が売主の場合には消費税が課税されます。そしてややこしいのは、現在は税込みの価格表示が原則となっているので価格を見ても消費税が課税される物件なのかが分からないことです。
では、どこで課税対象か(個人が売主か、企業が売主か)を調べるかと言いますと、取引態様欄に書いてあります。ここに企業名が入っていたら消費税がかかってきますし、「代理」「媒介」などと記載されていたら個人が売主の場合が多いです。不動産担当者に直接聞いてみると教えてくれます。数百万円の差になりますので臆せず聞きましょう。また、売主が個人の中古物件であっても、それが家賃収入を得ることを目的とした投資用不動産だった場合には事業活動に該当するため、消費税の対象となる場合があるので注意が必要です。
では、お金のスキルとは消費税がかからなくてお得な中古マンションを買うことかというと、それは違います。中古マンションは消費税がかからないから500万円の差が出る。このことをまず知っておく。そのうえで自分の価値観で判断する。知ったうえで選択できること、これがお金のスキルです。
お金のスキルは知識を学ぶことだけではありません。知識があるのと、それを使ってお金を実際に動かしていくのはまた別です。投資についても、分散投資がいいということは知っていても、実際に行っている人はどのぐらいいるでしょうか。ほとんどの人が円の預金に偏っているのではないかと思います。それは食べなければ痩せると知っていながら、寝る前にカップラーメンやお菓子を食べているようなものです。
お金の知識はもちろん必要です。ですが、これからより大切になってくるのは、その知識を使って自分の頭で考え、判断し、実際に動かしていくこと。つまり、実践です。お金のテクニカルな部分については専門の書籍もたくさんありますので、テクノロジーで急速に進化する未来を乗り越えていくための、基礎となる新しいお金のスキルについてお伝えします。
お金とはそもそも何か
ところで、そもそもお金とはなんなのでしょうか。お金の始まりは貝殻でした。それ以前の人類は物々交換で生活に必要なものを手に入れていました。つまりお金がなくても生きていけたのです。むしろその時代のほうが人類の歴史から見るとはるかに長いのです。
ですが、人類はお金を発明しました。物々交換では不便になり、貝殻を「信用」することで肉や魚と交換するシステムを考案します。お金という、価値の尺度を測る物差しが生まれ、より自由に幅広く欲しい物を得ることができるようになりました。私はここにお金の本質があると思います。
それは、お金は人生を豊かにする道具であるということです。物と交換し、自分の暮らしを豊かにする手段です。しかし、言い換えれば道具でしかない。貝殻をいくら持っていても所詮は貝殻です。お金をたくさん持っていることと、その人の人生が幸せかどうかはイコールではありません。ここを間違えると、道具でしかないお金にしばられ、道具のために生きてしまうことになるので、何度でも繰り返しお伝えしたいです。
iPhoneを開発したあのスティーブ・ジョブズ※44もこんな言葉を残しています。「墓場で一番の金持ちになることは、私にとっては重要ではない。ただ、毎日夜眠るときに、我々は素晴らしいことをしたと言えることが重要だ」と。お金に振り回されてしまうと目的を見失います。「お金持ちになりたい」と思いすぎて、お金を増やすことだけが目的になってしまうのです。そうではなく、お金を使って自分がたどり着きたい目的地に行くことが重要。お金はそのためのガソリンです。お金に振り回されるとは、ガソリンだけはたくさんあるのに、目的地を忘れてスタート地点から動かない車に乗っているようなものなのです。
※44:アップル創業者。Mac、iPod、iPhone、iPadなど画期的な製品を世に送り出す。2011年死去
※画像をクリックするとAmazonに飛びます