本記事は、児玉隆洋氏の著書『未来のお金の稼ぎ方 お金が増えれば人生は変わる』(幻冬舎)の中から一部を抜粋・編集しています
お金のパラダイムシフトに弱い日本
テクノロジーの進化でお金の形が変わり、使い方も変わる。Web3への移行など、急速に暮らしや社会が変わろうという今、懸念されるのが日本の金融リテラシーの低さです。日本は残念ながら金融教育もIT化もとても遅れています。特に金融リテラシーについては、このままでは、世界との差がますます開いてしまうのではないかと、とても危惧しています。
その背景としてあるのが、「お金のことを堂々と話すのはタブーである」という文化です。海外のように家族や友だちとお金についてオープンに話す習慣は、日本にはありません。私も子どもの頃に親とお金の話をした記憶はほとんどありません。
先日も書店でこんな光景を見かけました。中学生ぐらいの女の子が「このお金の本、読んでみたい。私もお金のこと知りたい!」とある書籍を指差していたのですが、親御さんらしき女性は「子どもがそんなお金、お金言わないの」とたしなめていたのです。おそらく、この女性も親世代から「お金のことを口にするのは、あまりいいことではない」と教えられてきたのでしょう。
日本には、お金のことをちゃんと知りたいと思っているのに、どこかそれをオープンにできない空気があります。そして、金融教育を受ける機会もありませんでした。実際、金融庁の調査※12では、金融教育を行うべきと思う人は67.2%いるのに対し、実際受けたことがあると回答した人は8.5%しかいないのです。これではリテラシーが上がるはずはありません。
※12:金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査2019年」より。調査対象は全国の18歳~79歳
もうひとつ、日本の金融リテラシーの遅れには、先の太平洋戦争も影響しています。戦争中、このような標語があったのをご存知でしょうか。「嬉しいな僕の貯金が弾になる」。これは戦費のために、貯金することを奨励する標語です。貯めたお金は国に差し出し、戦争に使われたのです。今では考えられない感覚ですが、当時はそれが当たり前でした。
その後、戦争が終わっても、昔は今のようにインターネットもなく、情報は制限されていました。一般市民はまだ自由に学べる環境もなかったため、お金については戦時中の貯金をよしとするマインドのまま来てしまった。それを証明するのが日本の家計の預金率の高さです。
現在、家庭の資産に占める預金の割合は先進国の中で日本がダントツに高くなっています。※13日本は資産の50%以上を現金・預金が占めているのに対し、ユーロエリアは34.3%、アメリカは13.3%。株式投資で見ると、日本は10%しかありませんが、ユーロエリアは18.2%、アメリカは37.8%です。日本は他の先進国に比べて「投資より貯蓄を重視」する姿勢が明らかに強いのです。
※13:2021年8月に日本銀行調査統計局が発表した「資金循環の日米欧比較」より
しかし、少しお金のことを勉強すると分かるのですが、このように預金という形で自国の通貨に資産が偏るのは、実はリスクでもあります。ジンバブエの例もあるようにハイパーインフレに入った場合、自国通貨しか資産がないのは危険です。預金を信奉しすぎるのも金融教育の遅れの表れのひとつ。お金のスキルがないために、お金について考えるのが面倒で、思考が停止している状態だといえると思います。
ですが、金融教育が遅れているから、金融リテラシーが低いからといって、お金で失敗しても誰も責任はとってくれません。自分の人生を豊かにするのも、貧しくするのも自己責任。つまり、お金のスキル次第です。これから始まる変革の時代は、「お金についてよく分からない」人を狙って、さらに詐欺や悪徳な金融商品が増えてくることも予想できます。金融庁もパーソナルファイナンスを学ぶ必要性を、大人だけでなく小中学生、高校生に向けても、幅広く訴えています。※14「お金のことを口にするのは恥ずかしい」などと言っている場合ではないのです。
※14:「基礎から学べる金融ガイド」「新しい『お金』の授業」など、金融リテラシー向上への取り組みを実施
ついに、金融教育の幕が上がった
金融教育について遅れをとっている日本ですが、2022年4月、時代が動きました。高校での金融教育授業の必修化※15です。高校生はこれから授業でパーソナルファイナンスを学びます。内容は「家計管理」や「ライフプランニング」に始まり、「保険」や「運用による資産形成」など、幅広く網羅されています。小学校では、プログラミングの授業も始まっており、若いうちからテクノロジーやお金について学べる環境ができたことは、個人的にとても喜ばしいことだと思っています。デジタルネイティブ兼お金ネイティブの誕生です。
※15:2022年4月より高校の家庭科で必修化。文科省・学習指導要領の改訂で「預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れ」ることが盛り込まれた
あと数年もすれば、基本的な金融リテラシーを身につけた、お金に強い世代が社会に出てくるでしょう。学校で習えば、お金についてもオープンに話しやすい空気になります。今の10代が親になる頃には、もう子どもに「お金、お金言わないの」などと言うこともなくなるかもしれません。
一方、金融教育を学校でほとんど受けてこなかった私たちはどうしたらよいのでしょうか。それは自分で学ぶしかありません。幸い、インターネットが発達し、情報が民主化された今は、YouTubeなどインターネットに知りたい情報が溢れています。学ぼうと思えば、いつでも学べる環境はあります。むしろ情報が溢れすぎて、詐欺目的の情報も多いため、取捨選択するスキルは必要ですが、戦後の過渡期に比べたら、今はずっと恵まれているのです。
大切なのは行動に移すこと。まず知識を持つことです。
求められる「情報の中立性」
お金について学んでいくうえで、注意したいのが情報の中立性です。中立性とはフェアであるかどうかです。私たちは情報の「出口」をよく見る必要があります。出口に相手が売りたい商品がある場合、その情報は商品を売るために都合よく偏っていることも多いので、注意が必要です。
私もお金の勉強を始めた頃、お金のセミナーやファイナンシャルプランナーに相談に行きましたが、最後になぜか投資用のワンルームマンションの購入をすすめられたり、保険を紹介されたりすることがありました。そういう商品を扱う企業のセミナーや講師だったのです。
今思えば相手もビジネスなので、当然といえば当然ですし、もちろん悪いことをしているわけではありませんが、金融リテラシーがなかった頃はそこに気づけませんでした。妙に納得してしまい、あと少しで契約しそうになって、あわてて帰ったこともあります。こうしたケースは、私が運営するお金のトレーニングスタジオ「ABCash」に通う生徒さんの話を聞いても、よくあるようです。私は自分の無知ゆえに相手に都合のいい商品を買ってしまいそうになった経験もあり、ABCashを始める際は、金融商品は一切売るまいと決めました。完全に中立な情報、立場を貫く形で金融教育事業を行おうと決意したのです。
インターネット上の情報の中立性については、ミレニアル世代以降はとても敏感です。10代からスマートフォンに触れてきたデジタルネイティブ世代にとっては、むしろその情報が「#PR」案件かどうか、真っ先にチェックしているぐらいでしょう。オリエンタルラジオの中田敦彦さんは、自身のYouTubeチャンネル(『中田敦彦のYouTube大学』)で「私、これを紹介しても1円も入りませんから!」とよくお話しされていますが、あれはまさに中立な情報を求める視聴者を意識している証しだと思います。
ただ、金融やお金についてはなぜか「#PR」の注意が抜け落ちてしまいやすい。それはお金のスキルが弱いためです。そこだけ気をつけてほしいと思います。
もうひとつ、これからお金のスキルを学ぶうえで覚えておいてほしいのは、親世代の偏った意見を鵜呑みにしないということ。親世代はお金の教育や情報にあまり触れてきていません。株、債券、暗号資産、デジタル通貨、パチンコ、ギャンブル、宝くじ……が同列で認識されていることも多く、お金のことを聞いても、「投資はギャンブルだからやめなさい」など、極端に偏った意見が返ってきてしまうこともあります。親が言うから、人生の先輩のアドバイスだから、とそのまま受け取らないようにしてください。
スマートフォンの使い方は私たちのほうが詳しいのと同じで、親から今の時代に即した答えをもらうのは難しいです。それは育った時代が違うから。むしろお金のスキルについては、スマートフォンの使い方を教えるように、皆さんが両親や祖父母に教えてあげてください。
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